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同じ空の下で、この先もずっと


いつかの終わりを絶えず想像してしまうくらいに臆病な私たちだから、終わりのない旅に出よう。

終わらない歌を歌って、終わらない詩を詠んで、終わらない夢を一緒に見よう。

終わらない世界で、終わらない私たちでいよう。


羨ましい。そう、思った。彼女に触れていると、私まであたたかくなってしまいそうで、優しくなって、こわくなった。


彼女と出逢ったのは、高校三年の冬だった。命を賭けても惜しくはなかったバスケットボール部を引退して、初めて始めたアルバイト先の同い年の先輩。

当時、私が部活動に注いでいたのと同等の熱量を、彼女はそのアルバイトに注いでいた。対象は違えど、対等の熱さで話のできる存在に救われたのは、きっと私だけではなかったのだと思う。

ずっと、先輩だった。知らないことを彼女から学ぶことが楽しくて、彼女の知らないものを私があげられることが嬉しくて、対等だけど対照で、同級生だけど、先輩だった。

少しして、彼女は就職先を決め、アルバイト先を卒業していった。少し寂しかったけれど、素直に祝福をした。


この頃からすでに私は、変わらないものや終わらない関係に期待を抱くことをしなくなっていた。


それからの私たちは、数ヶ月に一度の頻度で顔を合わせ、お互いの話をする、そんな関係性を続けた。話の中身は、主に仕事と恋愛についてだったような気がする。

彼女はずっと、彼女のままだった。新しい職場での話を熱心にする彼女を、好きな人の話を嬉しそうにする彼女を、私はまた、心底羨ましいと思った。


次の約束は、いつの間にかしなくなった。特別何かが起きたわけではなかったけれど、特別そこから動こうとはしなかったから、自然と途切れて、自然と消えていった。

その関係性と、その事実と、その現実を、私はまるで摂理かのように受け入れた。

寂しくなかったわけではないし、悲しくなかったわけでもない。

彼女のことを忘れたわけではないし、思い出さなくなったわけでもない。

当時の私にとっては、それは日常に過ぎなかったのかもしれない。


それから時が経った約半年前、彼女もまた、私と同じような感覚を抱いていたことを、初めて知った。


きっかけは、趣味として再び始めたバスケットボールだった。

突然、私のSNSに彼女が一通のメッセージをくれた。


彼女と私の関係が、また新しい形で始まった。

なんとなく懐かしくて、なんとなく恥ずかしくて、なんとなく違っていて、なんとなく変わらない匂いがした。


やっぱり彼女は、彼女のままだった。

「一緒に働いていた頃の自分が今までで一番輝いていた」

「あなたといると今の自分は空っぽだと感じる」

弱音を吐くように、そう言葉にする彼女も、私にはずっと変わらず綺麗に見えた。

だから、安心した。ほっとした。彼女の隣はあたたかかった。


彼女と新しい関係を構築し始めてから、私は少しずつ、ゆっくりと、丁寧に、私になった。

私でいていいような気がして、私になれた。私でいれた。

彼女も少しずつ、彼女になった。彼女でいてくれた。それが嬉しかった。


彼女は私に言う。

「そんなに綺麗な人間ではないし、そんなにできた人間でもない」

それでいい。そんなことはどうだっていい。

寧ろ、そうであるからいい。

私から見えている彼女は紛れもなく彼女で、彼女が思う彼女自身もきっとまた、彼女である。


私も彼女に伝える。

「そんなに綺麗な人間ではないし、そんなに優れた人間でもない」

それが私だから、丸ごと受け止めてほしい。

私の思う私も私で、あなたから見えている私もきっと私。

それでいい。寧ろ、それがいいよね。



綺麗な空を見たときに、彼女に見せたいと思う。

美味しいものを食べたときに、彼女にも食べてほしいと思う。

これはどこか恋心に似ていて、それとは異なっていて、愛に似た、また別の何かのような気がする。



いつか終わってしまうことを想像するよりも、私とあなたでその答え探しをしよう。

いつか変わってしまうものに怯えるくらいなら、くだらない冗談を言って、腹を抱えて笑い合おう。


眠れない夜は、私と一緒に星を見に行こう。

私があなたのために、終わらない詩を詠むよ。


大丈夫。

私はずっと、私でいるよ。


何かに怯えるあなたも、全部まとめて私が受け止める。

この先もずっと、私は私のままで、ここにいる。



私を見つけてくれて、ありがとう。


いつかあなたが「やっぱり変わらなかったね」って、私を見て笑ってくれますように。



追伸

今日も同じ空、見てたよ。


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