『君に贈る火星の』(ショートショートnote杯)
あいつは酷いやつだ
部活の帰り道、いきなり追いかけてきて
『君に、贈りたいものがある』
いつもと違って気取った言い方に私は吹き出してしまった
あいつはいつもイタズラ顔で私を惑わせる
『何言ってんの、バカじゃん』
『火星の隕石だ、すげー効果あっからな』
得意気にいきなり渡された赤い石
『火星の隕石なんかあるわけないじゃん』
くれたものが火星の化石だって隕石だってなんだっていいのだ、赤面した顔を見られまいとワザと意地悪な言い方をしてしまった
『お前が悲しい時に元気付けてくれっから大事にしろよ』
あれから三年たった、あいつは赤い石を私にくれたあとすぐ消えてしまった
火星の隕石とやらは効果どころか私を泣かせてばかりだ
なんであの時火星の隕石をくれたか聞けばよかった
ありがとって素直に言えばよかった
好きだよってさりげなく伝えて私も金星のかけらでも贈ればよかった
多分あいつは火星に戻った火星人なんだ
だからまだ火星で生きていると信じて
私は今日も歩き出す
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