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現地の情報は、正確か

カンボジアに滞在していて、あらためて感じることは…。

現地の正確な情報が、現地で得られるとは限らない、ということです。

カンボジアがまだ内戦状態にあった1985年に就任以来、37年間も首相に在任しているフン・セン氏。

その権力基盤を強化・維持するために行ってきた行為が、情報操作と弾圧。特に青年層を中心に支持を延ばし、2013年の総選挙でフン・セン首相率いる与党「人民党」を脅かした有力野党「カンボジア救国党」を、2017年に弾圧。ケム・ソカー党首を「国家反逆罪」で逮捕し、同党を解党に追い込んだことで、2018年の下院総選挙では、125議席すべてを「人民党」が占めるという異常事態になりました。

一方、フン・セン政権に批判的な論調で知られた日刊紙、「Cambodia Daily」も、突然過大な法人税をかけられて、廃刊に追い込まれています。現在、同紙は電子新聞として活動していますが、そのサイトはカンボジアからアクセスすることができません。

他にも、やはり政権に批判的だった「Phnom Penh Post」紙も、フン・セン首相と親しいビジネスマンに買収され、上層部が親政府派ジャーナリストに交代しています。もうひとつの有力紙、「Khmer Times」はもともと親政府派。つまり、カンボジアでは政府に批判的な有力メディアは、目立たなくなってしまったのです。
※上記メディアはすべて英語紙です。クメール語紙の中には政権に批判的なところもあるようですが、その影響力は極めて限定的です。

それゆえ、カンボジアの正確な情報(特に政治に関する情報)を取得したければ、シンガポールやタイ、アメリカなど他国のメディアをチェックした方が客観的かつ正確。カンボジア国内では、政府の広告塔が発信している情報が中心になっていますから。

しかしこの傾向、どうやらカンボジアだけではなさそう。

今、大きな危機感をもって注視されているウクライナ問題も、ロシア国内で報じられている内容と、欧米や日本で報じられている内容には大きな違いがあるようです。

ミャンマー軍政が官製メディアを通じて報道している内容も、同盟国であるアセアン(東南アジア諸国連合)ですら疑問に感じてしまうレベルのようですから、こうした情報操作は、現代政治においても当たり前に行われているのでしょう。否、その手口たるや、上手に編集された映像を用いることもしばしばですから、知らず知らずに洗脳されてしまう情報操作のステルス性が、さらに高まっていると言えるかもしれません。

とはいえ、カンボジアでは希望の光も見えています。

フン・セン首相の義母が亡くなり、そのご葬儀が行われていた2020年5月5日。国家反逆罪の疑いで公判が行われているケム・ソカー氏(保釈中)が弔問に訪れました。2人は、50分ほど対談したことが大きく報じられ、その後ケム・ソカー氏が、在カンボジア各国大使と面会、ないしオンラインで対談を行うことができました。これにはカンボジア国民も、「政治的融和の始まりか」と期待しています。

欧米流ですと、透明性をもって議会で議論したうえで、多数決によって方針決定することが民主主義だ、という価値観が強くあるように感じていますが、このようにトップ会談で内々に合意を形成することは、アジア諸国の文化に鑑み、ムリが少ないのかも知れません。いずれにせよ、カンボジア政治が独裁から対話に向かい、国民にとって、将来に夢を持てる社会が形成されることを期待します。

最後に一言。

今回のウクライナ危機に関し、国連のグテレス事務総長がロシアを非難しています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2208B0S2A220C2000000/

同総長は、「国連憲章との整合性に欠ける」と発言した、と紹介されていますが、それが事実であれば、国連憲章を尊重しない国家が安全保障理事会常任理事国であることは、いったい何なのでしょうか。この点どうも、合点がいきません。国連の存在意義を考える、いい機会になりそうです。

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