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【パニック】種類別、対応方法のまとめ

人を叩いたり、泣きわめいたりする形は、外から見ても「パニックだな」と判断しやすいですが、それ以外にもパニックの形はあるのでしょうか?

※パニックは、発達障がいのお子さんが見せることのある姿で、今回は「集団生活での発達障がいの子への対応」という切り口で記事を書いています。ただし、パニックが見られたからといって発達障がいというわけでも、発達障がいの子が全てパニックを起こすわけではない点は、ご理解下さい。

パニックとは、どのような状態を指すのか

多くの人は、子どもがワー!と叫んだり、床にガンガンと頭を打ち付けてる状態を見た時に、こういった「普通の行動ではないこと」をパニックだと思うのではないでしょうか。

しかし、実は、パニックは1つ1つの行動を指すわけではない、のです。

パニックは、脳が混乱している状態を指します。

言わずもがな、人間の行動は、脳が重要な役割を果たします。通常、落ち着いている時には、脳は周りの情報を集約し、理解し、記憶から適切な情報を引っ張り出し、そして指令を出すという、一連の動きを一瞬で行なっています。

その中のどこかが上手く使えなくなると、情報が上手く集められなかったり、スムーズに理解できなかったり、過去の記憶を上手く引き出せなくなったり、脳が指令を出せたとしても上手く行動に移せなかったりということが起きます。そういった、脳の一連の流れが悪くなってる状態をパニックと言います。

【①かたまるタイプ】の捉え方


脳が混乱している状態がパニックの定義だとすると、表面に出てる行動は、叫んだり叩いたりする以外にも様々、ということになります。

例えば、行動が全く取れなくなることも、1種のパニック状態という可能性があります。

子ども本人が話してくれた、パニックに関するエピソードをご紹介します。

ジュースを飲もうとして、コップにジュースを入れようとしたら、コップが倒れました。周囲の人は「大変だ!拭かなきゃ!」となり、本人としても周囲の人が言ってることは分かるため、自分でも何とかしたいと思っているのだけど、体がぴくりとも動かなくなったそうです。本人は、体が動かなくなったことで、ますます焦ってしまいます。その時に、身近な人が近づいてきて、「もう、拭かなきゃだめじゃない。」と指摘してくると、拭くことは出来ないけど、「そんなこと分かってるよ」と、手を払うことはできたそうなのです。


このエピソードは、外から見ると、自分がジュースをこぼした張本人なのに人に当たった、と解釈される可能性があります。でも、実は彼が見てる世界は違っていました。理屈では分かっているものの、上手く動けない時に、指摘を受けると、こういったことが起こりやすいと考えられます。

また、パニックの形は同じかたまるタイプですが、対応が異なった例もご紹介します。

特別支援学級の子どもが、給食の時に牛乳瓶のふたが上手くとれず、ふたを取ろうとした格好で止まっていました。多くの大人は、「ふたを自分で開けるの当たり前だからやりなさい。」と声かけをすると思うのですが、先生はパニックの仕組みが分かる人だったので「ふた、開けてあげるね。」と言って手伝ってあげたそうです。すると、子どもは再び動き出せました。

これは、つっかえてる所を手伝ってあげれば、脳の働かない状態を回復できる、ということを示しています。

<<パニック時に「何を手伝って欲しいか」を言えるのか??>>
時々、パニックであるにもかかわらず、「何をしてほしいか言わないと手伝えません」という指導方針を聞くことがあります。例えば、上記の場合であれば、「何がしてほしいの?」と尋ねたり、「ふたが開けれません。取ってください、と言って。」のように要求表現を求める形です。

でも、よく考えると、行動が止まるより前に頭の中で言葉が止まっています。脳の作用の中では、話し言葉は行動を起こすよりも、高次機能なので、行動すらも止まっている子どもが言葉に出せるわけがないのです。

その証拠に、話し言葉がいつも本人が使えているものと違っていることが、パニックの兆候だったりします。

そして、言葉を上手く使えないことにはレベルがあり、言葉が出ず黙る形が一番分かりやすいのですが、同じ言葉(セリフ)の繰り返ししか言えないこともあります。「分からないんだよ、分からないんだよ、分からないんだよ。」のような形です。これは、エコラリアとは違い、その単語以外上手く引き出せなくなってる状態と捉えられます。

ですから、黙っていたり、同じ言葉を繰り返し使ってる時は、調子が悪いかな?と疑った方がいいと思います。そういう状態の時に、言葉を要求しても難しいです。また、パニック時は、学習に1番向いてない状態です。

<<困った時に人に助けを求めることを、教えるには??>>
人に助けを求める方法を学習させるというより、「私たちは味方だよ」「敵じゃないよ」と認識してもらえれば、困った時に人を頼る習慣がついてくると思います。繰り返しになりますが、つっかえてる所を手伝ってあげるということです。

また、学習には向いていない場面と理解した上で、覚えてくれると良いなと願いも込めつつ、「ふたあけてだね。」と代弁してあげることはいいと思います。でも、子どもに確実に学習になってほしい、といった変な期待を持たない方が良いですね。

【②攻撃・暴言タイプ】の捉え方

固まるタイプではなく、「あっちいけ、死ね、消えろ」のような、パニックの時に暴言を吐くタイプの子もいます。これは、「今、大混乱しているので、僕に話しかけても上手く応対出来ません。」という意味だと捉えてあげると良いと思います。

周りの人が子どもの行動を善意に受け止めていけると、本人の記憶に残ることも善意になっていきます。だから、本人に「どうしてそんな汚い言葉を使うの?」ではなく、「今は上手くできないんだよね。」と意訳したことを返してあげると良いと思います。「落ち着いたら出来るよ」という、メッセージを本人に伝えているようで、大人が自分自身にも繰り返すような形です。

<<信頼関係もパニックを軽減させる>>
人を叩く形でパニックになる子は、発達障害のお子さんの中でも、よく人が見えてるタイプの子だと思います。

逆に言うと、「自分が困った時には、人が助けにきてくれる」という人との関係を築けていれば、先生がきたから大丈夫、となり手を出す行動までいかなくて済むこともあります。

手がでるタイプの子が、一番どういう状況で手を出しやすいを先読みした上で、最初から行動を抑制しにいくのではなく「大丈夫?先生付いてるよ。」と、励ましの言葉をかけていくと良いと思います。また、声掛けだけでは収まらないと思ったら、「先生と散歩しようかか」、「外で話を聞こうか」、という形でもいいと思います。

先生と信頼関係が出来ていると、本人不穏になっている時に、言葉にはできなくても先生を見ていることが多いです。「どうしたら良いか分からない、先生」「こいつがへんなこと言ってる、先生」のような視線をキャッチしてあげるといいですね。

本人が1番近づいてほしくない時で「もうだめ」となった時に、行動抑制をする形は、本人にとっても良い経験にならないと思います。

【③自傷行為タイプ】の捉え方

パニックの時に、頭を床に打ちつけたり、耳をバンバンと叩いたりする、自傷タイプの子もいます。その子達の特徴として、外のものを上手く操作できない子が多いと思います。発達障がいの子は、自分の好きなように玩具で遊んでいれば、ご機嫌になっていく子が多い中で、あまり物の操作に楽しみが見いだせないので、切り替える手段をもたないと思われます。

傾向としては、生活年齢や発達年齢が低い子がパニック時に自傷行為をすることが多いです。時々、年齢が大きい子で自傷行為をする子がいますが、よく見ると物でほとんど遊ばないですね(物で遊ぶような発達段階ではない)。なので、物への興味を広げたり、操作を一緒にやってみたりということを、普段の遊びや関りの中で入れていくこと自体が、自傷行為を減らすことにつながっていきます。

【④泣きタイプ】の捉え方

小さい子が、床に寝転んで足をバタバタとさせて泣いているような、イメージです。パニックの中でも最もシンプルな形で、この泣きタイプから、上記①〜③のいろいろなパニックの表現型に分かれていきます。
赤ちゃんが泣いている時には、「どうして泣いているの!」とは言わずに、ミルクをあげたり、あやしたりすると思います。まさに、そういったシンプルな対応が求められます。

【全タイプ】パニックを予防するには

もうすぐパニックになることを、周りが予想出来てるということが、一番の対策です。分かりやすい行動に変化したからパニックだと分かるのですが、実はその少し前から混乱状態は始まっていることが多いです。本人の調子の悪さを示す、小さなサインがいっぱい出ています。小さなサインの段階で介入することで、パニックの予防に繋がっていきます。

また、パニックは、実はいろんなことを長時間我慢していて、疲れてもうだめです・・・となった時に、何か一撃があることで起こることが多いのです。

その我慢だったり疲れの原因は、実は生理的なことに起因することがあるのです。園で相談受けると、給食の前の空腹時や、外にでで帰ってきた直後に、疲労や耐熱感や喉のかわきなどもあり、パニックを起こすことが多かったりします。発達障がいの子は、お腹が空いた、喉が渇いたのような、自分の生理的な変化への気づきが鈍いことが、影響していると思われます。

生理機能が不調なことに気がつかないので、夢中で遊んでいる時に飲水させようとしても「いらない」となることもあり、余計に難しいです。ですから、大人の方が見計らって、ちょっと涼しいところで遊ぼう、のように誘導していくことが大事です。

パニックが多い子は、運動機能の発達が影響?

人は歩けるようになると、危険なとこから逃げるという行動ができるようになります。混乱しやすいタイプの子は、おそらく乳児期〜幼児期前半の小さい頃に、うまく逃げられなかったと思います。発達障がいの子をみていると、困った時に、先生のところまで移動できる子は、わずかです。大体は、その場で怒ってたり、その場でワー!と騒いでたりしているので、安全な場所に移動することができなかったのだと思います。

時々、混乱すると、部屋から出ちゃう形で、逃げるのが得意な子がいますが。そういう子は、逃げることができるのは、本人のとても優れた技術だと捉えると良いと思います。


参考図書:
そうだったのか発達障害の世界/石川道子著
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%81-%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C-%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%AE%E8%82%B2%E3%81%A1%E3%82%92%E6%94%AF%E3%81%88%E3%82%8B%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%88-%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E9%81%93%E5%AD%90/dp/4805852372


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