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ロヒンギャ密航者を置き去り

ロシアによるウクライナ侵攻が、開戦から100日を経過していようとも。香港の非民主化が、着々と進められていようとも。ミャンマー軍政と民主派の対立が、1年4ヶ月以上続いていようとも。

ミャンマーのラカイン州に暮らすロヒンギャの人たちの生活環境はけっして向上しておらず、今もマレーシアやインドネシアへの密入国を試みる人たちが、後を絶たないということのようです。

タイ南部、自然豊かなサトゥーン県にあるタルタオ海洋国立公園。

マレーシア国境からわずか4.8キロ離れたところにある、美しい島々からなる国立公園です。バンコク在住である私もまだ行ったことはありませんが、タイ観光局が公開しているサイトの写真でみただけで、とても魅力的な場所であることがわかります。

https://www.thailandtravel.or.jp/tarutao-marine-national-park/

この美しい島が、今、大騒ぎとなっています。

6月4日、同国立公園管理責任者であるパーンポン氏に至急報が入りました。密入国者らしき59人が同公園内にあるドン島で発見されたというのです。

近くにいた公園管理官がすぐに派遣され、彼らが旅券も所持していないミャンマーのロヒンギャ難民であること、密航した船員から「ここはマレーシアだ」と言われて島に上陸したこと、さらに数日間なにも食べていないことなどがわかりました。

パーンポン氏は別の公園管理官に指示し、すぐに水と食料を手配。警察本部移民局から担当官が派遣されるまで、ロヒンギャがドン島から他の場所に移動しないよう、監視をすることに。以下の写真は、タルタオ海洋国立公園の公式 Facebookからの転載です。
※続報では、ロヒンギャはすでにサトゥーン県都にある国境警備隊施設に収容されたようです。

写真でみた限りですが、どうやら公園管理官だけではなく、軍からも派遣されているようです。海を渡って国内に逃げ込まれたらたいへんな騒ぎになるからでしょう。しかし、このように大きく報じられれば、国際人権団体も対応しやすくなりますから、彼らの身の安全についてはひとまず安心。こんな心配をするのも、タイ軍や警察の一部が国際的な人身売買組織と結託し、ロヒンギャの密航に一役買っているケースがあるからです。

ミャンマーにいても未来はない。だから、マレーシアやインドネシアに行ってチャレンジしないか、という甘言に乗せられ、多額の費用を支払い、そのうえで密航途中に誘拐され行方不明になっているロヒンギャがどれだけいることか…。

それでも今回の件は、もともと誘拐が目的だったわけではなく、下図のように少なくてもマレーシア国境まであとわずかのサトゥーン県にたどりつけたのですから、密航船員の悪意ではなく未熟さがこの置き去り事件の背景にあるのでしょう。

マレーシアに入国できたところで、幸せが保証されているわけではないのですが…。

マレーシア政府は、イスラム教徒であるロヒンギャに同情してはいるのですが、だからといって密入国を歓迎しているわけではありません。今年4月にも、ペナン島の移民局施設に収容されていたロヒンギャ難民が暴動を起こし、そのうち582人が集団脱走。逃走中、6人が自動車にひかれて死亡する事件が発生しています。まさに、ミャンマーにいるのも地獄、ミャンマーから離れるも地獄、です。

https://www.bangkokpost.com/world/2297538/six-rohingya-dead-hundreds-flee-after-riot-at-malaysian-detention-camp

この問題も、何十年も放置されているわけで…。
支援はあっても、根本の問題解決に関しては、そこに至る兆しすらありません。

ここでも、国連の無力が現れているのですが…。
「国家主権」という大義名分を前に、国連が干渉できることはさほど多くはありませんから。

でも、ここであきらめて国連諸機関の役割をさらに弱体化させるのか、批判はあっても前向きに機能の有効性を高める努力を続けるのか。

日本の防衛力をどうするかという議論と同時に、国連との関わりについても真剣な議論ができることを望みます。

だって、人が泣いているのですから。人が死んでいるのですから。

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