11/30 曙光
いつもより早く起き、出かける準備をした。朝から天気がいい。今日はオーストリアのインスブルックに行く。
ミュンヘン中央駅まで出て、そこからクフシュタインまでは定期券で、その後インスブルックまではチケットがいる。だけどその区間が、1時間で3500円くらいだったので、わたしは一か八か、チケットコントローラーが来ないことに賭けてチケットを買わなかった。停車駅は10ほどで、その間どこかでコントローラーが乗ってきたら終わりだ。
しかし予想はあたり、結局一度もチケットのチェックを受けることはなかった。なかなかドキドキしたけど、チケットを買う正義よりも、こんな短い区間に3500円も払ってたまるか、という論理が勝った瞬間だった。
行き先にインスブルックを選んだのは、少しでもアルプスに近づいてみたいという想いがあったからだった。もちろん自分の足で登れたらそれに越したことはないけど、日帰りならそういう訳にはいかなかったので、山麓から出ているロープウェイを利用することにした。頂上までは、3本のロープウェイを乗り継いで行くことになる。
麓の乗り場に行くとすでにたくさんの人がいた。その中に5人ほど、赤いニット帽を被った人たちがいて、映画「ライフ・アクアティック」の潜水艦隊とビル・マーレイを思い出した。
1本目、2本目のロープウェイを降りるたびに、ここが頂上を言われてもおかしくないくらいの眺めで、向かいのアルプスが視界をはみ出てしまうくらいに連なっているのが見えた。あまりにも天気がいい。
最後の駅に着いたのは午後4時過ぎだった。日が少しづつ西に傾き始めていたので、太陽を山脈に隠れ隠れさせながら前に進んでいくこと15分、頂上に到着した。これほどまでの快晴を予想していなかったこと、アルプスがこれほどの大きさだということを知らなかったこと、全てが合わさって、単純に感動した。そこでジョシュアという男性と仲良くなり、彼も弟に見せてあげたいと息を呑んでいた。私たちは向こうの空に、それぞれ石と雪を投げて、それで山頂を後にした。
帰りの電車だった。行きの一件があったので帰りも大丈夫だろうとチケットを買わなかった。甘かった。3駅を過ぎたあたりでチケットコントローラーが乗車してきたのだ。本当にまずい。なんとかするしかないと、彼が乗ってきた駅からのチケットを急いで購入し、それを提示すると、少し怪しげな顔をし、しかし頷いて次の車両に行ってしまった。今思えば、きっと彼は気づいていたと思う。本当にありがとう…