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言いたいことも言えないPOISON、長男・バッタ編

車を降りると、長男が涙ぐんでいた。
さっきまで後部座席で、普通に話していたのに。次男と一緒に、今日課外授業で捕まえたバッタの話を楽しくしていたのに。これから、サッカーの練習に行くんだろ。そのグズグズの様子じゃ、練習にも身が入らないな。そう思い、花壇の縁に腰を下ろして話を聴いてみた。まさかそれが原因だとは、考えもしなかったよ…


ぐす…ぐす…
夕方6時前の日が落ち始めた駐車場で、涙を流す長男。このパターンは、小さい頃から何度もあった。「言いたいことが言えなかったとき」反町隆史POISON的な理由から、こうなることが多い。きっと今回もPOISONだろうな。そう予想する。
「どうした?」と聞いても、「ぐすぐす」としか答えない。言葉が顔を出す様子はない。諦めずに何度か問いかけていると、4度目ぐらいでやっと話してくれた。
「さっき学童で、鼻ぶつかった」
うん、絶対それじゃない。鼻ぶつかったのはそうかもしれんけど、涙の理由は1000割それじゃない。「鼻はたしかに赤いけど、本当は?」ときくと、「ぐぬ…」っとひるむ。確定だ。「本当は、どうして泣いてるの?」
「ぐす…ぐす…ぐすぐす」また元に戻る。埒が明かない。練習開始の時間が迫っている。探りを入れてみよう。学童から出発するとき、車に乗ったときは、まだ泣いていなかった。その後…彼の捕まえたバッタの話をしたな。虫かごに入ったバッタを、ひどくかわいがっている様子の長男に、「名前つけた?」と尋ねたのを憶えている。「名前なんか、ない」とそっけなく答える彼の横で、次男が叫ぶ。「名前、バッタくん!!」

…え、原因それ?バッタの名前を、次男が付けちゃったこと?

「名前、付けたかったぁぁ…!!」そう言葉にできた長男の口から、身体に溜まっていたPOISONがドバドバ出てきたような気がした。好きな名前付けなよ、自分が捕まえて来たんだから。

『バタバッター』という納得の名前を付けた彼は、その後元気に練習に向かう。「自分の意見、ちゃんと言えよ」そう伝えると、ハッとした顔でこちらを見て「うん」と言い、グラウンドに走り出した。

「バッタくんがよかった…」隣でつぶやく次男は、ちゃんと言いたいことが言える。君は、竹野内豊だな。NO POISON

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