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【小説】ラヴァーズロック2世 #27「オータム・イン」

あらすじ
憑依型アルバイト〈マイグ〉で問題を起こしてしまった少年ロック。
かれは、キンゼイ博士が校長を務めるスクールに転入することになるのだが、その条件として自立システムの常時解放を要求される。
転入初日、ロックは謎の美少女からエージェントになってほしいと依頼されるのだが……。

注意事項
※R-15「残酷描写有り」「暴力描写有り」「性描写有り」
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※連載中盤以降より有料とさせていただきますので、ご了承ください。


オータム・イン


「自分が作った料理を食べて大きくなった子供だからね……自分の分身であると同時に別個の人格でもある息子が、今自分の手料理をモリモリ食べている。それをこうして頬杖をつきながら眺めることができるなんて……人間にとって、これ以上の幸福があると思うかい?」

そういうパパの隣で「うん、うん」と合の手を入れる、うっとりとした表情のママ。

3人で囲む夕食のテーブル。並べられた黄緑色のサラダボウルには、作り置きのヒジキや切り干し大根の煮物。それから、何だかよくわからない漬物が少々。

むかし多くの文化人類学者を苦しめたとういう、この国の庶民が昔から食べていた典型的な家庭料理だ。

全てが冷え切っていて、温かいのは白米だけ。頼むから、もっと体に悪い食品添加物だらけの美味い飯を食わせろ……。

ロックは味覚を閉ざし、ついでに自立システムのほとんどを閉ざして、口先だけの団欒をやり過ごさなければならなかった。

両親は明らかに、かれに気を使っているようだった。

不安定な年ごろとはいえ、特にここ最近のロックの劇的な豹変ぶりに戸惑っているのだろう。

なるべく刺激しないように……今こそ沼のように深い、いや、海のように深い〈愛〉を発揮する絶好の機会なのだから……。

「今月中にはオープンするそうだよ」

「開店祝いもね。そろそろ考えておかないとね」

ロックのパパとママが話しているのは、知人が開業するベーカリーショップのことだ。

「もしかしてオータム・イン? 坂の途中の……」とロック。

「よく知ってるね」と驚いた顔のパパ。

「だいぶ前から看板がついていたから……」

パパとママは顔を見合わせ微笑む。

ああ、そういえば秋野家にはロックと同じくらいの年頃の娘さんがいたからなぁ……そりゃあ気にもなるだろう……そんな顔つきだ。

確かに、ロックは秋野家の娘と遭遇していた。

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