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雑多



お腹が空いたから、ギターを弾く。左手の指の腹の皮膚は、もうずいぶんと硬くなった。下手くそな歌を歌いながら、下手くそなコードチェンジをする。そんな夜が、私にはなんか心地がよかった。


月曜日。午後4時半に職場を出て、いつもの道を歩いて駅へ向かう。片手に缶ビールを持ったおじさんたちの笑い声が聞こえた。夕日が差し込む電車に揺られながら、私は眠った。

「すみません」

数分の間、隣の女性の肩に寄りかかってしまっていたことに気づく。私は慌てて、彼女に頭を下げた。

「いえ、大丈夫ですよ、眠たいですよね、ふふ、お疲れ様です」

もしかすると、私はまだ眠っていたのかもしれない。

夕方の阪急電車で、私は天使を見た。


友達に恋人ができた。

LINEの頻度が少しだけ減った。寂しい。ここ最近、私よりも恋人と会う回数の方が多くなっている。悔しい。なんかちょっと妬ましいから、返信の頻度を少なくしたりしてみた。拗ねる彼女かよ。

おめでとう。本当はね、すごく、すごく嬉しいよ。


お腹空いた。


花が咲いた。大切に大事に育てている花たちが、今朝咲いた。嬉しくて楽しくて、思わず階段を駆け下りてしまった。

花が綺麗に咲いた瞬間に、それが枯れてしまう姿を想像する。

私は、そういう人間です。そういう人間なんです。


夏の匂いが好きだ。夏の空気と、あの匂いがたまらなく好き。

見えないのに音だけ聞こえる花火とか、入道雲が一面に広がる空とか、前の人の汗ばんだシャツとか、朝方カーテンを開けた瞬間の蒸し暑さとか、日常の至るところで感じる夏を、私はずっと楽しんでいたい。

夏が終わる頃、私はきっと寂しくなってしまうんだろうけれど、今年の夏もまた忘れないでいられると思う。

あ、また蝉が鳴いている。


「太陽みたいな子やねって、彼が言っていたよ」

「ほんま?嬉しいな、その言葉」

「君は闇を知らないまま生きていってほしいわ」

「ふふ、知らんままでおりたいわ、ありがとう」


生きるか死ぬかの世界で今日を生きているような人たちと関わっている。私が彼らを支援する代わりに、彼らは私に大切なことを教えてくれる。

「誕生日、花の日でしょう?」

拾ったものばかりを身に着けながら、何が欲しいかと聞かれた。

財布の中身の200円が全財産だと言いながら、私に85円のジュースを買った。「こんなものでごめんね」って言いながら、笑ってた。

私は貰ったジュースを握りしめて、家に帰った。ぬるくなったそれに、なんだか無性に腹が立った。


蝉、ずっと鳴いている。


ふと鏡に映る日に焼けた小麦色の肌が、なんか私らしくて笑えた。今年もまた、日傘は差さずに過ごす。


さっきまで外は暗かったのに、もう部屋に光が差し込んできた。紫と、青と、オレンジと、赤と、そんな色の入り混じった空が綺麗だった。


お腹空いた。朝ご飯食べよう。







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