【小説】ラヴァーズロック2世 #33「無言のラリー」
無言のラリー
ある土曜日の午後、ふたりはバトミントンをしようと家の前の車道へ出た。
今はすっかり落ち着いた〈泉〉の様子を今朝早くに見にいった涼音が、裏庭の物置で偶然見つけた、といってラケットを持ってきたのだ。
「これは暇つぶしじゃないから。勝負だから」と涼音。
ところが、ふたを開けてみると彼女は全く話にならないレベルだった。ラリーが全く続かないのだ。
ロックは軽い殺意を感じながらも、何とかゲームを続けた。
近くで大規模な建設工事があるらしく、休日だというのにダンプトラックが頻繁に通る。その度に、いちいちふたりは道路わきによけなければならなかった。
ゲームを中断されるたび、涼音はトラックに向かって罵倒を浴びせた。
それは怒っているというよりも、バトミントンの下手さ加減に恥じ入っている自分自身をごまかすために大げさにふるまっているようにも見え、また、今にも爆発しそうなロックの感情の矛先を自分以外の何かに向けさせようと必死になっているようにも見えるのだった。
そんな涼音のわざとらしい立ち振る舞いを眺めているうちに、ロックはある種の愛おしさのようなものを感じ始めていた。
と同時に、ロックは確信する。理由はわからないが、間違いなく涼音は自分を恐れていると。
ここから先は
747字
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?