映画感想 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
毎日、毎日。
好きでもない仕事のために、同じ通勤の道を歩き、同じ顔ぶれがそろう職場へ行き、同じようなクレームに対応し、さしてうまくも感じられない場所で昼飯を食べ、上司や部下の繰り返すミスに対応し、またつまらない道を歩いて帰る。
「なんでこんな仕事を続けているんだろう」の理由に、「今一緒に暮らしている恋人との生活を続けるため」があるけど、退屈な日常を繰り返すうちにシンプルな理由を見失っていって、退屈さで視界がいっぱいになる。そこへ恋人との他愛もない喧嘩が始まると、いよいよなんのために頑張っているのかが分からなくなる。不貞腐れて寝転びながら、SNSで他人の幸せそうな生活をのぞいて「もっと違う選択肢があったんだろうか」と思う。
この映画、登場人物に感情移入して考えているのと同時に、アクションの面白さと映像のカオスさを同時にぶち込まれるので、初めて見終わった後は入り込む情報が多すぎて整理しきれず、よくわからないけど泣いていた。
アクションと目まぐるしい映像やしょーもない下ネタで楽しませつつも、どうしようもないありきたりな人生を肯定してもらったような気がして泣けてしまう。映画を見る前よりずっと自分の人生がいいものに思える。とてもいい映画でした。
以下ネタバレ有というか、映画を見た人にしか伝わらないかもしれない、良かったところの箇条書き。
・女優として華々しい人生のエブリンや、歌手として成功してるエブリンを見つつも、クリーニング屋でちょっと頼りなくも親切で穏やかな夫と暮らす、普通のおばさんっぽいエブリンも、なんかそれぞれいい人生そうだなと心から思えることで、自分の代わり映えしない退屈な毎日も、そんなに悪くないかもと肯定できるような思考につながっていく気がした。
・ウェイモンドは頼りなくも、ずっとまじめにエブリンと向かい合い続ける。なにもかもどうでもよくなった時に、こういう人の変わらなさはものすごく頼りになる。こういう人がそばにいると、まだ頑張れるという気持ちにさせてくれる。一見頼りがいのあるアルファよりも、ずっと味方でいてくれるウェイモンドのほうがずっと頼りになるんだよな。
・エブリンとジョイのころころ変わるメイクと衣装を眺めているだけでも楽しい。撮影大変だっただろうなぁ…
・ジョイを引き留めるシーンの対比がきれい。最初の「あんた太ったわよね」って言うアレ、母親ってここぞという時に言ってほしくないことを言ってくるよな~と実体験を思い出す。
自分の娘だからこそ、弱点を知り尽くていて何とかして引き留めたい気持ちがあの最悪の一言を引き出す感じ。
んでもってエブリン側からすると、ふとした瞬間に嫌だったはずの自分の両親ぽい部分が出て自己嫌悪する感じ。
あの最悪さが、すべて丸く収まるあのシーンにつながるのあまりに好きですね。
・月間優秀賞のトロフィー、見た瞬間から同居人とアナルプラグじゃん!ときゃっきゃしてたら本当にアナルプラグだったので笑った。
・カラフルなライトが顔面の周りをぐるぐるする、ドラッギーな演出が過剰で好きですが映画館で見たら酔ったかもしれない。
・タイトルが長く引き伸ばされつつ流れる終わりの音がなんかよくわからんけど良い。
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