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読書録~Good Economics for Hard Times 貧乏人の経済学の著者達の最新作を読んだ

ノーベル経済学賞を夫婦で受賞した開発経済学者のAbhijit Banerjee と Esther Dufloの最新作を読みました。移民問題と貿易に始まり、経済成長、政策、先進国で進みつつある格差拡大の問題について、経済学の研究を紹介しながらわかりやすく論じている本です。

本書の随所に出てくる、経済の硬直性(Stickiness)の話。多くの人は、たとえ自分の住んでいる地域の仕事の機会が失われても、新たな機会が生じている場所には簡単に移動しません。故に、基本的に、移民は最適な水準よりだいぶ低いラインにとどまることになりますし、(移民以前に、一つの国の中での地域間異動でも同じことがいえる)、賃金も基本的に下げることは難しいので、デフレーションになると賃金の調整が難しくなります。

富の総量が増えても、その恩恵以上に損失が大きくなってしまう人たちが発生して、そして経済の硬直性ゆえに、なんの介入もしないというのは解決にならないので、じゃあどんな介入が考えられるか、いくつかの政策介入の研究事例を本書は紹介しています。

政策介入の研究は、スケール化を考慮せずに実施されることが多く、いざ大規模運用してみると当初期待されていた効果が出なかったり、出てももの凄くインパクトが小さくなってしまったり、という問題があります。(この、スケーラビリティの問題については、Freakeconomisのこのエピソードがお勧めです。https://freakonomics.com/podcast/scalability/)

また、介入することで意図せずとも市場を悪い方にゆがめてしまこともあるので、経済学をちょこっとかじったことのある私は、政府の介入には懐疑的なイメージもどうしてもあるのですが、

スケーラビリティの研究や、色々なデータが取得、公開されることで実証経済学による検証が行われることになることで、良い介入が行われるようになっていくといいなという期待を持ちました。

社会の中であまりに格差が広がってしまうと、社会が不安定になると思います。もうここまできちゃっているアメリカで、今後どうするのがいいのか、貧困地域で開発経済学を研究する筆者の示唆でした。

ちなみに本書は、既に日本語に翻訳されているようです


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