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学級崩壊~大人ですが

 私は日本語学校の非常勤講師をしている。
今まで3校に勤務した。そのうちの2校で学級崩壊とも呼べる状態を経験した。驚いた。学級崩壊とは、不良の多い高校や、小1問題として認識していたが、まさか自分に降りかかるとは…。

 日本の生活に不満を募らせた不幸? 不運? な学生がどんな言動をするのか、紹介する。
 授業を無視して、読書、立ち歩く、大声の私語、イヤホンで音楽?  膝の上で映画、眠る、食べる。夫婦そろって同じクラスにいて、母国にいる子どもと電話をしていたなんてのもあった。時間がないからと、終わりの時間が近づくと毎回、弁当を食べ出す学生もいた。
 このすべてに中止指令を出すが、がんとしてやめない時も少なくない。机をたたいて怒鳴る程度は、彼らは平気の平左である。

 講師側は弱い立場、触ることは許されない。引っ張って外に追い出す行為などできない。
(中には暴力行為をした学校があるそうだが、それは論外)
 以前にも書いたが、目に余ると、欠席扱いにする。上に書いた行為は、もうすでに目に余る範疇だが、およそは甘くしている。
 講師はミーティングを重ね、なんとか卒業までもっていくことになる。

 この他にも、化粧をしたり、足の爪を切ったり。何か月もシャワーすら浴びず悪臭をはなった学生は、さすがに強制的に入浴させた。
 毎日具合が悪くなり、欠席から退学に至った女子は、すぐ帰国したはずが、一年後、出産してあらわれた。つわりだったのだ。
 実はこの、予定外の妊娠の話は、ある国の学生に多い。避妊や計画出産の意識がないのだろう。

 また、母国で勉強の経験がほとんどない学生もいる。母国語の文字が書けるのかどうか疑わしい。留学の書類などは、お金で手に入るし。
 そんな学生を集めたあるクラスは、2年の学習期間を経ても、ひらがなが覚えられなかったそうだ。
 複数の講師が悲鳴を上げてしまい、その後、その国からの留学生は、大学卒にしぼったと聞いた。

 私は日本語教師を始めた当初から、授業を無視するクラスを担当した。
実は、学生は最初から、このような「ハズレ」の行為をするわけではない。
瞳をキラキラさせて頑張っていた学生が、およそ2年目になると崩れ、崩れがエスカレートすると、一つのクラスに集められることになる。そんなクラスだった。
 
 私は悩んだ。でも距離を置いて考えるようになった。それは、同じようなクラスを担当した講師が悩んでいるのを見て、そのクラスのベテラン講師が
「あなたのせいじゃないからね」と力強く言ったのを、たまたま聞いて、
自分もそれでいいのかもと思ったからだ。
 崩れた学生のクラスは、どんな講師でも立て直せないのだ。

 なぜ、彼らは崩れるのか。
その要因・原因は一言では言い表せない。私の知っている一部であるが書いておこう。
 アルバイトのしすぎで疲れてしまい、授業どころではないということだ。
借金を背負い、家族の稼ぎ頭として来日する学生が少なからずいる。貨幣価値がかなり違う国からの学生だ。
 アルバイト代のほとんどを家族に送金し、そのお金で母国の家族は潤い、自慢の子どもという立場になる。10万円も送れば、かなりの高給取りだ。母国の家族はぜいたくをし、留学生にたかるような感覚になる場合もある。遠慮なく「金送れ」と言われることも少なくない。彼らにとっては家族が最も大事、身を削って送金することになる。
 実は留学生には、週に28時間以内、というアルバイトの規則がある。
これを超過して働き、入管にみつかると、一度は「注意」になるが、二度目はない。即、帰国になった学生を何人も見てきた。
 そんな危険もかえりみず「今」を追い求める。その訳のいったんが見えてきた。それは貯金の習慣がないということだ。なぜかというと、銀行など信用できないからだそうだ。レートの乱高下もあるし、だましもあるし。お金はすぐ使わなければなくなってしまうかもしれないのだ。
 また、政情も安定しなかったり、ワイロ社会だったり、持ち金を必死に繰り出して生活していて、将来など「先」を考えることができない。アジアで経済発展がめざましいなんて言われる国だったりするのだが……。

 日本で進学したり、長く生活するとなると、どうしても貯金が必要だし、
アルバイト超過のことにしても、学校側は繰り返し繰り返し忠告する。
でも留学生の多くは、母国の先輩が言ったことが正義であり、学校側の指導は信じない。結果、だまされたり、ビザを切られたり…後の祭りになることも少なくない。

 ある学生が私に聞いたことがある。アジアの最貧国レベルと言われる国のからの学生だ。
「先生、大学卒の給料はいくら?」
「う~ん、だいたい20万~23万くらいかな」
「それは半年とか?」
「……1か月分です。あなたも頑張って大学を出れば、もらえるよ」
と言いながら、まずいことを言っちゃったかなと。デキないクラス、卒業間近か、大学進学は絶望的であったから。
 もっとずっと早く知っていたら、努力したのだろうか…。

 日本で成功することを目指してやってきて、アルバイトの給料に目がくらむのか、それが成功だと勘違いしてしまうのか……勉強をサボり、自分の将来を閉ざしてしまう留学生が、なんと多いことか……。

 月に40万もらう通訳の知り合いの話を出して、高給だから進学なんかするより、その方がいいじゃないか、と言った学生もいた。大学を出て、優良企業に勤めれば、やがてその収入を追い抜いてしまい、その後は差が開いていくのだ、しかも目に見えない福利厚生が充実している、という現実を、私は彼に伝えられなかった。やはり卒業間近だった。

 このような、一見不真面目な学生たち、犯罪に近い場合もあるし、不法滞在にもなり得る。でも単純に非難して、日本から追い出せばいいのか?  労働者不足、めちゃくちゃ厳しい就労ビザ、人口減少……さまざまなことが関わっている。簡単に判断はつくのか?

 慎重に賢く考えていかなければいけないと思う日々なのである。


 

 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 



 
 

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