小匙の書室156 ─天久鷹央の推理カルテV 神秘のセラピスト─
突如として腐る体、永遠の若返り。
そんな奇想天外な『症状』に『診断』を下す統括診断部の元へ舞い込んだのは、奇蹟を起こす「預言者」の謎で──。
〜はじまりに〜
知念実希人 著
天久鷹央の推理カルテV 神秘のセラピスト
天久鷹央シリーズ、その推理カルテ5冊目。
今回もあらすじには怪しげな症状が羅列されています。
いわく──腐っていく体と若返りしていく体。そして、「預言者」に縋る母親。
きっと今回も、「いやいや、科学的に解けないだろうな……」と思っていることに対して、驚くべき『診断』が下されていくこととなっていくのでしょう。
「そろそろお前も学べ」と鷹央先生に言われてしまいそうです。
まあ何はともあれ。
「預言者」の奇蹟にどんな『診断』が下されるのか、非常に楽しみにしながらページを捲っていきました。
〜感想〜
今回もさくさくと読み進めていくことができました。ある程度お決まりのやり取りが増えてくると、それだけテンポ良くページを捲っていけるものです。ずっと楽しい読書時間でした。
以下、各話の感想です。
◯雑踏の腐敗
人混みに行くと、体が腐り始める。
そんな摩訶不思議な現象に、一気に引き込まれました。毎度のことながら「そんなの絶対に科学的に証明できない」と思ってしまうのは悪いクセでしょう(鷹央先生に叱られてしまいます)。
調査の過程で描かれる鷹央と小鳥の関係は相も変わらず。しかし鷹央の慧眼には毎度新鮮な驚きを覚えます。『診断』には「ははぁ」と感心するほど。
ホワイから派生するドラマも良かったです。最後のセリフもカチッと決まっていました。
◯永遠に美しく
怪しげな鍼灸師に通う母が異常な若返りを見せている。
その依頼を元に鍼灸院に見学へ向かった二人のやりとりが面白い。鷹央にとってのコンプレックスでもある、『実年齢と外見』に対する気持ちのありようがこの篇の特徴だと思いました。
いつまでも若くいられるのは美しいことだ。
しかし方法を誤れば取り返しのつかないことが起きてしまうかもしれない。
『診断』に係る医療にまつわる根本的な「ホワイ」はしっかりと広められるべきことでしょう。
人を本当の意味で若くするのは何なのか?
治療の大切さが身に沁みてわかる。一方、コミカルなやり取りが塩梅よく配置されていて、一気読みでした。
◯聖者の刻印
白血病を患う少女、そして過去から来る痛み。
まさかの人物との再会と、蘇るかつての『診断』の結末。
娘の骨髄移植を拒否する母親を説得するために挑むのは、『預言者』の奇蹟。
この篇は、ここまでの天久シリーズの総括ともいえるのかもしれません。過去と似通った流れでありながら、あの頃からは確実に成長している彼・彼女。
特に、鷹央の胸の内側でひりひりと存在を主張している『ファントムの病棟』が見事な歯車として物語を動かしていました。
そう、鷹央は空気が読めないけれどドライな人間ではないのです。あの日の痛みを乗り越えるための彼女の奮闘が、小鳥の励ましが良かったです。
病に罹ったとき、信じられるのは何か。
医療と宗教との視点で描かれる「信じること」の形。最後の最後までドキドキさせられました。
〜おわりに〜
本編もそろそろ現時点での折り返しを迎えます。
ここからは『事件カルテ』(長編)がメインとなってくるので、また気を引き締めて続刊を手に取っていきたいと思います。
はてさて。アニメはどこまでの話をやってくれるのだろう。この記事でも取り上げた『ファントムの病棟』は号泣不可避だろうな……。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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