二年目の札幌の春を迎えて。
いま、僕の中で三つのことが同時に進行している。
ひとつは、編集者としての自分。これがいちばん大きな部分を占める。
札幌で青春時代を過ごしたふたりの作曲家、早坂文雄と伊福部昭の若き日の苦悩と歓喜を描いたノンフィクション、『北の前奏曲 早坂文雄と伊福部昭の青春』は先週校了。4月26日には全国の書店に並べられる。発売された本を持って、札幌市内の各メディアを駆け回るつもりだ。若き日の早坂文雄は、どこか大泉洋に似ている。札幌のテレビ局が彼をキャスティングしてドラマ化してくれればと、夢のようなことを考えている。
『左手のフルーティスト』は無事企画会議を通過し、すでに取材を始めている。北広島市のボランティアセンターで行われたコンサートは実に心温まるものだった。密着取材中のNHKカメラクルーを横目に彼が脳卒中で倒れたときの話を聞くのはなかなかプレッシャーだったが、放映されたものが反響を呼べばこの本のチャンスも広がるかもしれない。
もうひとつは、事業者としての自分。チセムジカと新しいホール関連のことだ。
土地の仮契約は済ませた。ホールの設計も徐々に進んでいる。ピアノは彼女の知り合いに頼んだし、助成金のリストアップも抜かりない。
札幌市発寒の築50年の木造住宅をリノベーションする。地下鉄宮の沢駅から歩いて5分ほどの場所。かなりユニークなデザインの建築になるはずだ。
肝心なホールの名前も、もうすぐ決まる。ご期待あれ。
最も遅れているのが執筆者としての自分だ。
30代のころからいくつかの小説を書いては文学賞に応募してきた。当然、ものになったためしがない。だから雑誌編集部で原稿を書いたり、友だちのバンドに詞を書いたりすることで、自らの表現欲求を満たしてきた。
友人にも、僕は編集者に向いていると何度も言われた。でもやっぱり、いつか自分の本を出すという夢をあきらめられないでいる。
こんなことを書いたりすると、休む間もなくがむしゃらに仕事していると思われるかもしれない。現実は、真逆だ。世の中が休みの日は札幌郊外や旭川や釧路に行こうとしている。世の中が仕事の日は、午前中にテニスをしたり、夜から合唱の練習に行ったりしている。
札幌はあっという間に2メートルの雪が解け、埋もれていた樹々が一斉に咲き乱れようと準備を進めている。こんな素敵な瞬間に立ち会わない手はないではないか。
のんきなものだと誰かに怒られるかもしれない。でもいまはジタバタすることなく、目の前の出来事をひとつひとつ楽しみたいと思っている。
円山公園で桜と梅の同時開花を味わえる日まで、たぶんあと1か月ほどだ。