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[短編小説] 妄想

 私の日常は、妄想で溢れている。一つ事を思うと徹底的に考える。会社で事務作業をしているときも、他のことを考える。日曜日には何をしようかなとか、次はどんな本を読もうかなとか、そんなことばかり妄想している。

 妄想は現実化する。

 ある偉人の残した言葉である。私は、頭の中で自由に妄想すると、そのことが現実化するかもしれないと期待する。

 今年の六月の終わり、私は職場で外出を頼まれて年金事務所に行くことになった。頼まれた資料を取りに行くためである。外出は久しぶりだったので、場所を間違いないようにホームページで地図を確認して紙に出力て鞄に入れておいた。準備が整ったあと、会社近くの駅から地下鉄に乗り継いで、目的地の最寄り駅に着き、地上に出る。

 私は、鞄から地図を出して確認したが、説明書きを読んでもよくわからない。スマホを取り出しマップで確認した。画面で年金事務所までの道なりを辿っていくと途中に「芥川龍之介生誕の地」という場所があった。私は、その瞬間、直感が働いた。

「この場所に呼ばれている」

 頭のなかに、この言葉が浮かんだ。芥川龍之介に対してインスピレーションを感じた。

 文学の賞に、芸術性を踏まえた短編あるいは中編作品にあたえれる芥川賞というものがある。芥川龍之介の業績を記念して1935年に創設されたもで、この賞からさまざまな作家が生まれた。

 芥川賞は、作家を目指す人にとって憧れる賞である。村上春樹など芥川賞を取らなくても有名になった作家はいるが、作家として名前を売り出すために多くの人が利用している。

 この場所に行かない理由はないと思った。少し遠回りをするがこの道を通ることにした。スマホを片手に歩いてい向かって着くと、道路沿いに芥川龍之介のことをたたえる説明板があった。文章を読んで写真をとったあと目的地である年金事務所に向かった。

 私は小説を書き始めて、二年経つ。いまの私にとって、芥川賞など想像できない場所にある。小説を書く人間としてアマチュアであるし、高い段階に至っていない。だが、私は年金事務所に資料を取りに行く途中に「芥川龍之介生誕の地」に辿り着いた。

 この場所に来たのも何か意味があると思った。私は、いい予兆が起きたなと思って、この日に起きたことを、妄想していた。
                   了

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