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あの日の空に救われて


いつの日か彼女と見上げたあの空に、私は今日もそっと背中を押されている。

いつの日か彼女が紡いだあの言葉に、私は今日も優しく抱きしめられている。


「今は少し休んでも大丈夫だと思います」

「自分のことゆっくり労ってあげてください」

「もう十分がんばっていると思います」


電話越しに罵倒される毎日。恋人にも、家族にすらも理解されないと、心の中でずっと孤独を感じながら、黒いスーツを身に纏い、慣れないヒールを履いて、目に涙を溢れそうなくらい溜めて、駅から職場までの道をゆっくりと歩いた。

誰にも誇れない。胸を張れない。いつか描いた夢からは大きくかけ離れた場所にいて、いつかの理想の中の自分とは比にもならない私。

あの頃、息をするという行為すらも億劫に感じた。

そんな私を救ってくれたのが、彼女と彼女の言葉だった。

家族にも恋人にも友人にすらも弱音を吐くことができなくて、強がることで自分自身を保つことに必死だった。あの頃、そんな私のたった一つの逃げ場がSNSだった。

今の私と同じ気持ちの人がいるという事実だけで、いくらか気持ちは楽になった。

自分よりも苦しい状況にいる人を見つけては「私はまだやれる」と無理やり自分を奮起させて、幸せでキラキラした日常を送っている人を見つけては「私なんて」と自分自身を卑下した。

そんな中、彼女が私にくれた言葉たちに救われた。

泣きながら歩いた。

あの日の空の色を今でもずっと鮮明に覚えている。



彼女と出逢って、もうすぐ3年になる。

当時の彼女は、恋人との将来について毎日のように悩んでいた。彼女の心が少しでも楽になるようにと、私も必死に丁寧に言葉を紡いだ。

お互いの辛さを共有して、少しだけ背負って、背負ってもらった。

それ以上に、幸せも一緒に分かち合った。

コンクリートに咲いているたんぽぽの写真、澄んだ青い空、その日あった嬉しい出来事、ご飯が美味しかったこと、夜にぐっすり眠れたという報告。

私にとってのほんの些細なことも、小さな小さな幸せも、自分のことのように彼女は喜んでくれた。

彼女の幸せが、私にとっての幸せにもなった。


顔も名前も知らない他人だった彼女に助けられて、助けて、支えられて、支えて、心を開いて、言葉を贈り合って、そうして今ではお互いにとってかけがえのない存在になった。他のどんなものにも代えられない、大切な大切な人になった。


ある日、彼女から恋人と別れそうだという内容のメッセージがきた。「今の恋人と結婚したい」と何度も聞いていたし、彼女がどれだけ彼を想っているのかを知っていたから、彼女の気持ちを想像して、胸が張り裂けそうになった。

私に何ができるのかなんて少しもわからなかったけれど、とにかく一生懸命彼女に寄り添った。

数日後、仲直りをしたという報告を聞いたときは、すごくほっとしたことを今でもよく覚えている。


そんな彼女が一昨年の12月に結婚をした。お相手はもちろん、当時の彼だ。

プロポーズをされたことを最初に教えてくれた。すごくすごく嬉しくて、携帯の画面を見つめながら、少しだけ泣いた。

昨年の夏、いつの日か二人で話していた彼女の結婚式に招待をされて、参列をした。また泣いた。たくさん泣いて、たくさん祝福をした。

白いドレスに包まれた彼女は、声を失うくらいに綺麗で、美しかった。



彼女とは今でも毎日のように連絡を取り合っている。

内容はこれまでと何一つ変わらない。多分ずっとこの先も変わらない。

最近起きた出来事、嬉しかったこと、恋人の話、好きなものの話、悩んでいること、作ったケーキの話、綺麗な空。

どんな小さな幸せも、彼女と分かち合うことで大きな幸せに変わる。


会うたびに魅力的になる彼女に、幸せに溢れる彼女の笑顔に、そっと背中を押されて、私は今日も生きている。

あのとき救ってもらった言葉に、彼女の優しさに、丁寧に大事に抱きしめられて、私は今日も生きている。



君へ

私の文章が好きだと伝えてくれて、ありがとう。

どんなときも味方でいてくれて、ありがとう。

今日も生きていてくれて、ありがとう。



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