葵の隠密(あらすじ兼第一話シナリオ原稿)
【あらすじ】
これは、戦国時代末期から、「パックス・トクガワ―ナ(徳川による平和)」と後世呼ばれし延べ二百数十年に及んだ天下泰平が確立された江戸時代初期に至るまで、戦なき平和の世実現の為に、己の生涯を捧げた偉人・中根正盛を主に題材にした歴史漫画である。
中根正盛こそ、江戸時代の歴史書・寛政重修諸家譜で、「在国の輩より国家の安否みな正盛について達す」と評された程、総じて徳川幕府スパイ機関・公儀隠密のトップ・大目付等を歴任した、初代家康~四代家綱歴代将軍の下で大活躍した隠密(忍者)、それ即ち今で云うスパイであった。
未だ誰も知らない日本史上最強実在スパイ・中根正盛の偉業が、本作にて御開帳なり。
【葵の隠密:第一話シナリオ原稿】
⑴第一話シナリオタイトル
運命の始まり!
⑵注意事項・略称記号一覧
◎ Ⓣ=テロップ
◎ Ⓝ=ナレーション
◎ Ⓜ=モノローグ
◎ Ⓡ=読みかた
⑶登場人物一覧表(順不同)
◎ 中根正寿丸(後の中根正盛)=本作主人公。徳川家臣・小姓(徳川秀忠小姓組)/十一歳(数え年、以下略)。
◎ 酒井与七郎(後の酒井忠勝)=徳川家臣・小姓(徳川秀忠小姓組)/十二歳。
◎ 柳生又右衛門宗矩=徳川家臣(徳川家剣術指南役)/二十八歳。
◎ 本多正信=徳川重臣(相模国玉縄一万石大名)/六十一歳。
◎ 本多正純=徳川家臣:本多正信・長男(徳川家康側近組)/三十四歳。
◎ 鳥居(彦右衛門尉)元忠=徳川重臣(下総国矢作四万石大名)/六十歳。
◎ 榊原(小平太)康政=徳川重臣(上野国館林十万石大名)/五十一歳。
◎ 徳川家康=徳川家当主(武蔵国江戸二百五十万石大名)/五十六歳。
◎ 文(Ⓡ:ふみ)=本作ヒロイン。徳川家・本多正信直属奉公下女。/十一歳。
◎ 徳川家光=江戸幕府第三代将軍(アバンタイトル時のみ出演)/年齢・壮年頃。
⑷原稿第一話本編
◇アバンタイトル(昼間/快晴)
明暦の大火以前の寛永年間頃の大変賑わう日本橋とその周辺景色図。その同景色図奥に江戸城とその天守閣も背景図描写。
Ⓣ「江戸・日本橋」
Ⓝ「江戸時代の歴史書『寛政重修諸家譜』には、主人公・中根正盛をこう評している」
寛永年間頃の江戸城・天守閣とその背景図。
Ⓣ「江戸城」
江戸城内、某大廊下の真ん中を威風堂々と歩く中根正盛。
同某大廊下にいた周囲の幕臣達は、立ち止まって正盛に対してお辞儀等している。
Ⓝ「在国の輩より国家の安否みな正盛について達す」
江戸城内の将軍執務室にて、時の将軍・徳川家光に対して自らブリーフィングをする壮年時代の中根正盛。
Ⓝ「これは、初代家康~四代家綱歴代徳川将軍の下で平和の世を実現するべく活躍した、実在スパイ・中根正盛に関する歴史物語だ」
◇見開き(昼間/快晴)
天守閣を含む江戸城を背景図に、少年・青年・壮年・老年計四時代の中根正盛を描く。
第一話題名よりタイトルを基本大きくする。
Ⓣ「葵の隠密」
Ⓣ「第一話:運命の始まり!」
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日/山城国・伏見徳川大名屋敷(朝方/晴れ)
山城国並びに伏見城双方の位置情報を、各自地図で記載描写。
伏見城並びにその城下景色を俯瞰図で描写。
Ⓣ「慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日、山城国・伏見城」
上空視点の伏見徳川大名屋敷俯瞰図を描写。
京都・伏見城の城下町の一角にそびえ立つ伏見徳川大名屋敷正門前も描写。無論、葵の紋所を記した旗印等を付け加えるのも必須。
Ⓣ「伏見徳川大名屋敷」
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日/山城国・伏見徳川大名屋敷・庭先稽古場(午前中/快晴)
梅雨時に珍しい快晴日和の当日、伏見徳川大名屋敷には、小姓・旗本の面々が、各自切削琢磨しながら剣術稽古等を行っている。
当時は、竹刀はまだ実用化・普及されておらず、「袋竹刀(ふくろしない)」と呼ばれる鍔を外した通常の竹刀に、先端から全体の半分ほどの部分のみに革袋を被せた物が、主に徳川家剣術指南役の柳生宗矩が用いた柳生新陰流を中心に使用されていたと推定される。
剣術稽古をしている面々の中で、袋竹刀を携えた小姓と見受けられる少年が二人おり、互いに構えて剣術試合をしている模様。
片方の試合に勝った少年は、主人公である元服前の「正寿丸」を未だ名乗る後の中根正盛で、負けた「与七郎」もまた同じく後の徳川幕府の老中・大老となる酒井忠勝である。
中根仙千代「与七郎さん、弱い」
Ⓣ「中根正寿丸(後の中根正盛)、徳川家・小姓」
酒井与七郎「また負けた!正寿丸が強いからだよ」
Ⓣ「酒井与七郎(後の酒井忠勝)、徳川家臣・知行三千石」
正寿丸・与七郎両人の試合を遠目で見ていた徳川家剣術指南役の柳生宗矩が近づいてきて、両人にそれぞれ話しかける。
柳生宗矩「与七郎、漢たる者が見苦しいぞ」
Ⓣ「柳生又右衛門宗矩、徳川家臣兼同家剣術指南役・知行二百石」
柳生宗矩「それと正寿丸、其方に用がある。供について参れ」
宗矩の問いかけに当惑する中根仙千代。
中根正寿丸「えっ!与七郎さんじゃなく、自分でございますか?」
宗矩が、正寿丸に含みのある口頭を述べた上で、与七郎に素振りを申し付けて、仙千代を連れてその場から去る。
柳生宗矩「大事な話だ」
柳生宗矩「それと並びに与七郎、其方には素振りの練習を申し付ける」
宗矩からの特別練習に驚く与七郎。
酒井与七郎「本当ですか!最悪だ」
その場から周囲の面々が見守る中、正寿丸を連れて屋敷邸内へと向かう宗矩。
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日/山城国・伏見徳川大名屋敷・某廊下(午前中/快晴)
黙々と歩く宗矩の後を真剣に黙ってついていく正寿丸。人気のないところで宗矩が後ろを振り返る形で正寿丸に問いかける。
柳生宗矩「正寿丸よ、これから使い走りの主命が授けられる。大事なお役目だ」
中根正寿丸「はい。しかと承知しました」
宗矩が、真剣な正寿丸の反応を見極めた上で、補足事項を内々に口頭で伝える。
柳生宗矩「使い走りの選抜条件は、元服前、京言葉ができる者、律儀な機転者の三つだ」
宗矩が、厳しい顔になった上で、手にした扇子を正寿丸の首元に突きつける。
柳生宗矩「推薦者はこのわしだ。未だ幼いとはいえそなたが適任と思ったからじゃ」
柳生宗矩は先の発言を述べた後、扇子で軽く正寿丸の首元を軽く叩いて忠告した。
柳生宗矩「だがな。これは遊びではない。今からならわしの手で取り消すことができる」
宗矩が再度手にした扇子で正寿丸の胸元に突きつける。
柳生宗矩「どうする正寿丸、今ここで選べ」
正寿丸は宗矩からの問いかけに対して、毅然とした態度でこれを快諾する覚悟を示す。
中根正寿丸「柳生様、このお話は中根正寿丸と見込んだ上でのお話だと思います」
中根正寿丸「僭越ながらこの正寿丸、武士として覚悟はありますので、謹んでお受けいたします」
この正寿丸の回答に感嘆した宗矩が、態度を一転、高笑いして正寿丸を褒める。
柳生宗矩「子ども扱いして済まなかった。正寿丸よ、大殿達が待っている。ついて参れ」
宗矩からの大殿こと徳川家康との対面という意外な言葉に驚愕する正寿丸。
中根正寿丸「大殿と御対面ですか!」
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日/山城国・伏見徳川大名屋敷・徳川家康執務室(昼間/快晴)
徳川家康執務室内にて、徳川家康を上段に、上下両段の間の左右に本多正信・正純親子、鳥居元忠、榊原康政が座り、下段に正寿丸と宗矩が顔を平伏しながら座っている。
家康は機嫌よく、優しい言葉で平伏する正寿丸・宗矩両人に顔を上げるよう命ずる。
徳川家康「二人とも来たか!面を上げよ」
Ⓣ「徳川家康 徳川家当主・武蔵国江戸二百五十万石大名」
中根正寿丸&柳生宗矩「ははっ!」
徳川家康と正寿丸・宗矩両人を注意深く見ている此の場の徳川重臣達を読者諸兄に自己紹介。尚、本多親子と榊原康政・鳥居元忠両人は左右別々に配置して区別する。
Ⓣ「本多正信 徳川重臣・相模国玉縄一万石大名」
Ⓣ「本多正純 徳川家臣・本多正信嫡子」
Ⓣ「鳥居(彦右衛門尉)元忠 徳川重臣・下総国矢作四万石大名」
Ⓣ「榊原(小平太)康政 徳川重臣・上野国館林十万石大名」
康政が。ごほんと喉を鳴らした上で、真剣な顔つきで、正寿丸・宗矩両人がこの場に呼ばれた理由を説明する。
榊原康政「両人を呼び出したのは他でもない。正寿丸、その方に用があり呼んだのだ」
榊原康政「実は、当家の使い走りとしての大事なお役目を、宗矩の推薦もあり、元服前のその方に任せたのだ」
齢十歳ぐらいの分別の思慮を覚えたばかりの仙千代にとって、恥ずかしい程嬉しさの余りに、その問いに次の様に理路整然と答えた。
中根正寿丸「これは望外の極みで、大変うれしゅう存じ上げます」
正寿丸の即答ぶりに家康以下室内の大人たちは異口同音に感心した態度を示す。
徳川家康「さすがは七之助、いや上野国厩橋三万三千石を任してある当家重臣・平岩親吉の孫よ。その正直さ、祖父に瓜二つだ」
正寿丸は予想外の家康からの賞賛に顔を緩めて笑顔になった。
中根正寿丸「大殿からの賞賛の御言葉、この正寿丸、大変うれしく思います」
家康が、正寿丸の品定めで結論を決めた上で、室内の人間に口上を述べる。
徳川家康「決まりだな。与右衛門殿への使い走りは正寿丸とする」
藤堂蔦の家紋と伊予国板島の地図を描写。
徳川家康「向こう側もこの真っ正直な骨のある若者ならば満足するだろう」
徳川家康の思いがけない発言に驚愕する一同。それを踏まえた上で家康がその理由を直々に周囲に言い聞かせる形で述べる。
徳川家康「恐らく宗矩から内々に話は聞いている模様だが、怖気もせず軽薄でもなく堂々と構えているのが、何よりの理由だ」
徳川家康は、手にした扇子をパタンと畳んで、傍らにいた正信に目配せする形で、正寿丸に業務内容等の説明を始める。
本多正信「では、中根正寿丸とやらに申し渡す。そなたのお役目は、当家と伊予板島八万石の藤堂家との使い走りである」
正寿丸が、本多正信の発言を聞き漏らしまいと。その左右の袴に両手を握りしめて真剣な態度で聞いている、
本多正信「業務内容は、必要な場合を除いて口外無用。未だ元服前とはいえ、危険と隣り合わせであるのは承知の上だと覚悟すべし」
正信の先の問いかけに大声で覚悟を決めた回答をする正寿丸。
中根正寿丸「承知しました」
正寿丸の堂々とした態度に改めて感心する素振りを見せる正信。
本多正信「子供故に恐れを知らないか、はたまた或いは覚悟を決めた上での器量者か」
本多正信「この童の行く末は頼もしいな。では話を続けて……」
正信が、家康の命を受けて正寿丸に業務説明を続けようとしたところを、本多正純が割って入る形で意見を述べる。
本多正純「やはり私はこの話気に入りません」
本多正純「確かに素質がある童には見えますが、如何せんお役目を考慮しても時期尚早でしょう」
この正純の横槍に正寿丸が正純相手に反論しようと声を荒げる。
中根正寿丸「正純様。これは大殿直々の御指示である筈です。それを三河武士たる者が主君に背くなどおかしくはございませんか」
この正寿丸の僭越した言動に激怒する正純、逆に反論して正寿丸に言い返す。
本多正純「別に自分は大殿の主命に背くにあらず、只時期尚早と申しているだけだ」
正寿丸・正純両者の口論に対して、家康が自席の肘掛け椅子を扇子で叩いて議論を中断させる形で解決策を提案する。
徳川家康「両人とも判った。では正純に申し渡す。どうすれば正寿丸を認めるのだ?」
正純は、我が意を得たとばかり、無理難題を吹っ掛ける。
本多正純「童とはいえ、私を何かで打ち負かしたらこの一件を承知した上で、正寿丸に先の詫びを入れます」
この正純の挑戦状に好機を見た正寿丸は、以下の回答を威風堂々と述べた。
中根正寿丸「では正純様、お互いに武士である以上、剣術勝負で決着は如何ですか?」
ここで議論を注視していた元忠が、感心した態度で正寿丸への応援発言をする。
鳥居元忠「それはおもしろい。両者とも武士同士。剣術ならば、互いに文句あるまい」
元忠と同じく議論を聞いていた本多正信が息子・正純を次のように窘める。
本多正信「馬鹿か。武術を嗜まない文官の其方が、大殿の御前で恥をさらしたいのか?」
正信の先の忠告を聞かない正純が、正寿丸に軽んじた態度で突っかかる。
本多正純「父上が放浪中の幼少期に、今は亡き大久保の先代様より手習いとして剣術ぐらい習得しています」
本多正純「まさか、自分も武士の端くれ。その自分が童相手に負ける気などありません」
正寿丸はニヤリとした不敵な笑顔で、先の正純の一連に及んだ失言を聞いた上で、こう挑戦状を突きつけた。
中根正寿丸「正純様、武士に二言はござりませんぞ。今のお言葉を言質として受け取ってもよいですか?」
この正寿丸の挑戦状に即答する正純。
本多正純「無論、異議なし」
議論の決着を聞いていた家康が、結論を決めた上で室内の面々に次なる指示をした。
その指示に各自従家康除く室内一同。
徳川家康「では、決まりだな。目の前の庭にて内々だが、暫く後双方剣術試合をせよ」
中根正寿丸&本多正純「ははっ!」
徳川家康「審判は子平太が取り仕切りせよ」
榊原康政「承知!」
一連の議論を無言で傾聴していた宗矩が、神妙な姿勢で頷いて当場面終了。
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日/山城国・伏見徳川大名屋敷・徳川家康執務室前庭先仮剣術試合場(昼間/快晴)
場面一転し、家康執務室の隣にある庭先にて、円を描いた試合場で互いに袋竹刀を持って向かい合う正寿丸と正純。
試合場の真ん中には康政が軍配を以て勝敗を決める審判の姿勢をとっている。
家康以下残りの面々は、黙って試合が始まるのを、各々固唾を飲んで見守っている。
そのシチュエーション中に、「失礼します」と掛け声をした齢十歳程度の下女の文が菓子類を手に持って家康執務室に入室してきた。
文「失礼します」
文が菓子類を持ってきたことに気がついた正信が手を招き寄せてこう述べた。
本多正信「よくきた、菓子類をここへ。其方も見物するか」
文「本多の主様、あの見知らぬ童は何処の者ですか?」
文の問いに説明する正信。
本多正信「あの童は、当家重臣・平岩殿の孫で確か名前は中根正寿丸と申す者だ。これより例の使い走りを決める試合を行うのだ」
これに対して意外そうな顔をした文がズケズケと呆れた顔でこう意見した。
勝「見たところ齢は私と同じぐらいか。それで大人の正純様相手に勝てると思うのかしら。阿呆らしいですね」
以下のような文の反応に対してクスクス笑って次のような問いかけをする本多正信
「そなたも物覚えは特段できるが、未だ子供じゃのう!文よ、面白いからよく見ておけ」
文は正信の言葉に半信半疑で聞きながら正信の隣に座って試合を見ようとする。
文が座って暫くした後、試合場にて互いに向かい合う正純が正寿丸に挑発した態度をとるが、正寿丸は泰然と余裕を構える。
本多正純「正寿丸よ、今からならば遅くはない。痛い目に遭いたくなければ、勝負をなかったことにしてもよいぞ」
正純は先の挑発に対して、余裕綽々の泰然と構えた正寿丸もまた、正純相手にこう言い返した。
中根正寿丸「どうぞお構いなく、正純様こそ自分も大切になされよ」
この正寿丸の挑発に激怒した正純が、手にした袋竹刀を上に挙げて勇猛果敢に仙千代相手に突っ込む形で試合はスタート。
本多正純「小僧、年長者を馬鹿にするか!よろしい、ならばこちらから仕掛けてやる」
激昂した正純の顔表情を描写
本多正純「後で泣いても知らんぞ」
思いっきり突っ込んで袋竹刀を振ろうとする正純の攻撃を数度に渡りかわした正寿丸。
この後、正寿丸は、反転して膝を屈める形で袋竹刀を正純のアキレス腱を勢いよく狙い突いた結果、体勢を崩して倒れ落ちる正純。
この勝敗を受けた康政が、軍配を上げる形で正寿丸の勝利を宣言し、家康以下聴衆一同も感嘆して各々拍手喝采をする。
本多正純「痛い!やられた」
榊原康政「勝者、中根正寿丸。よってこの試合終わりとする!」
呆れた表情で痛手を被った本多正純を立ち姿で見つめている中根正寿丸。
中根正寿丸「だから言ったでしょうが!」
この直後に、庭先の隣接する執務室で試合を観戦していた家康が席を立って正寿丸に近づいてこう褒め称えた。
徳川家康「なるほど、弁慶の泣き所とは。さすがじゃ、正寿丸よ、見事なり」
家康の賞賛の御言葉に平伏した上で次のように感謝の言葉を恭しく述べる正寿丸。
中根正寿丸「はっ!ありがたき言葉を頂戴頂き、感謝申し上げます」
家康・正寿丸両者の会話を見守っていた正信もまた、倒れている倅・正純に対して近づいてこう苦言を呈した。
本多正信「倅よ、だから言ったではないか。お前はまだまだ甘いな」
そして、正信は、近くにいた文に声を掛ける形で、正純相手の介抱を指示した上で、家康・正寿丸両人へ近寄った。
本多正信「文よ、済まないが、馬鹿息子の介抱の為に人を呼んでくれ」
文「主様、かしこまりました」
文がその場を立ち去った後、家康・正信・正寿丸三者が互いに近寄った上で、次のような会話をした。
本多正信「殿、この機転が利く童なら、使い走りとして問題ありますまい」
正信は、正寿丸の肩に右手を置く形で軽く叩いて正寿丸を褒め称える。
本多正信「正寿丸、先程は見事であった!」
次に正寿丸が正信に一礼して頭を下げる形でこう返答した。
中根正寿丸「こちらこそ本多様直々の誉め言葉、ありがたき幸せにございます」
最後に家康が、正寿丸・正信相手にこう述べた上でその場から立ち去った。
「件の話、これにて解決したな。七之助の孫、いや中根正寿丸よ。正信、其方が詳しい話を聞かせるように。ではわしは失礼する」
徳川家康が、康政・元忠両人を伴いその場から立ち去る形で場面終了。
◇慶長三年(西暦一五九八年)六月二十三日/山城国・伏見徳川大名屋敷・本多正信執務室(午後/晴れ)
正信に引き連れられて書類や本が乱雑しているその執務室に共に入室する正寿丸。
正信が、入室した正寿丸に対して下座に座るよう言い、自分も机が置かれてある上座にゆっくりと腰を下ろす形で相対した。
本多正信「正寿丸、まあまずは座れ」
中根正寿丸「はい」
神妙な面持ちで座った正寿丸に対して、正信が御役目について真剣な表情の厳しい姿勢でその説明を始める。
本多正信「中根正寿丸、そちには既に述べたように、当家の隠密活動の為に使い走りとして今後働いて貰う」
本多正信「だが、只の使い走りと侮るな!」伏見城内で寝込んで病芳しくない豊臣秀吉(太閤殿下)とそれを見守る取り巻き達。
本多正信「太閤殿下の病が芳しくない今、」
日本列島地図(沖縄除く)。
西暦一五九八年(慶長三年)時における東日本地域の主要大名達とその所在地図表。
本多正信「当家を含めた日ノ本の大名等各勢力が」
西暦一五九八年(慶長三年)時における中日本地域の主要大名達とその所在地図表。
本多正信「互いの野心と生き残りを賭けて、」
西暦一五九八年(慶長三年)時における西日本地域の主要大名達とその所在地図表。
本多正信「水面下で目に見えない駆け引きを既に始めておる」
正信の先の発言に緊張した面持ちでコクリと頷いた正寿丸。すかさず恐る恐る次のように険しい顔つきの正信へ質問する正寿丸。
中根正寿丸「つまり、太閤殿下が身罷ったら、再び世は戦国乱世に逆戻りになると?」
この正寿丸の問いかけに肯定も否定もしない正信。只、それに対して次のような意味深な発言をぽつりと呟くように言う。
本多正信「世の中一寸先は闇だ。今日の味方が明日の敵ともなり、その逆もまた然りだ」
そして本多正信は、本作マンガのテーマ『天下泰平』について初めて確固たる意志を持って正寿丸に問いかける形で述べる
本多正信「だがな、正寿丸」
本多正信「これだけは心に留めておけ」
戦国乱世の合戦シーン、戦場で女子供が泣いている場面も含めて両方書く。
本多正信「血で血を争う醜き乱世が」
本多正信「未来永劫続く筈など絶対にない」
太陽を真ん中に、江戸時代の日本橋をイメージモデル例として明るく市井の大衆が町の大通りを活気よく笑いながら歩いている景色。
本多正信「戦なき平和な天下泰平こそが、本来あるべき世の正しき姿形なのだ!」
正信の先の衝撃発言に心底ビックリ驚きを隠せない正寿丸もまた、同じセリフを繰り返し自問自答しながら呟く。
中根正寿丸「天下泰平、天下泰平ですか」
正信は、ふと我に返った様子で、話題を変える形で、正寿丸との会話を終わらせようとする。
本多正信「いや、つい熱弁をしたな。今の話は忘れてくれ!」
正信が一通の書状を正寿丸の前に置く。
正寿丸に初仕事の説明を済ませた後、部屋から退出するよう正信が命じる。
本多正信「明日、同じ伏見にある藤堂佐渡守高虎殿のお屋敷へこの書状を持参せよ」
本多正信「既に先方には話を通してある。では下がれ!」
退出する正寿丸を後ろで激励する正信。
本多正信「正寿丸、初仕事、大いに期待しておるぞ」
先述の正信の言葉に嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべて体を回転する形で深々と一礼する正寿丸。
中根正寿丸「はっ、ご期待に添うよう一生懸命励みます」
◇エピローグ(夕方・晴れ)
正信執務室から退出して一礼した後黙々と自身顔で歩く後姿の正寿丸を描写。
Ⓝ「こうして、少年は、後に日本史を大いに動かす史上最強スパイへの道を歩み始めた」
夕暮れの中を、一匹のカラスが空を舞う。
Ⓣ「第一話 END」
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