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第54回 社会保険労務士試験 選択式の合格基準予想

まえがき

8月第4日曜日に社会保険労務士試験(以下、「社労士試験」という)が行われました。受験生の皆さん本当にお疲れさまでした。

受験生を続けられている方はご存じだと思いますが、社労士試験にはドラマがあります。悪問・奇問が当然のように出題され、それが択一式での出題であればそれはそれとされて終わり(過去で言えば「千代田区長」とか)なのですが、選択式での出題であれば、その1問で不合格になる方が続出しているものと想像します。

というのも、社労士試験には選択式は各科目5点中3点、択一式は各科目10点中4点の足切り基準があり、選択式の5点中3点は決して低くない基準です。ただし、受験者の得点分布により足切り基準が下がることになるのですが、合格発表までわからず、この基準について、過去にはTACの平均点が3.5点以下だと2点救済が行われる可能性が高いという「TAC3.5点説」とか、いろんな説が流れていました。

第47回(平成27年度)までは、
「※上記合格基準は、試験の難易度に差が生じたことから、昨年度試験の合格基準を補正したものである。」
の一文で示され、どうして選択式の2点救済は行われないのか、択一式で1点足らず納得いかない受験生があふれていました(多分)。
 ということで、今もそうだとは思うのですが、試験日から合格発表まで5ch(旧2ch)が盛り上がっていました。

しかし、社労士試験は遊びではなく、ただでさえ、悪問は言い過ぎでも合否に直結する奇問が当たり前のように出題され、合格基準も納得いかない多くの受験生達からの猛クレームや情報開示請求が行われたと推測していますが、第48回(平成28年度)に厚生労働省から「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(参考1)」が公表され、以後、科目得点状況表まで公表されるようになりました。

「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(参考1)」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/sankou1.pdf

公表された「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(参考1)」には科目最低点の補正についても記述があり、選択式のいわゆる2点救済について内容をまとめると
「全受験生の各科目の得点について3点以上の割合が5割未満で、2点以上の割合が7割未満(1点以下が3割以上)の場合に2点救済が行われる」ということになります。

各科目の分析


それでは、さっそく各科目について、感想と合格基準予想をしてまいります。

労働基準法及び労働安全衛生法


Aが解雇日についての問い、DEの安衛法、BCが判例からの出題。難易度レベルはすべてが易または普通。勉強をしていなくてもA以外回答できそう。
まあ、特筆することもなく2点救済はないとしていいのではないでしょうか。

労働者災害補償保険法


ABが障害給付について、CDEが特別加入についての出題。ABについては、何級になるかということと、差額分がもらえること。難易度レベルは易と言い切ってよいだろう。簡単だったといってよい。CDEについては、文脈で回答できそう。
この科目も、特筆することもなく2点救済はないとしていいのではないでしょうか。

雇用保険法


この科目のみ選択肢が4択で与えられた。確かに、例年この科目は基本的な出題が多いため過去と比較すると難しかったのは間違いない。AとEは超基本でここの2問は確実に正解できると思われます。Bは2択で迷うけど正解肢(離職票)を選べる出題、Cは知っていないと厳しい、Dはきちんと理解していないと厳しい。この難易度でも例年よりは高いように思いますが(実際選択しが4択にされているし)、AとEが簡単すぎるので、2点救済はないと思います。

労働に関する一般常識


ABCが障がい者雇用に関する出題、DEが雇止めに関する判例。ABの難易度は易、Cは知っていても知らなくても正解肢(ジョブコーチ)を選ばないと仕方ない。DEもよく読めば決して難しくないというか簡単でしょう。過去一簡単だったのではないでしょうか。2点救済はないと言い切っていいでしょう。

社会保険に関する一般常識


今年のメインディッシュは最後に・・・。

健康保険法


5問とも難易度は普通。超基本ではないけれど、難問でもない標準的で良問での出題。数字が問われる出題が4問あったけれど択一式の勉強だけで十分対応可能な出題。
まあ、特筆することもなく2点救済はないとしていいのではないでしょうか。

厚生年金保険法


ABがセットの問題。しかし、Aの方は間違いようがないのではないでしょうか。Cの遺族厚生年金の問題はYかWの2択のだけれど難問。きちんと理解できていて正答を選択できた方はすごいです。XとYに子がいれば、Yになり遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給しますが(当たり前)、子がいないためWが遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給することになります。本当に子がいなければ、遺族基礎年金を受けられる者がいないため、Yが遺族厚生年金を受給することになります。Dの計算問題は簡単なものですが、計算問題自体苦手な受験生割合が高いので、正答率は難易度のわりに高くないように思います。Eの難易度は易だけれど、受験生全体の障害年金の理解がどれほどなのかは微妙。Aは確実に正解。B、D、Eで2問正解は難しくないと思うけれど、もともと厚生年金自体が難しいので、2点救済はないと思うけれど、あってもめちゃくちゃびっくりしたりしないと感じです。

国民年金法


CDEは選択式の対策を少しでもしていれば余裕でしたね。Aの障害基礎年金の停止、Bの寡婦年金の計算額の問題も基本です。
2点救済はないと言い切っていいでしょう。

それでは、今年のメインディッシュの社会保険に関する一般常識です。

AからEまで次の内容が問われました。
A:国民医療費の高齢者(65歳以上)が占める割合
B:企業型確定拠出年金の死亡一時金を受け取ることができる遺族の順番
C:児童手当
D:介護保険の要介護状態について
E:介護保険の要介護状態について

選択肢は①から⑳までですが、各問4択で考えられるものであったといいでしょう。

まず、問Cについて、「負担は・・・がすると規定されている」と長々と書かれているが、
実際は、児童手当が受けられる年齢を聞かれているわけで、ここでの1点は必須。

次に、問Aについて、選択肢は、31.0、46.0、61.0、76.0が示されているわけであるが、
この問いに対して、試験対策や一般常識として回答できた方は少ないと思われます。
しかし、31.0を選択した人は微少で、61.0、76.0を選択した方が大半だと予想して、
仮に、31.0または46.0・・・2割、61.0・・4割、76.0・・4割としたら、
この問いの期待値は0.4点とします。

次に、問Bについて、選択肢は、(生計維持のない)配偶者、実父母、(生計維持のある)子、養父母の
(生計維持のない)配偶者、か(生計維持のある)子の実質2択です。
そもそも、これが企業型確定拠出年金ではなく基礎年金、厚生年金の死亡一時金だとしても受験生にとっては
そこそこ難問だと思います。
また、労災の遺族(補償)一時金としても、決して簡単ではないでしょう。

ちなみに、基礎年金、厚生年金の死亡一時金は生計維持関係は必要ないですが、生計同一関係が必要です。
労災の遺族(補償)一時金とこの問いは優先順位が同じです。

実質2択でも、正解肢を選択できなかった方が多かったのではないかと予想し、
この問いの期待値を0.3点とします。

最後に、問Dと問Eについて、社一の頻出の介護保険法から2問出題し、受験生には点を取ってもらおうと
する意図が読み取れました。仮に、ABがとれなくてもCDEで確実に3点取れるでしょうと出題側の声が聞こえてきます。
「要介護状態」の定義が問われた、問いの難易度ははっきり言って基本レベルで基本テキストに絶対掲載されているし、
し、介護保険のパンフレットにも当然書かれています。

しかしながら、例えば、健康保険法でこのレベルが出題されたら、勉強しているから正解できるけれど、
介護保険法はあくまで、社一の1科目であるため勉強あまりしていない。ゆえに正解率が低くなるということなのでしょうか。

問Dについて、2か所空欄されており、後ろの空欄に⑪が入るのは文脈がおかしいのと、⑲だと「認知機能」のみが要介護の
要件になるのは違うは判別できるので、実質2択。加えて、もともと選択がなくても正解できる(上位)層が一定いると予想し、
期待値を0.5点とします。

問Eについて、全くわからないという人からすれば4択。Dと同じく、選択肢がなくても正解できる(上位)層が一定おり、
数字なのでDよりも少しその層は多いのではないかと予想し、期待値を0.5点とします。

以上で各問いに対する分析が終わりました。

ここで、救済基準について戻ります。救済基準は、「全受験生の各科目の得点について3点以上の割合が5割未満で、2点以上の割合が7割未満(1点以下が3割以上)の場合に2点救済が行われる」ですが、


「3点以上の割合が5割未満」は満たすように思います。Cを正解して、他の問いは期待値を合計すると、2.7点になります。

「2点以上の割合が7割未満(1点以下が3割以上)」はどうでしょうか。

1点以下になるのは、大別して以下のとおりです。
⇒Cを正解して、他の4肢をすべて間違える。
⇒Cは不正解、他の4肢で正解1問以下。

これを合わせて、受験生の3割以上なら救済が行われます。そうでないなら、救済は行われません。

・Cを正解して、1点終わるのは少ないように思います。
・Cが不正解の場合、期待値は1.7点。児童手当この問を深読みして間違えたのではなく、難しくてわからなかったという底辺層には介護保険の問題もわかるわけがなく、2点取るのは難しいと思います。

Cの正解率が50%なら、救済はあるでしょう。
正解率が90%なら、ないでしょう。でも、簡単だといっても正解率はこんなに高くはないと思います。

予想の最後は「感と勘」!

今年の社労士受験生の知識レベルが高いものと信じて、
「社会保険に関する一般常識」の2点救済はないと予想します。

総括と結論

今年の社会保険労務士試験選択式の出題については、実力上位層なら運悪く足切りに引っかかるような出題では決してなかった。

雇用保険法が例年より難易度が高い内容となり、出題側もおそらくそれを認識しており、各問に選択肢を用意する手法をとったが、3点という基準は(実力があれば)なんとかクリアできそうな水準だったと思われる。

試験終了後、社一の救済希望が一部で叫ばれるようになったが、あるかどうかは微妙。救済の基準については前述のとおりで、受験生のレベルが高ければないし、低ければあるということになる。出題内容は悪問ではなく、良問の部類に入ると思うし、特別難易度が高いわけでもない。

コロナ禍の前までは、一般常識はあるけれど勉強はしていない層が一定おり、それが労一の救済の弊害となっていた(と自分は思っている)が、コロナ禍と受験料の値上げが原因であるのか、その層が受験しなくなったからなのか、ここ近年では労一にも救済が入るようになった。

救済が入るかどうかは、受験生全体の得点分布により決定される。

Twitterのフォロワーが少なくなるのを覚悟で本音を書くと、雇用保険法で救済が行われたのなら、「確かに例年よりは難しかったからなあ」と思うけれど、社一に救済が入るようなら、「このレベルで救済あるのか。社労士試験の受験生のレベル低いなあ」とがっかりすることと思う。

選択式全体で、40点中27点(救済なし)だと予想します。

ご精読ありがとうございました。

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