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「チャネルハックより100%顧客にフォーカスしたインサイトの追求」北欧、暮らしの道具店の強みの源泉とは

株式会社クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、SNSをはじめとした各チャネルの総フォロワー数が480万人以上を誇る人気のD2Cブランドだ。
クラシコム主催のオンラインイベント・クラシコムサロン第22弾では、登壇者として青木耕平さん(クラシコム代表取締役)、高山達哉さん(クラシコム取締役, 事業開発部部長)、モデレーターとして、すがけんこと菅原健一さん(Appify Technologies CVO)が参加し「北欧、暮らしの道具店」がなぜここまで顧客の心をつかみ続けるのか、その強みの源泉を掘り下げていった。

顧客に100%フォーカスすることから始まる

すがけん
クラシコムの成長を見ていると、これまでの国内のD2Cとは違うなと感じるところがいくつかあります。下の図でいうと、普通のD2CブランドではインスタやYoutubeといった「チャネルをいかにハックするか」という話に偏りがちで、顧客インサイトビジネスモデルを掘り下げることが十分にできていないんじゃないかなと思うんです。

すがけん
一方、クラシコムではこの3つがうまく回ってどんどん成長している。この点について青木さんに伺いたいのですが、これまでを振り返ってどういったことに重きを置いてやってきたんでしょうか?

青木
もともと僕たち自身、小売業をやっていたわけでもアパレルやインテリアの専門家だったわけでもないところからスタートしたんですね。なので事業を始めるきっかけとして「自分たちがどういうものが欲しいか」というところから始めたんです。だけれど、本当にそれが他の人も欲しいのかといわれると自信が無い。

だからこそ、自分たちが欲しいと思うものを顧客に正面からぶつけて、そこからのフィードバックを得ながら改善したり、新しい機会を見つけたりということをずっと繰り返してきました。この図でいうと、まず顧客インサイトの追求があって、チャネルの話はインサイトから生まれてきたんですよね。

青木さん

現在121万フォロワーを有するインスタを始めたきっかけ

すがけん
「北欧、暮らしの道具店」のインスタのフォロワーは現在120万人以上ですが、これはどのようにして始まったんですか?

青木
インスタを始めた2014年くらいを思い返すと、最初から「チャネルとしてインスタが使えそうだ」と思っていたわけではなかったですね。始めたきっかけは、当時まだインスタを運用していなかったにも関わらず、すでに400件くらいハッシュタグで「北欧、暮らしの道具店」の投稿があったんですよ。そこから、お客さんはインスタを使っているんだというインサイトを得て、そのお客さんに対してできることないかなという流れでインスタを始めました。

実は最初のころは、どれくらい売上につながるかも未知数だったんでインスタを運用していくことに反対していたんです。だけど、社員の一人が「ここにお客さんがいるならどうしてもやりたい!」っていうから(笑)

これまでを振り返っても、常に顧客インサイトっていうところにまずフォーカスして、それで見つけたチャンネルに対するアプローチがあって、それを成り立たせるビジネスモデルはどうあるべきかという考え方をしてきたように思いますね。

高山
今でいうとYoutubeの登録者数が伸びていて、採用プロセスで応募してくださる方の中にも「Youtubeで『北欧、暮らしの道具店』を知りました」という人も増えてきています。こういう方たちの声から、いまチャネルとして何が盛り上がっているかを定性的に把握していますね。

高山さん

青木
採用の話でいうと、だいたい年間1,000人ぐらいの方からご応募いただくんですよ。そのときに動機などについてエッセイを書いていただくんですけど、その年ごとに、どのチャネルから僕たちのことを知って、どこでより深くファンになってくださったかというのが変わるんですね。

ある時期は、インスタで知ってという方が多かったですが、今では圧倒的にYouTubeで知ってPodcastでファンになってくださっている方が多い。そういうインサイトも間接的にではありますが仮説の精度を高めてくれています。

商品ではなくコンテンツから始める理由

すがけん
おもしろいなと思うのは、クラシコムってまず「商品をつくろう・売ろう」というところから始まるんじゃなくて、記事や動画、音声配信なんかのコンテンツを先につくっていくことなんですよね。最初にコンテンツを作り始めたきっかけってなんだったんですか。

青木
「北欧、暮らしの道具店」は、もともと数が少ない北欧ヴィンテージの商品を売っていたんです。一週間に一回、新商品を公開していたのですが、人気商品はその日のうちに売り切れてしまう。せっかくお客さんがサイトを訪れてくれたのに、商品が売り切れてばかりだと申し訳ないなと思って。そういう方たちにも楽しんでもらえるようにコンテンツを作り始めました。

そうすると、商品を売るよりも先にコンテンツを通じてお客さんとの関係性ができるんですよね。コンテンツに対するリアクションから、今どういうものが求められているのかという仮説の精度を上げていく。その精度が十分に高まったタイミングで、取り扱っている商品の幅を広げたり、オリジナル商品を発売したりというのを段階的にやっています。

すがけん
「北欧、暮らしの道具店」って「暮らしを豊かにしたい」というような抽象的なブランドを持っていて、それをコンテンツとして表現しているじゃないですか。そういうのを求める人って、以前は40代とか50代の方たちだったと思うんです。だけどコンテンツが最初にあることで、今では上は60代、70代、さらに20〜30代の方も含めて、より多くの方と繋がりをつくっていけていますよね。

すがけん

社員の80%が元お客さんだからこその強み

すがけん
クラシコムが、これまでどんなことをやってきたのかを簡単にまとめたのが下のチャートです。例えば、お客さんとのエンゲージメントが高いから、その中から入社してくださる人が出てきたりというのもクラシコムの特徴ですよね。現在は80%の社員が元お客さんで、なんなら今もお客さんでもあるかもしれない。

青木
そうですね。だから社販を抑えるのが大変なんですよ(笑)人気商品で売り切りが予測されるものは、初回ロットを買わないようにって何回も言っています。

すがけん
おもしろいですね。元お客さんだった社員って、迷ったときに「自分がお客さんだったときにやってほしいこと」っていう強烈な判断軸がありますよね。

顧客エンゲージメントが高いからこそ、そこから入社したいとまで思う方が出てくださるし、元お客さんが社員で入ってくれるからこそ、さらにエンゲージメントが高まるというスパイラルの関係ですよね。

芯を捉えた顧客インサイトを掴むための方法

すがけん
ここまでの話で「100%顧客にフォーカスする」という話がたびたび出ていますが、実際に顧客インサイトを捉えるためにはどのようなことを大切にしているんですか。

青木
コンテンツとか商品を100%顧客の満足のために企画することって、実はかなり難しいと思うんですよね。例えば、通常の小売店に並ぶ商品を開発しようと思うと、顧客に刺さるかどうか以前にまず棚に並ぶか、あるいはいかにして目立つかを考えなくてはいけない。あるいはインターネット上でやるにしても、SEOを気にしたりSNSのアルゴリズムを気にしたり。

これ自体は悪いことではないんですが、「真の顧客インサイトを得る」という観点で僕たちが最も重視しているのは「100%顧客にフォーカスして、まっすぐ商品やコンテンツを作ること」なんです。そうすることによって初めて、顧客の本当のリアクションが返ってくる。

例えばSEOやSNSでバズることに配慮すると、その配慮した分だけ顧客の情報が減ってしまって、フィードバックの中にGoogleアルゴリズムやSNSの生態系を正しく理解するための情報が混じってくる。一時的にバズってたくさんの人にリーチできても肝心の商品を買ってもらえないっていう現象は、結局は真の顧客インサイトを掴めてないからだと思うんですよね。

顧客の真のインサイトを理解をするためには、まずは現時点でお客さんにとってこれがベストだと考えているコンテンツをぶつける。そして、そこからのフィードバックを得て、修正してっていうプロセスの繰り返しこそが重要なんですよね。

規模を拡大しながらこれをやっていくっていうのはすごく難易度が高いんですけど、これができるとインサイトが掴めることが当然っていう状況になってきます。

すがけん
たしかにそれは簡単ではないですよね。僕が以前、広告の仕事をしていたときに感じていたのは、さっき青木さんがおっしゃったようにいつの間にか「真の顧客インサイトの探求」とは別の目的になっちゃうんですよね。あとは、みんな初速でたくさん売りたいと思ってしまう。クラシコムの場合は、顧客インサイトをベースにして商品をどんどん良くしていこうという発想なんですね。

青木
そうですね。だからこそ最初の入口の目的感をスケールや成長じゃなくて「真理の探求」に置いているんです。そうすると、顧客インサイトという真理がつかめちゃえば正直あとはどうにでもなる。

真理の探究を妨げるのが、無理な目標だったりインサイト以外の要素にフォーカスしてしまうことなんですよね。真理の探求以外のことに配慮したコンテンツ作りや商品作りをしていると、結局どこまでいってもいまいちインサイトがつかめないまま、ふわふわっと大きくなってしまう。

企画がうまくいかなかったとしても「真理の探究」という面では、それも大きな成功なんですよね。顧客はこれは望んでなかったんだってことがひとつの真理なので。だからこそ、まずは顧客にまっすぐコンテンツをぶつける、そして顧客の本当のリアクションからインサイトを得るというプロセスが一番重要です。

青木さん

ノルマを与えないから100%顧客にフォーカスできる

青木
顧客に100%フォーカスするために、もう一つ僕たちがこだわってることは、全ての職種にノルマを与えないってことなんですよね。そうなると、社内で評価を上げるとか目標達成するためのハックみたいのは一切行われなくなって「これだったらお客さんが喜ぶんじゃないか」っていうモチベーションだけでやるようになる。そうすると社内で競争しなくなるので、見つけたインサイトを惜しみなく他の人にもシェアするんですよね。

すがけん
数字の奪い合いじゃないんですね。ちなみに数字的にも伸ばしたいと思っているのか、お客さんに喜んでもらうことだけを考えてやっているのかどっちなんですか?

青木
もちろん、数字的な喜びはすごくあるんですよ。みんな数字としても伸ばしたいと思っている。ただ伸びないときに、無理しないと伸びないんだったらもうしょうがないよねってなっちゃうんですよね。伸びるとこ見つかったらまた伸びるよね、みたいな。

すがけん
割と早めに諦めるやり方って、青木さんの特徴ですよね。

青木
たしかに割とすぐ諦めちゃいますね。あんまりつらくなるまで頑張らなくてもいいかなと思っていて。ハックしてまで伸ばそうとは思わないというか。

顧客インサイトって「絞られてない雑巾を探すこと」だと思うんですよね。弱い力でキュッと絞っただけで水がジャバって出るみたいな。だけどハックっていうのは、絞った後の雑巾を特殊な方法でぎゅうぎゅうに絞ったらまだ出たよっていうことだと思って。

別にハックが悪いとは思わないんだけど、僕たちはビシャビシャの雑巾に気づくっていうことにフォーカスしたい。無理してまで頑張っているとそのことに気づけなくなっちゃうんすよね。

すがけん
ここまで話していただいたプロセスはすごく重要ですよね。そもそもコンテンツをつくっているからこそ見込み顧客ができて、そこから正しいインサイトを得て商品を作るからお客さんに支持されてる。ここが普通のD2Cとは違う「北欧、暮らしの道具店」の強みの源泉なんですね。

「北欧、暮らしの道具店」がD2Cの先に見据えているもの

すがけん
最後のトークテーマとして、「北欧、暮らしの道具店」がD2Cの先に見据えているものというタイトルでスライドをつくっていただきました。青木さん、これについてご説明していただいてもいいですか。

青木
今、我々がやっているビジネスを説明する時に、「温泉リゾートのデベロッパー」という例を使うんですね。それを表したのが上の図になります。

最初にやるべきことは、「浸かりたいと思う温泉」を掘ること。すなわち、その「世界観に浸りたいと思ってもらうコンテンツ」を作り続けること。そこがしっかりしているから、次の事業機会が生まれてくるんですよね。

温泉に浸かった体験がすごく良ければ、泊まりたいというニーズに対してホテルができたり、飲食店ができたりといった事業機会が生まれますよね。素敵な体験を持ち帰りたいというニーズに対してはお土産屋さんができたり。

でも、肝心の温泉が枯れちゃったら、どんなに素晴らしいホテルとお土産屋さんがあっても全然成り立たない。温泉を最高の体験にし続けていくことによって、周辺にいろんな事業機会ができていく。

我々としては、この温泉街をデベロップメントするように「北欧、暮らしの道具店」というプラットフォームを育成していこうというのが今のスタンスです。

すがけん
そこに温泉が沸いていれば、最初はたまたま立ち寄って足湯から始まった人が、ある時から一泊して楽しむようになることだってありますよね。だからやっぱり、事業機会をつくっていくためには世界観やコンテンツが大事なんですね。

青木
そうですね。温泉リゾートでいうと、どんなにホテルや飲食店が素晴らしくても、肝心の温泉が枯れていたら、お客さんからするとその土地に足を運ぶ動機がないんですよね。

すがけん
広告で頭打ちになってる人に割とそういうパターンが多いかもしれませんね。お客さんにとって動機がない商品を、広告をかけてなんとか売ろうとする。だから当然、先細りになっていくじゃないですか。

でも「北欧、暮らしの道具店」は最初にコンテンツを作って、お客さんにとって足を運んでもらう動機を生み出している。そのコンテンツから生まれる「フィットする暮らし」という世界観に共感する人たちがどんどん増えて、手段として商品が売れてくってことなんですね。

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