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読書録~判断のばらつきを科学してよりよい意思決定を目指す~Noise:A Flaw in Human judgement by Daniel Khaneman

心理学者でありながらプロスペクト理論でノーベル経済学賞を受賞したダニエルカーネマン他の新書、Noiseを読みました。

統計学やデータ分析の文脈で言われるシグナルとノイズ、そのノイズに焦点を当てた本で、意思決定の文脈での判断のばらつきがいかに大きな問題であるか、どんな対応策が考え出されてきたのかを述べています。

判断のばらつきが大きな不平等や深刻な結果をもたらす様々な例が挙げられますが、印象に残ったものだと以下があります。

- a. 難民申請の受理(同じ裁判所で、ある裁判官は88%を受理し、ある裁判官は5%のみを受理している)

- b. 指紋の判定(同じ画像について同じ専門家が判断するにもかかわらず、結果が異なる)

判断のばらつきを、①判断する人間の平均値のずれ(aのケース) ②判断する人間の中での、平均値からのずれ(bのケース)

さらに、②を

判断する人間の中での、一定の特徴(裁判官であれば、基本的に寛大な判断を下すが飲酒運転に対してとても厳しい判断を下す)によるばらつきと、それ以外のランダムなもの(たまたま前後で良いことがあり寛大な判断を下す)によるばらつきに分け、どのタイプがどれくらいばらつきを説明するかの研究結果などが議論されています。

著者は様々な人間の判断の癖(ヒューリティクスクス)について研究してきただけあり、本書のテーマとこれまでの研究の関連付けもとても面白かったです。

例えば、アンカリングと、人間はランク付けでの判断が得意だということ。

アンカリングは、直前の情報をもとに判断してしまうというもので、ワインの値段を当てる実験が有名です。学生に、自分の社会保障番号の下二桁を書き出させ、その値段でワインを買うか答えさせ、それからワインの値段を予測するようにいうと、社会保障番号の下二桁が高いグループと低いグループで有意にワインの値段の平均値が変わったそうです。

でも、例えばこれば、5本のワインを好きな順に並べてという問いであれば、1位のワイン、5位のワインで集団間にそこまでばらつきがでない可能性が高いのだそうです。

1位のワインにいくらの値段をつけるかはバラバラになるでしょうが、その値段をもとに2~5位の値段をつけると相対的な関係は一貫しているので、同じスケールに計算しなおしてスコアを出せばいいんですよね。

色々なデータを取得、分析して意思決定する仕事の人たちに得るものが沢山ありそうな本だと思いました。

そして、個人的には、ノイズの孕む危険性が広く周知され、意思決定や情報判断の文脈に上手くAIが活用されるようどんどん整備されていってほしいと思いました。

チェックリストやガイドラインに基づく判断は、一般に専門家の反発が強く、特に裁判の文脈ではそのようです。

最高裁判所の、ガイドラインに対する反発の言葉が引用されていますが、”Not as uniquely individual human beings, but as a members of faceless, undifferentiated mass to be subjected to the blind infliction"

自分と同じ罪を犯した人間が180度違う判決を受けうるのだというコストは、広く認知されていないのではいかと。

重要な判断を下す立場にある様々な人たちに広く読まれたらいいなと感じる本でした。

図書館でKindleへ借りて返済期限ぎりぎりで読み終わったため、読んでいる間にとったノートは消えてしまったのですが、、、Fast and Slowのように、紙で買って手元に置いておきたい本でした、またいつか。

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