見出し画像

416少子化の原因説に異論あり

一般的に言われている少子化の原因は次の四つ。すなわち
①結婚・出産に対する意識の変化
②経済的な不安
③子育てに対する負担感
④子育て環境の整備の遅さ
 
「みんながそうなら自分も結婚しないことにしよう、子どもを持たない人生を選択しよう」
その結果、どうなるか。それが今の日本の現状。少子化が、次の世代の少子化に続き、若い世代がいなくなって、国防、警察、消防は機能しない。空白になった部分を埋めようとして外国人の大挙流入を受け入れる。そして人種間の人口バランスが変わり、日本民族が少数者として追い詰められていく。
絵に描いたようだ侵略シナリオが完成する。それを企む者、迎合する者がいて、上述の少子化の原因をもっともらしく流布し、外国人定住化に向けての洗脳を行っているとしたら…。

結婚、出産は個人の自由の領域に属する。ボクは自由主義者だから、結婚が義務だとか、子どもを産まない者は処罰だなどと主張する気はない。異性を嫌いという人はいるだろうし、子どもを産めない体質、生理的に子どもを受けつけない人がいるのも事実だ。
重要なのは国民、民族としての一般的傾向である。日本人は「家族を持つことへの忌避感が高いのか」。これが設定されるべき設題のはずだ。
 
天野馨(か)南子(なこ)さんの『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島新書、2019年)で多くを学んだ。
まず①結婚・出産に対する意識の変化について。若い人のうちで「生涯結婚しないつもりの人」はどのくらいいるのか。これは独身総数から「いずれ結婚するつもりの人」を除くことで得られる。そこで政府機関である国立社会保障・人口問題研究所の「第14回・第15回出生動向調査」を見ると、18歳から34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもりの人」の割合はけっこう高いし、変化していない。数値は男(女)である。
1987年91.8%(92.9%)⇒1992年90.0%(90.2%)⇒1997年85.9%(89.1%)⇒2002年87.0%(86.3%)⇒2005年87.0%(90.0%)⇒2010年86.3%(89.4%)⇒2015年85.7%(89.3%)。
上記の国立社会保障・人口問題研究所の「第14回出生動向調査」によると「いずれ結婚するつもりの人」が希望する子ども数の平均値もあまり変化していない。また結婚したいが子どもは要らないという人は、男6%、女5%とごくわずかであった。
1982年2.34人(2.29人)⇒1987年2.30人(2.23人)⇒1992年2.23人(2.17人)⇒1997年2015人(2.13人)⇒2002年2.05人(2.03人)⇒2005年2.10人(2.07人)⇒2010年2.04人(2.12人)。
①データから結婚・出産に対する意識の変化は否定される。しかし実際には生涯未婚率が上昇し、出生率は2.0人を大きく割り込んでいる。国民の大多数は結婚したい、子どもを持ちたいと考えているのに、実際にはそうならない者が増えているのだ。しかるに故意か、不勉強かで、「日本人は結婚したくない民族であり、子どもが嫌いな人種なのだ」との印象を与えようとする勢力があるわけだ。

なにが未婚、無子の傾向をもたらしているのか。そこで言われるのが長期のゼロ成長で若い人の所得が伸び悩み、結婚への希望が持てなくなっているとの②経済的な不安を強調する考えである。天野さんはそれを数学的、論理的に誤りであるとする。
明治安田生命生活福祉研究所の「20~40代の恋愛と結婚-第9回結婚・出産に関する調査」に天野さんは注目。結婚生活に必要な最低世帯年収の感覚を問うと、既婚者では、
1位400‐500万円(23.5%)、
2位300-400万円(21.1%)、
3位500‐600万円(16.1%)、
4位200-300万円(11.1%)、
5位600-700万円(7.0%)であるのに対し、未婚者では
1位400‐500万円(23.6%)、
2位500-600万円(20.1%)、
3位300‐400万円(15.2%)、
4位700-1000万円(12.4%)、
5位600-700万円(10.0%)。
実際に生活をしている既婚者に比べ、未婚者が考える必要年収ラインの方が高い。その意味は、調査での未婚者の最低生活年収感は、実は「最低ライン」ではなく、「ゆとりある生活年収感」であることになる。
ではなぜ未婚時代に想定した最低ラインよりも低い年収で結婚家計が成り立っているのか。
OECD(経済協力開発機構)が用いる等価可処分概念がその理由になる。世帯人数が増えるとスケールメリットが働き、一人当たりの生計コストは下がる。それぞれワンルームマンションに住んでいた二人が、世帯用マンションに移り住むと、部屋代、光熱水費すべて割安になる。その大雑把な計算は平方根で得られるというのだ。独身者の生計費を1.0とすると、別々に済む二人では単純合計で2.0だが、同居により√2≒1.414で済むことになるのだ。3割弱の節約である。
結婚すれば自然と会得(えとく)するが、結婚する前には未体験で実感がない。「結婚生活には生計費節約メリットがあるのだ」と。なぜ政府や自治体は声をからしてアピールしないのだろう。
このことは子どもができた場合も同じ。未体験のうちは、自分一人で年に200万円の生活をしている人がいるとする。結婚すれば2倍の400万円、子どもができれば3倍の600万円、子どもが3人になれば5倍の1000万円必要。そんな収入はとても無理と結婚を先送りする。だが等価可処分概念を用いれば、二人世帯は√2、三人世帯は√3,五人世帯は√5になる。数値にすれば二人世帯1.414、三人世帯1.732、五人世帯は2.236だ。一人200万円とすると、二人世帯282万円、三人世帯346万円、五人世帯447.2万円なのである。
もう一つ重要なのが、「夫婦共働き世帯」が普通であることだ。政府はいまだに夫一人だけの収入で家計を回す「専業主婦世帯」を標準とするが、実態とあまりにもかけ離れている。
1980年には「専業主婦世帯」1100万、「夫婦共働き世帯」600万であったが、1990年代の逆転し、2017年には「夫婦共働き世帯」1200万、「専業主婦世帯」600万になっている。二人とも可処分所得200万円であったとすると、結婚後の世帯年収は400万円。生計費との比較で黒字になり、貯蓄が可能になる。子ども3人の5人世帯になれば、47万円不足するが、その頃には年功賃金で収入が増える。税制上の配慮で税引き後の可処分所得が増える。児童手当などの社会保障給付が支給される。
以上から②経済的な不安は情報不足によるもので、実際には杞憂であることが分かる。

次の指摘が③子育てに対する負担感である。細分すればキリがないが、まとめれば「自分にできるかしら」ということだろう。だが、子育ては生物としての人類が世代を超えてやってきたこと。自転車に乗るとか、車を運転するとか、会社でミスなく仕事をするのに比べれば、本来ずっと容易(たやす)いはずである。それを不安にさせているのが、識者と称する人たちが撒き散らす脅しの数々である。
兄弟や甥姪、従姉妹が少なく、子どもに接するのはわが子が初めてなのだから、不安は当然。ならば社会からの手助けは、不安を煽るのではなく、子どもなんて思うようにならない生き物。愛情をもって精一杯やればいいのだ。規格外の子どもの場合でも社会、自治体で支援すると安心させるべきなのだ。

そして最後に④子育て環境の整備の遅さを指摘する声だ。保育所が足りない、児童手当が少ない、教育費が高い、自分の時間を奪われる。しかし環境は前の世代よりは格段に整備されているはずだ。天野さんははっきり言っていないが、それは「多々ますます弁ず」の類ではないか。
婚活における「アリとキリギリス」論。天野さんのこの部分が印象深かった。結婚は男女で行う。未婚の大群衆のうちから、結婚した男女がいなっていく。残りが少なくなるほど、「自分にピッタリ」という相手が見つかる可能性は低くなる。そして「これはという相手がいないから結婚できない」となって生涯独身者の仲間入りをすることになるのだ。生涯独身率はどんどん高まり、今では男の25%、女の15%という。
そこに落ち込むのが嫌なら、できるだけ早くから結婚相手を真剣に探すことだという。「そのときになってからで大丈夫」と婚活に無関心で過ごすキリギリスは、チャンスをみつけてはアタックするアリに勝てず、婚活の落ちこぼれになる。
最後に天野さんが指摘するのが、親と同居する若者への苦言。というかこれだけは改める必要がある日本の社会慣習。狩猟民族の系譜を継ぐ欧米では、成人すれば親の家を出ていくのが常識。狩猟の縄張り内の人数が増えては、全員が飢えることになるからだ。この伝統は今に生きており18歳くらいで別居を始める。
農耕社会では群れて住むことで生産力を確保できる。だが農耕で生計維持する専業農家はほとんどいなくなった。ほぼ全員が会社勤めの核家族であり、子どももまた会社勤めの核家族を形成する。ならば独り立ちの時期は早い方がよい。
親の家に居続けて、家事いっさいを親にやってもらえば便利この上ない。ところが親は老いる。その時点では子どもも中年だ。それから婚活に走りまわっても遅い。ぴったりの相手は結婚しており、残っているのは落ちこぼれ同士。かといって要求水準を下げるのはプライドや自尊心が許さない。まれに運よく相手が見つかるかもしれないが、その時点で出産、子育ての適齢期を過ぎている。
その点で親世代の意識改革が必要と天野さん。親が自分の体験で、学校を出て10年働いてから結婚というイメージでわが子に接するとしよう。しかし学校卒業時期が遅くなっているのだ。自身が高卒であれば卒業から10年後で28歳だが、子どもが大学卒業だと10年後には32歳である。日本人は長生きになったが、生物としての成熟年齢は変わっていない。つまり28歳が出産適齢期だとすると、32歳は時機を失した年齢になる。親の意識改革、社会のシステム改革をどのように進めるか。これまで論じてきた①から④の俗説を排除できれば、知恵は出てくるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?