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ベートーヴェンとマーラーの最後の曲について。

 
9月から10月にかけて、「ちえりあ」という公共施設で「大作曲家、最期の日々」という講座を行っていた。

毎週土曜日の午後、自宅からいろんなCD やパソコンを持ち込んでDJさながらに曲をかけ、作曲家が残した最後の曲をメインに彼らの人生を振り返るという2時間。取り上げたのは、モーツァルト、シューマン、ショパン、ラヴェル、それにヤナーチェク。レジュメは書いて配布していたが、基本的には頭に浮かぶことを取りとめもなくしゃべりまくるというものだった。

受講生は17人。でも休む方もいたので、だいたいいつも13~4人。できるだけ5分以内の短い曲を選ぶようにしたのだが、モーツァルトのレクイエムやシューマンの「天使の主題による変奏曲」は(抜粋したとしても)どうしても10分強かかってしまう。ラヴェルの「ボレロ」も、あのクレッシェンドを聴いて欲しいからやっぱり全曲をかけてしまう。すると、曲がかかっている間の受講生のみなさんの表情が、実に微妙なのだ。

ある人はずっと窓の外を見ている。左前方の男性は頭を落として明らかにお眠りムードだ。僕が書いたレジュメをノートに書き写している人もいた。

みんな、楽しんでいるんだろうか。趣向を凝らそうと、ショパンのワルツの聴き比べをしたり、「展覧会の絵」のプロムナードをピアノとオーケストラで聴き分けたりした。それでもやっぱり、基本構造は変わらない。

最後の曲に感じ取れるシューマンの新たな芸術性について、38歳年下の女性との恋に生きたヤナーチェクについて僕が熱く語ると、みなさんは顔を上げて小さくうなずいてくれる。でも曲をかけると胸騒ぎに襲われる。その繰り返し。

僕みたいなただの音楽マニアが語っても説得力がないんだろうか。そんなことを考えながら、全5回の講座を終えた。

最後にアンケートを書いてもらった。すると、「続きはいつですか?」「ヤナーチェクの知らない曲が聴けて良かった」「クラシックが好きになりました」という回答が。どうやら少しは楽しんでもらえたようだ。

ある紳士が教室を出る間際に僕に近づいてきて、言った。

「今度はね、ベートーヴェンとマーラーをやってくださいよ。私、好きなんです」
 

ベートーヴェン最後の作品は、弦楽五重奏曲断章ハ長調。弦楽四重奏曲第13番の「大フーガ」に代わる終楽章を書き上げた後に着手した未完の作品だ。

マーラーはおそらく交響曲第10番の第1楽章。でも手稿レベルで書き進めていた作品がほかにもあるかもしれない。

ドイツ音楽新旧巨匠の最後の作品。いい題材だと思う。

ちゃんと勉強して、来年の秋くらいにクリークホールで2時間の講座にしたいと思っている。

そのときは、コーヒーや紅茶なんかも用意するつもりだ。

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