オウンゴールが多すぎる(タイ)
タイでも東京オリンピック開会式のもようが、大きく報道されています。
今回のオリンピックは、コロナ禍での開催ということで日本の世論にも賛否両論あり、またさまざまな制約でストレスを感じている選手もいらっしゃることでしょう。開催を心からお祝いできないことは残念ですが、選手の皆さんには感染に注意され、競技でベスト・パフォーマンスを発揮できることを期待しています。
さて、タイは相変わらず、コロナによる犠牲者が増加しており、ピークが見えていません。
それに加え、効果が期待されるワクチンの供給も追い付かず…。
こういう状況では、人々の心に不安が募るのも仕方ありません。そしてその不安は、怒りや自暴自棄というかたちで、表面に現れやすくなっているようです。
バンコク都など感染拡大が特に悪化している13都県では、5人以上の集会が禁止されています。しかしそれでも、若者たちがホテルの1室や営業停止中のパブに集まって、誕生日などの宴会を開いているようです。音が漏れて住民に通報され、警察に逮捕された若者もいるのですが、その行為自体はとにかく、彼らの気持ちはなんとなく理解できるように思います。
「音を絞っておとなしく宴会していれば、警察に逮捕されずに済んだかもしれないのに」。
常識的にはそう考えるでしょうし、実際にそうして見つからずにやり過ごした若者もおおぜいいることでしょう。しかし時として、ストレス、不安を払しょくしたい気持ちが、こうした自制を吹き飛ばしてしまうことも、人間らしさの現れ。
こうした不安は、軍人といえども同じように抱いているらしい。ひとつのニュースが、市民の大きな批判を浴びています。
最近、タイ赤十字社が、モデルナ社製ワクチン100万回分の購入契約を交わした、と報道されました。
実際の入荷は10月以降、ひょっとしたら来年になってしまうかも知れないとのことですが、このワクチンは無償で提供されるということで、赤十字社による配分計画の詳細説明が待たれています。
人びとの期待を担った、ワクチン購入。
そこにタイ国軍の一部署が、「接種を優遇して欲しい」と、赤十字社宛に書簡を送付。されがマスコミに暴かれ、大きな批判を浴びています。
書簡を出したのは、タイ国軍総司令部(日本の統合幕僚監部に相当)総務局儀典部長。階級は大佐です。
大佐は赤十字社に対し、バンコク都内に配置されている軍人に、モデルナ社製ワクチンを優先的に提供してくれるよう、配慮を求めたのです。決して命令的な口調ではなく、あくまでも要請ですね。
ところがこれがネットに出回ると、まるで国軍全員にワクチン接種を優先させるよう、赤十字社に圧力をかけたかのような報道に。そのため、もともとワクチン不足に不満と不安を抱えている国民にとって、「特権階級を自認する国軍兵のずる賢さ」をさらに強く印象付けるニュースとなったのです。中国製ワクチンへの不信も重なって、「軍が国民を差し置いて、自分たちだけがいいワクチンを受けるつもりだ」という批判もあります。
国軍は、「書簡は間違いなく儀典部長が出したものだ。しかし、しかるべき手続き、決裁を経たものではない。経緯の詳細は今、調査しているところだ」と、国民の批判を躱そうと必死です。
おそらくこの「儀典部」は、諸行事実施の連絡調整により、日頃から赤十字社とつながりがあるのでしょうね。その人間関係が、このような忖度を求める書簡発送につながったように思います。しかし、今はそうした内密のやり取りが漏れてしまう時代。ま、タイ国軍は、武器弾薬だっていつの間にか武器庫から無くなってしまうことがあるほどですから、その管理能力は未熟。一大佐が機関決定を経ずにこうした書簡を出してしまうことも、あながち驚きではありません。
どうもタイ政府は、こうしたオウンゴールが多すぎます。
ワクチンに対する不満だって、もともとタイ政府は6月から1日当たり100万回接種を目指す、と大きな花火を打ち上げだのです。ところがその数日後にはワクチン不足で接種を受けられない人が続出。そして今に至るも、1日当たりの接種が25万回~50万回に留まっています。国民に大きな期待を抱かせた分、「政府が期待を裏切った」という反動が大きいのです。
バンコク首都圏の営業規制だって、一旦緩和したかと思ったら、その1週間後には再び規制強化が始まり、今では床屋ですら営業できなくなっている状態。他県への越境移動も規制され、夜間も21時から翌4時までは外出禁止で、まさに半ロックダウン。見通しの甘さが、感染急増という大きなしっぺ返しとなって現れているのです。これも、「この政府、大丈夫か?」と国民に不安を抱かせることにつながっています。
そこにきて、このワクチン優遇を求める書簡。いやはや、混乱に対応できず、統制力を失いつつある政府というのは、まさにこういう状態に陥ってしまうのですね。
何か、いいニュースが欲しい…。コロナ関係の暗いニュースばかりでなく、夢や元気が得られる、ワクワクするようなニュースが。
そうなると、やはりオリンピックでしょうかねぇ。日本は感染拡大の危険性がある故、無観客であってもリラックスして楽しむことが困難かも知れません。しかしタイに住んでいる我が身であれば、日本の皆さんよりはもう少し気持ちに余裕をもって、アスリートたちの活躍を見ることができます(日本の皆さん、ごめんなさい)。そこでタイ選手の活躍があるのなら、タイの人たちも少しは気持ちが明るくなることでしょう。
下の写真は昨日の開会式で行進する、タイ選手団です。
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