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アカデミー賞フィンランド代表作『ガール・ピクチャー』感想

第95回(2023年度)アカデミー賞® 
国際長編映画賞部門
フィンランド代表作品!

公式サイト(https://unpfilm.com/girlpicture/)より

「どんなあなたも、愛してる。」

2023年4月7日公開のフィンランド映画
『ガール・ピクチャー(原題:Tytöt tytöt tytöt)』を観てきました!

公式サイト(https://unpfilm.com/girlpicture/)より

とーってもおしゃれでかわいい雰囲気!

ほの暗く美しい音楽と映像、フィンランド語音声、LGBTQ+、
Z世代女子の赤裸々な青春ストーリーに大号泣。
Mimmi、Rönkkö、Emmaの3人の主人公が三者三様にチャーミング!

映画のキーポイント3つ
を、感想を合わせて書き残します。
※以下は盛大にネタバレを含みますのでご注意を~

あらすじ

北欧フィンランドを舞台に、人生を揺るがす運命の恋と性の冒険に巡り合う3人のティーンエイジャー(17-18歳の高校生)を描いた青春映画。
クールでシニカルなMimmiと、素直でキュートな親友ロンコRönkkö。同じ学校に通う2人は放課後にスムージースタンドでアルバイトしながら、恋愛やセックス、将来への不安や期待についてのおしゃべりを楽しんでいる。
そんなある日、恋愛感情を抱いたことのない自分に悩んでいたRönkköは理想の相手との出会いを求めてパーティへ繰り出すことを決意。Rönkköの付き添いでパーティに参加したMinmiは、大事な試合を前にプレッシャーに押しつぶされそうになっているフィギュアスケーターのEmmaと急接近する。

参照:「映画.com」

①「自分に正直に」。
でも、大事な"たった1つ"にだけは、難しい。

「自分に正直に」、これが映画のテーマだと私は思いました。
3人は、好きなことは好き、嫌なことは嫌とはっきり言える性格で、
基本的には非常に自由に、素直に生きています。

だけど、「自分にとって一番大事なもの」にだけは、正直でいられない
それは、大事だからこそ。
3人はそれぞれ、自分のコンプレックス・執着に向き合っていきます。

左から、Rönkkö→Mimmi→Emma

クールなMimmiは「家族」。そして「破壊衝動」。

シングルの母が大好きだったMimmi。
しかし中学生の時に母が再婚・弟が誕生。
母と母の新しい家族の幸せを傷つけないように、
必死に母への寂しさを隠します。

平気なふりをして笑うMimmi。
その穴は、親友のRönkköも、恋人のEmmaも、埋めることができません。
その寂しさが積もり積もって、クラスメイトや大切な恋人まで、心無い言葉・態度で傷つけてしまうのです。

Rönkköに、「うまくいかないことに、私は向き合って努力している。
でも、あなたは逃げているだけじゃない!」と言われ激昂し、
ついにはバイト先で破壊騒動を起こし、警察に補導されてしまいます。
大事なのに、壊したくなるの。私は悪い子だから」と泣くMimmi。

署に迎えにきてくれた母に、「忙しいのにごめんね」と謝りつつ、
私だけのお母さんでいてほしかった」とやっと言えた本音。
母と向き合うことだけが、Mimmiの傷が癒やせるのだと感じました。

キュートで明るいRönkköは「性愛」。

Rönkköは、男性に恋愛感情はあれど、その人とキスやセックスすることには興味がありません。
「みんなと違う」ことを信じたくなくて
彼女は果敢に出会い系パーティーに繰り出します。

男の子の前で余裕ぶって性的な話をしてみたり、
Mimmiのアドバイス通り自分からセックスをリードしてみたり。
かなりイタイ行動を重ねて4度もセックスを試みますが、どれもうまくいきません。
「こんなに頑張っているのに、どうして私"だけ"うまくいかないの!」という嘆きがすごく共感できました。

失敗と経験を経て、「キスもセックスも好きでない自分」を堂々と認められるようになった、すがすがしい笑顔のRönkköが最高にかっこよかったです。
真実の(性)愛を知る、みたいな強引さがない物語に好感を持ちました。

フィギュアスケート選手のEmmaは、「夢への愛」。

練習は1日3回、毎日の食事管理、両親の期待とハードな日々。
ヨーロッパ選手権前に得点源のジャンプが飛べなくなってしまい、
焦りとプレッシャーからどんどん追い込まれていきます。
Mimmiに「どうしてスケートが好きなの?」と聞かれ、
スケートが好き、っていう顔には見えないわ」と言われるほど。

Emmaは、失敗続きのスケートから逃げ、恋人・Mimmiとの愛に救いを見出そうとします。
ついには選手権の前日に「もうやめる!」とリンクを飛び出しますが、
それに疑問を抱いたMimmiにも裏切られて絶望します。

翌日の選手権、ショートプログラムでも、やはりジャンプは失敗。
コーチに「初めて試合に出た5歳のあなたはスケートが大好きで、
どんどん吸収していっていた」と声を掛けられ、
ようやく「スケートが好きで好きで仕方なかった」頃の自分の気持ちを思い出します。

スケートへの愛を確信したEmmaは、フリープログラムで成功し、
無事ヨーロッパ選手権出場を叶えるのでした。
夢を追っているとき、困難が多すぎて自分の「好き」の気持ちを見失う苦しさは痛いほどわかるので、Emmaのラストの感激はひとしおでした。

②自分を救えるのは、やっぱり自分しかいない。

ご都合主義のラブロマンスがあふれる昨今。
MimmiとEmmaは恋人に、Rönkköも優しい男性に出会います。

だけど、彼女たちを救うのは、好きな人の「Loveパワー」ではなく、
自分しかいなかった
、というメッセージが響きました。

特にEmmaは、スケートへの焦りをMimmiの愛と応援が、スケートへの愛を思い出せてくれるのだと思っていました(笑)

失敗に、弱みに向き合ってしか、救われない。

もちろん他人に頼ることも大事だけれど、自分のことだから、
自分で自分を何度も泥臭く見つめ直さないといけないんですよね。

③リアル。グッバイご都合主義。
でも、最後は希望を。

非常に「フィンランド映画っぽいな」と思ったところです。
MimmiとEmmaは序盤で(惹かれ合った理由も謎のまま)付き合うし、
パーティー三昧の青春は日本のティーンには馴染みがなく、
非リアルだな~と感じます。

だけど、
「うまくいきそう…! いや、だめか。
今度こそ…!? うーん、やっぱりうまくいかない。」

映画はその繰り返しでした。
でも、現実ってそんなものですね。
特に、Rönkköが相性ぴったりの優しい男性を振ったシーン。

無責任にヒロインの幸せを願う(はやし立てる)「いち視聴者として」残念でしたが、
「現実の私として」は、どんなに素敵な人でも、心がついていくかどうかが決め手だよなぁと。
波瀾万丈ですが、最後は3人ともハッピーエンドのフラグを残して終わります。

「頑張ればいいことあるかな、劇的な何かはなくとも」。

そんな風に勇気づけられる作品でした!

オマケ:そのほかの考察

・タイトル「Tytöt tytöt tytöt」の私なりの解釈
タイトルを「tyttö(女の子=tytötの複数形)」とせず、単数にするのは、
Mimmi、Rönkkö、Emmaが1人1人全く違うことを表すのにもぴったりだなと。

まとめて「女の子たち」なんて言えないほど、濃くて深い物語です。

・フィンランドと日本の恋愛観の違い
フィンランド:クラブ・パーティーが出会いの場、そのままワンナイトも
日本:パーティーなどは基本知り合い、性的接触は付き合ってからが一般的

この映画は女の子たちの真っ裸な激情を描いているので、「あれ?フィンランド人のシャイさとは?」とちょっとびっくりするかも(笑)
男の子がでしゃばらない・かっこよすぎないところも、
「女の子」をテーマにした作品、男女平等のフィンランドらしさが一気通貫されていると感じました。

・「多くを語らない」フィンランド映画
2人が最悪の出会いから、当日に一転して付き合うまで、惹かれ合った理由などは全く描かれません。
なんというか、主人公たちに隠し事をされている感じ。
『かもめ食堂』もそんな雰囲気ですよね。

日本人はこれを「すっきりしない!」と感じるかもしれないけど、
フィンランド人たちはその余白を楽しんでいるのか、寡黙さゆえか

*終わりに

これは、恋の、夢の、家族の、友情の、物語ではありません。
「10代の女の子」の物語です。

フィンランド語を聞きたいな~という軽い気持ちで行きましたが、
非常に刺激的な作品でした。

私も自分の大事なことに正直に向き合うことを恐れず、
自分らしい人生を導ければと思います。
ぜひ機会があればご覧ください!


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