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【チャコールプリズム】第1話 はじめての日記

私も歳のせいか、なんだか日記が書きたくなった。ついでに挿絵でも描いてみようか。人間というのはある日突然、普段まったく習慣にないことをいきなり習慣にしてみようと思いたつことがある生き物である。もちろん、私も例外ではない。

失礼、私はエディー。チャコールプリズムの監視役のバイトで飯を食っている。人生初のアルバイトを始めたばかり。中年だ。

2週間前、ある日突然私は70歳を超えるムキムキの父親に首根っこ掴まれ、「わしゃ人間のペットなんぞ飼っとらんわ!」と罵られ、家を追い出された。父親の気持ちもわかる。いかんせん、私は47歳であるにもかかわらず独り身、それ以前に無職、そして、ニートだった。

いつまでも親の脛をかじり続けるのは申し訳ないなと思いつつ、なんだかんだで髄までしゃぶった自覚はある。流石に温厚だった父親も我慢の限度がきたのだろう。塵も積もれば山となる。ある日、チョモランマを彷彿とさせる我が父の上腕二頭筋が振りかざされた。それを見た時、まさか家の中に山があるとは思わなかったよね。リビングでゲームをしていた私は、雪崩に巻き込まれた登山者の如く、一気に玄関の外まで押し出された。

どうしてこんなことになったのだろう。家に一台しかないデスクトップPCを10年間独占したのが、そんなにまずかったのだろうか。謎である。

こりゃ参ったということで、仕事中に出来るだけダラダラできて、スマホで漫画読めて、それでいてそれなりに高収入のバイトを探した。世の中広いから、好条件の仕事くらいすぐ見つかるだろうと思って探したら、案の定この仕事が見つかった。時給1600円。そこそこいいでしょ。

その仕事がチャコールプリズムの探索。あまり聴き馴染みないだろう。チャコールプリズムの探索ってなんだ。そもそもチャコールプリズムってなんだ。

例えば太陽の光にプリズムをかざすと、光はプリズムの中で屈折し、七色に分解される。光はさまざまな色に分解されるが、光という性質を保ったままである。

このようにして、光ではなく、世界にプリズムをかざすとどうなるだろうか。世界はプリズムの中で屈折し、様々な世界へと分解される。この、世界そのものを分解し、投影するシステムのことを「チャコールプリズム」という。

近年、全世界で失踪者が増えてきている。原因は様々あるだろうが、その中で最も多いのが「チャコールプリズムに巻き込まれた」からじゃないかと私は思っている。なぜなら、一度チャコールプリズムを通過してしまえば、分解された世界に留まるだけで元の世界に帰る術がないと言われているから。バイトリーダーが言ってた。チャコプリ怖すぎ。

そんな危険なチャコールプリズム、誰が作ったんだだって?それは私が聞きたいね。得体の知れない誰かが作ったんだろう。

というわけで、世界を一瞬で分解してしまうチャコールプリズムを野放しにしておくのは危険だということで、それを検知する機械を使って探査し、調査・研究することが世界的に課題となっている。

私のバイトはその中の「探索」にあたる。とは言っても、世界中の上空に散らばってる探査用ドローンに映し出された信号を、研究室の一角でボーッと眺めているだけだから、楽なもんだよ。チャコールプリズムの信号を受けたら、その時間と場所を記録するだけの仕事だからね。

ちなみに今日はシカゴのとある工場のゴミ捨て場にチャコールプリズムの信号を見つけた。うーん。変な仕事だけど、楽な上に時給がいいから、しばらく続けてみようかな。

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