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398小さな健康保険

日本人はお風呂好き。ジメジメした気候と関係あるとの説が有力だが、シャワーで事足りるとする在留外国人も少なくないから、国民性とも関係するのだろう。
『職工事情』を読んでいて、東京下町のブルーカラー労働者の家計支出に占める入浴費の比率に驚いた記憶がある。一日の外仕事で得た日当は、長屋の家賃、コメ・味噌などの食材に当てられるが、それらと並んで家族みんなで行く銭湯料金が大きな割合を占めていた。
 今は小さなマンション・アパートにも浴槽が設置されているから、銭湯の公衆衛生や社会福祉的な使命は終わっている。
 とはいうものの家庭の風呂は狭い。手足をゆったり伸ばした入浴には銭湯はもってこいの存在だ。歩いて3分ほどのところに銭湯があり、孫を連れて行った。親水公園でペダルボートに乗せ、大いに汗をかいて、その足で銭湯に行く。風呂から上がった後で飲む瓶入り牛乳の美味なこと。住民のリフレッシュ機能を果たしている。


都内に公衆浴場は何軒あるのだろうか。地域の人々の交流の場としても残してほしいものだ。利用客の減少で経営が苦しく、さればといって収支が合うように値上げしたのではいっそう客足が減る。そこで入浴料据え置きを条件に行政から多額の補助金を出ているようだが、方法論として拙劣だと思う。
ポイントは入浴客を増やすこと。そうすれば自動的に経営は改善する。例えばこういう案はどうか。地域福祉の掛け声とともに福祉や環境ボランティアへの参加が増えている。社会のために奉仕していることへのご褒美は欲しいが、おカネで受け取るのは抵抗がある。こういう人が過半だろう。そこで行政は、価値あると判断するボランティア活動を指定し、その参加者に公衆浴場入浴券を所定枚数渡すのだ。無記名で譲渡を可能とする。熱心なボランティア活動者はたくさんの枚数を受け取るから、家族や隣人を誘って使用すればよい。公衆浴場経営は安定し、地域活性化は進むことになる。

ところで都内の公衆浴場関係者による健康保険制度が存在する。東京都浴場国保組合といい、昭和29年以来の伝統を持つ。ピーク時の保険者数は昭和34年の約7千人。その後は、上述のような銭湯離れで浴場数が減るにつれ、被保険者数も激減。今は千人を切る状況だ。
では保険運営も危機的状況かとなるが、組合長の石田眞さんによると健全運営のようである(『東京の国保』661号)。
数値を確認すると、令和元年度の被保険者一人当たり診療費は24.1万円。これは市町村国保の全国平均36.2万円の3分の2と抑制されている。
他方、保険料は事業主36.6万円、従業員16.2万円、家族16.2万円(いずれも40から65歳未満の年額)の定額制。これに対し、市町村国保では政治配慮による免除や減額が多く、一人当たり平均保険料が8.7万円に過ぎない。
さらに加入者の健康度向上のための事業を決めこまかくやっているようだ。
①保健衛生事業では、高齢者や健康者(無受診者)表彰、健康カレンダー配布など、②疾病予防では、人間ドック、歯周病リスク検査などの費用助成、健康ウォーキングなど、を行っている。
保険給付費を抑え、保険料徴収漏れをしないことで、保険事業は安定する。そのためには加入者間の一体感が重要なのだが、公衆浴場という独特な経営環境にある同業者の仲間意識がうまく機能しているのかもしれない。

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