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仰向け、手の甲へ、泥を塗り。

換気扇を三つ配置してマンホールを一つ前へ、牌。サラリーマンはそこへ落ちる。しかし名前を隠しながら罷り通る歌人は足を踏み外さない。頭の上の傘が引っかかるそうだ。排水管とでも言おうか、身動きがとれない彼らを左手の杖で掻き出すのが諸行である。

ドバーっと。

朝焼け、吹き抜けの東京駅では誰もが傘をさして、乗り込む車窓の中で惑い、微睡む。彼の母の訃報と近所のジャズバーの看板犬の死。灰色の床から伝った白塗りのライブホールでその二つが重なる。「訃報」と入れて検索をかけると、原稿が重なるように人の死が重なる。

はて、イヌは?

サグラダファミリアの一室で転校生と出会う。寮をここに選んだのだそう。姪浜から名柄川に沿って歩いた先に位置するここで、スペインかぶれの少年は『白痴』を気に入って読んでおり、縁側を抜けた川の柵に腰掛けながらよく朗読してくれた。ゆくゆくこの団地は改装工事が進み、住民は別の棟へ徐々に越さなければならない。一棟一棟倒れていく白壁を眺めながら、最後の朗読の後、彼は手の甲へ接吻をくれた。

「ルナチャルスキィ!ショスタコーヴィッチはどうしたものか!貴君がここにいないとすれば…。あぁ!全く信じられないことだ!」

吉村久秀

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