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コンビニで働いてた時の客の話

高校生のころ。初めてのバイトに選んだのは、家から距離が近くて客としてもよく行っていた馴染みのコンビニ。
別に自給も高くないし田舎だし、働く層も来る層もいろいろで嫌な思い出のほうが多いけど、楽しかったこともあったので忘れないようにメモ書き。

エロ本返品のおっちゃん

ド田舎の国道沿いのコンビニなので、客層は老若男女。学校も近いので学生も来るし、近くの会社の人もくるし、ヤンキーも来るし、田舎特有のアホほど広い駐車場で運送業の人も多かった。
一番印象に残っているのは、エロ本を返品しに来たトラック運転手のおっちゃん。
多分初対面のおっちゃんは、まあまあな強面だけど「これお願いね~」と優しく、軽食と人妻系のエロ本をレジに持ってきた。
当時学生でまだエロ本に抵抗感ありまくり。
置かれた瞬間「うわっ」と思いながら、置いてある袋の中で唯一透け感がマシそうな茶色の弁当用のレジ袋を広げて、見えないように入れたほうがいいのかな、温めた弁当と一緒に入れたら本がしなるから嫌かな、でも別々で入れたら表紙めっちゃ透けるよな、と色々考えて手が止まったところを、おっちゃんが気を利かせて「あ、全部一緒でいいよ。ありがとね~」と言いながら出て行った。
エロ本買う人は、恥ずかしさから「余計な質問しないでさっさと袋に入れろ」という圧を感じるか、こっちの戸惑う反応を見て楽しむクソ野郎が大半なので、エロ本を買うけど焦ることなく、さらっと気遣いをして去っていくおっちゃんに感動しながら見送った。
爽やかな気持ちで働いていると、そのおっちゃんが帰ってきた。
「おねえちゃん、ごめん!この本持っとったわ!」
13時ごろ、他の客がいないとはいえ人妻系エロ本片手に、聞いてもない理由を添えてあんな爽やかに返品をお願いするおっちゃんを初めて見た。
7~8年働いていた中で一番印象深いお気に入りなお客さん。
その後そのおっちゃんとは会ってないが、違う時間帯に来てたのかもしれない。コンビニでエロ本売られなくなったけど、どうしてるのかな。今でも元気だといいな~。


常連の畳屋のおっちゃん

一週間に3,4回ほどコーヒーとおやつを買うついでに、オーナーや店員とおしゃべりするおっちゃん。おばちゃん店員と野球やらニュースの話をして、新入りの学生バイトをいじる、多分どこの店にも一定数生息しているタイプのおっちゃん。
コミュ障人見知りで、お世辞にも人当たりのいい態度を返してなかった私にも分け隔てなく話してくれるいいおっちゃんだった。
外に設置されたゴミ箱の袋を取り換えていた時に、後ろからクラクションを鳴らされた。大きい音にビビって振り返ると、運転席でまだそこまで仲良しになったつもりでないおっちゃんがニヤ~と笑っていた。
そっけない学生バイトにそれをやって仲良くなれると思ってるのすげえなと思いながら、その距離の詰め方できるのうらやましいなと思った。
そんなおっちゃんは、畳屋さんの営業職だった。残業もノルマも業種の将来性もキツイと言ってたけど、楽しそうだった。
私が作ったポップやら、些細なことをよく褒めてくれた。おっちゃんがセクハラじみた事を言った時に怒ったら、その後はちゃんと言わないでいてくれた。年が離れているのに対等に扱ってくれるので楽しかった。たまにおしぼり多めに持ってくけど。
コンビニ辞めるといった時に少しだけ寂しそうにしてくれて、自分のお客さんの遺品整理を手伝った時に譲ってもらったらしいFrancfrancのタコ焼き機をくれた。いつも作業服でお世辞にもおしゃれでないおっちゃんからFrancfranc渡されたことと、Francfrancってタコ焼き機売ってんの!?のダブルな意外性で笑ったのを覚えている。そのタコ焼き機は姉の家に行き、今は姪っ子たちの愛用品になっている。

ポイントカードが作れないブラジルのお姉さん

お昼過ぎによく来てくれていた、ベビーカーに乗せたお人形のようにかわいい赤ちゃんと、美人なブラジルのお姉さん。ベビーカーで両手が塞がって手動ドアが開けれずに困っていたところを助けてから、少しだけ話しかけてくれるようになった。日本語は日常会話がこなせるくらい流暢で、すごく難しい単語や漢字だけわからないといった感じだった。
近くに外国人労働者が多い工場がある。そこで働く日本人と結婚してここで暮らしているらしい。日中の散歩がてらコンビニに寄ってくれていた。
ちょうどそのころコンビニで野菜を取り扱うようになった。近所の移動手段がない高齢者用に、働いていたコンビニは日用品の取り扱いも多く、割高だけどコンビニさえ行けば暮らせる感じの品揃えだった。
そのお姉さんもその野菜とか日用品をよく買ってくれていた。
まだまだお試し採用の野菜だからかB級品も多く、日用品も薬局ほど種類があるわけではないけど、お姉さんは頻繁に来てはかごいっぱいに買い物をしていた。

いつもいっぱい買っていってくれるから、とポイントカードを作ることをおすすめした。まあまあ溜まるし、たまに無料券でるし店員も割と活用していたので、営業トークではなく普通におすすめだった。
作った翌日早速無料券をもってきてくれて、活用してくれているようだった。ところがある日そのカードを無くしてしまったらしい。
もったいないないから再発行の手続きを勧めるも、コンビニの端末で再発行手続きが意外とややこしく面倒な感じだった。
お姉さんが操作する端末の隣で立って、読めない漢字と意味を伝えながら何度か試すものの、手続きが正常に終わることはなく、時間がかかったこともあってお姉さんは申し訳なさそうに「また今度試すね」と言っていた。
その後会う度にポイントカード再発行できた?と老婆心な各店員に声をかけられ続け、やがてお姉さんは来なくなった。

ここからは完全な妄想だけど、日本語が話せるとはいえ外国で買い物するのってすごく疲れることだろうし、日中に自由に出かける場所も田舎故に選択肢が少なくて、そんな中で選んでくれたお店があのコンビニ。
ちょっとだけ日常会話できる店員と、日々必要な物が買えるのを便利に思って使ってくれていたなら、再発行のくだりのいじりは鬱陶しかっただろうなぁと。他に嫌なことがあったかもしれないけど。
変なお節介と、お姉さんを唯一いじれるクソつまらないネタとして店員が擦り続けることで、お姉さんにとっての「行きやすい場所」を潰して、何となく申し訳なく思っていた。

コンビニを辞めるのが決まったころに、お姉さんが歩けるようになったお子さんを連れて来てくれたことがあった。
お久しぶりの挨拶ができてうれしかった。レジ横に売っていた新作のチロルチョコを買って、緊張して固まるお子さんの手に無理やり握らせたら、お姉さんは優しくありがとうと言った。
会計をする時にポイントカードはお持ちですか?といつもの流れで聞いてしまって、「あ、しまった」と思った。お姉さんは「カードはもういいや」と苦笑していた。

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