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「こころの隙間」とコミュニケーション-羅針盤#2-3

✔ お互いのことばは理解できなくても,こころを通い合わせることはできる.それが真のコミュニケーション.
✔ 人と向き合うと同時に,自分とも向き合った2か月間.
✔ 目の前にいる人とのコミュニケーションは,絶対に諦めない.

※前回の記事はこちら

「真のコミュニケーション」

———いまの仕事でやってるエリアマネジメントとか,人を調整するリーダーとか,恩送りとか,やっぱり「何かをつなぐコミュニケーション」みたいなのが一つ軸にあって,大事にされてるみたいですね.そのきっかけになった原体験とかありますか?

(東ア船参加のきっかけの一つともなったタイでのスタディツアー.)

あきさん(以下,A):タイのスタディツアーが一つありますね.タイの孤児院で子どもたちと触れ合うときって,共通のことばがないじゃないですか.子どもたちは日本語も英語もできない.私はタイ語ができない.言語でのコミュニケーションは成り立たないけど,名前を呼び合って一緒に遊んだり,何日か同じ場所で過ごしてるうちに,何か通じ合うものが出てくるんですよ.それで,お別れの時に6歳くらいの女の子が,わざわざかわいいぬいぐるみをくれて,どんな意味があったのかわからないけどそれがすごい嬉しくて,でも別れが悲しくてぐちゃぐちゃになるまで泣いてたんですね.こうやって,ことばでは通じ合えないけど心で通じ合える何かが,ほんとのコミュニケーションなのかなって思ったのが一つありますね.あと,少し話が変わるんですが,私2012年,18歳の時に母親を病気で亡くしてて.弟がまだその時高校生とかだったから家のごはんとか私が作ったりしてて,母親代わりじゃないけど頑張んないといけないことが結構あって,親子の関係とか家族の関係とかが自分の中に結構リアリティとしてあった中で,タイのプログラムに参加したんですよね.そこで親との絆がどうとかいう子どもたちを見たときに,家族はもちろん大事だけど,それぞれ一人ひとりで会う人たちとどう心を通わせるか,もしかしたらそのぬいぐるみをくれた子は大人になった時私のことを覚えてないかもしれないけれど,私に限らず一人ひとりいろんな人に出会っていく中で,そういう涙が出るような心を通わせる経験があることが,心を育むというか,成長につながると思ったんですよね.そういう中で心を通わせるコミュニケーションが大事だなって思うようになりました.

———そういうコミュニケーションは,同じ言語や文化を共有する人たちの間では起こりにくいですから,東ア船はそれを経験するのにもってこいですよね.

A:東ア船でもそういう,バックグラウンドが全く違う友達と心を通わせる体験とか経験を得たかったんだなあと思いますね.東南アジアに仲間を見つけて起業したいとか,そういうわかりやすい理由があったわけじゃないけど,そういう「こころのつながり」とかを求めてたんじゃないかなあ.

———タイでの原体験があったからこそ,東ア船の魅力に惹かれたわけですね.

A:その時自分の中でキーワードになってたのが,そういうコミュニケーションをうむ「場づくり」でした.その一つの形としてゲストハウスを作りたいと思ってたんですが,いまは「コバルドオリ(注)」という形でそういう場づくりへの挑戦ができてるんじゃないかなあと思ってます.

———東ア船の経験はそこで存分に活かせると思いますよ.

A:ただ,今振り返って思うのは,私は東ア船で人と向き合ってたつもりだったけど,同時に自分と向き合ってたんだなあと思ってて.AYLをやらせてもらって人のことを考えたりとかはもちろんしたし,すごくいい経験になったと思うけど,それ以上にやっぱり挫折がとか苦労が死ぬほど多くて.自分の能力不足もそうだけど,くやしい時がすごく多くて.それで,おなか壊してたりとかしてたし.苦しいとずっと思ってきてて,ひどいときは1時間に3回くらい悩んでたと思います(笑)なんで笑顔であいさつできないんだろう,なんですらすら手紙を書けないんだろう.とか,小さいことだけど.けど,そういう時に,ルームメイトがすごいポジティブで.内面からきれいだなあと思って.そういう子をみたら大体嫉妬するんですけど,なぜかルームメイトには嫉妬しなくて.そういう尊敬できる存在がいたり,あきちゃん頑張ってくれてよかったとか認めてくれる仲間がいたり.へこむこともあったけどそれ以上に人に支えられて,そういう気持ちの交換をたくさんしたなあと思って.

(船内でのルームメイトとのツーショット.)

———そういうコミュニケーションとか,気持ちの交換っていうのは,どれぐらいできたと思いますか?乗る前に期待してたのと比べて.

A:期待以上ですね.乗る前に考えもしなかったようなことをたくさん起こったし,考えました.

———コミュニケーションにまつわる経験のなかで特に印象に残ってることとかありますか?

A:ひとつ挙げるとしたら,マレーシアにホームステイしたときですね.シンガポールの子と一緒にホームステイしてたんですけど,シンガポールの子って英語なんて何のそのって感じじゃないですか.一日目の夜に,その子に「明日の服何色着る?」って聞かれてたと思ってたんですけど,色 (color) じゃなくて襟 (collar) の方を聞かれてて.その区別をぱっとつけることができなくて,「黒い服着ていくよ」って答えたんですね.それで反応が微妙だったからすぐ色じゃなくて襟の方だって気付いて,「あ,襟のこと?明日襟なし着ていくつもりだよ」って言おうと思って言いかけたんですけど,「あ,そっか大丈夫」って,そこでコミュニケーションを諦められたんですよね.それがすごい悔しかったですね.私は英語が好きだけど思い通りに話せる感じじゃなくて,例えばルームメイトは「ごめんねうまく言えなくて」っていったら「いいのいいの,英語なんてただのツールだから.コミュニケーションはできてるしこんなに仲良くなったでしょ」って言ってくれて.私がちょっと詰まってたりしたら,待っててくれたり助けてくれたりするんだけど,マレーシアで一緒にホームステイした子は違った.だからこそというか,そのギャップがすごい悔しかったなあって思った.

———その時はどうしようと思ったんですか?英語をもっと頑張ろうと思ったのか,それとももっとお互いがアプローチするコミュニケーションが大事だから,とか思ったのか.

A:英語ももちろん頑張ろうと思った.けど,私はこういう人には絶対ならないと思いました.目の前にいる人は諦めないと.その「こころの隙間」が,能力不足より悔しくて.だからこそ,こういうことを他人に対して絶対しないと思いましたね.それは日本語とか英語とか関係なしに.

———そういう,コミュニケーションのあきらめは,外国語とか第2言語でコミュニケーションする難しさを本当にわかってる人ならできないですよね.

A:例えばそれがもしかしたらミャンマーとかの子だったら違ったかもしれない.外国語として英語を学んでるものとしてですね.だけど,そのシンガポールの子と同じように第1言語や第2言語として英語を使ってるルームメイトが,「英語なんかツールだから」って言ってくれてるのがあったからこそ,諦められたのが悔しかったのかも.あとは,船の中でディスカッションのグループが一緒で,デートとかに凄い誘ってくれる子がいたんですけど,その子にディスカッション活動の宿題の意味とか聞いてたんですよ.自分じゃ理解追いつかないけどわかんなかったら置いて行かれて意味ないと思って.そういうつもりで聞いてたんだけど,「あきのそういう前向きな,くらいつく姿勢がすごくいいなって思って好きだ」ってその子が言ってくれたんですよ.そういうのって,コミュニケーションの形の一つでもあったけど,それ以前にコミュニケーションに対する姿勢とか生き方,パーソナリティの部分だと思うんですよね.それは言葉のスキルとかは関係なく大事で,そういうのは国境関係ないなあっていうのは思いました.

———コミュニケーション取る以前の問題ですからね,そういうのは.

>次回は最終回.#2-4「みんなをヒーローにする」に続きます.

(注)「コバルドオリ」
あきさんが関わっている、札幌駅前の遊休地暫定利用のプロジェクト。現場で企画や運営を担当している。詳しくはこちら

(編集後記~ざーたくの戯言#2-3~)
 母語でも第2言語でも外国語でも,コミュニケーションは聞き手がいてこそ成り立つもの.そして「聞き手の姿勢や態度の質」がコミュニケーションの満足度に大きな影響を与えます.「目を見られない,相槌を打たれない,質問をされない」状態であれば,どんなに話し手が素晴らしい話をしようとも,コミュニケーション自体はつまらないでしょう.特にお互いもしくはどちらか一方の運用能力が限られる外国語でのコミュニケーションは,あきさんが挙げてくれた例のように誤解が起こりやすい.ただでさえ誤解が起こる可能性が大きいのに,「理解できないお前が悪い」で済まされてしまってはたったひとことふたことの会話でも恐怖心が生まれてしまうでしょう.特に言語能力は育った環境など,自分自身の力ではどうにもできない要因が大きく作用してるので,「理解できない人」に全責任を負わせるのも的外れです.お互いが歩み寄り,理解しようとする「配慮」の上に,双方とも心地よいコミュニケーションが成り立つものです.「コミュニケーションにおいては,話し手ではなく聞き手が主導権を握っている」とはよくいったものです.

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