見出し画像

週40時間を超えても大丈夫? 「1年単位の変形労働時間制」も検討されましたか?

1年単位の変形労働時間制という制度をご存知ですか?通常は1日8時間、週40時間が労働時間の限度であり、その時間を超えて働かせると時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となります。1年単位の変形労働時間制とは、労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、1年を平均して1週間の労働時間が40時間以下の範囲内において、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

建設業などの完全週休二日制を導入していない業種の会社にてこの制度をうまく活用することで、労働時間が1日8時間、週40時間を超えても時間外労働とならない場合があります。今回はこの1年単位の変形労働時間制について解説していきます。

1年単位の変形労働時間制の概要

1年単位の変形労働時間制とは、先ほども言いましたが労使協定を締結し所轄の労働基準監督署届け出ることにより、1年以内の一定の期間を平均し1週間の労働時間が40時間以下の範囲内において、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。なおこれは、例外的に週44時間の労働時間が認められる、卸売業・小売業・理容業等を含む特例措置対象事業場の場合でも同じで、あくまで平均週40時間以下の範囲となります。

簡単に言うと「週40時間を超えても時間外労働とならない場合がある」という制度です。

この制度は、業務量が季節や時期によって大きく変動する業種で有効に活用されることが多く、労働者の負担を軽減しつつ、企業の生産性向上にも貢献することができます。

建設業や不動産業などでの採用

建設業はなかな完全週休二日制の導入が進んでいないと言われています。(過去の記事内の資料をご参照ください)

参考記事:建設業事業主の皆さんご注意ください!建設業でも時間外労働に上限が設定されます

建設業を含め、完全週休二日制が整っていない会社や、季節や時期によって業務量が大きく変動する業種の会社では、この制度を採用することで、時間外労働となる時間を押さえることができる場合があります。参考にしてください。

労使協定の締結

この制度を採用する場合、労使協定において下記の項目を定める必要があります。

①対象労働者の範囲
②対象期間及び起算日
③特定期間
④労働日及び労働日ごとの労働時間
⑤労使協定の有効期間

対象労働者の範囲

例えば「営業社員のみ適用」など、一部の従業員のみを対象とすることも可能です。対象労働者の範囲については、法令上制限はありませんが、その範囲は明確に定める必要があります。

また、労働した期間が対象期間より短い労働者については、各労働日の労働時間内で働いていたとしても、割増賃金の支払いが必要となる場合がありますのでご注意ください。

対象期間及び起算日

対象期間は1箇月を超え1年以内の期間に限られます。一般的には最長の1年を対象期間とするケースが多いように思います。

後で出てくる時間外労働となった場合には、当然給与計算も絡んできますので、起算日については賃金計算期間に合わせ、例えば20日締めの会社であれば「〇月21日」とされることを個人的にはお勧めします。

特定期間

特定期間とは、対象期間中の特に業務の繁忙な期間を指します。対象期間と何が違うかというと、連続して働かせることができる日数が異なります。

下図の(原則)の通り、対象期間の連続労働日数は原則6日までですが、特定期間を設ければ下図の(特定期間)の通り、最長12日とすることができます。

出典:東京労働局「1年単位の変形労働時間制導入の手引き」対象期間
出典:東京労働局「1年単位の変形労働時間制導入の手引き」特定期間

なお、対象期間の大半を特定期間とすることは法の趣旨に反しできません。どこまでの期間なら大丈夫か、ということが法律で決まっているわけではありません。長期間の特定期間を検討している場合は、労働基準監督署にご相談されることをおすすめします。

また、特定期間は設けなくても構いません。

労働日及び労働日ごとの労働時間

労働日及び労働日ごとの労働時間は、対象期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない時間にする必要があります。またこれから説明する「労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度」に適合するようにしないといけません。

また労働日及び労働日ごとの労働時間の定め方には、

対象期間中すべてについて定める方法

対象期間を1か月以上の期間に区分して、各期間が始まる前に、その期間の労働日と労働時間を定める方法

があります。

つまり期間が1年の場合、前者であれば1年分の労働日と労働時間を記した「年間カレンダー」をもとに労使協定を締結し、届出を行います。

後者の場合は、最初に

・最初の1か月の労働日及び各労働日ごとの労働時間
・2か月目以降の各期間の労働日数及び総労働時間

を定めて労使協定を締結し、届出を行います。

その後、2か月目以降の月については、その期間が始まる少なくとも30日前までに、従業員の過半数代表者の同意を得て書面に定める必要がありますので、ご注意ください。

労使協定の有効期間

対象期間より長い期間である必要がありますが、例えば対象期間が1年であれば同じく1年にしておくのが良いと思います。

労働日及び労働日ごとの労働時間に関する限度

労働日数の限度

1年単位の変形労働時間制には、労働日数の限度が設定されています。

労働日数の限度:原則1年間に280日

対象期間が3か月未満の場合は上記制限がありません。3か月を超え1年未満の場合は、

280日 ×(対象期間の歴日数÷365)  となります。

但し、会社に「1年単位の変形労働時間制」の旧協定があり、1日または1週間の最長労働時間を旧協定より延長しようとする場合には、旧協定を基準とした限度日数が適用となる場合もあります。

該当する場合には、厚生労働省「1年単位の変形労働時間制」のリーフレットにて詳細をご確認いただくか、または最寄りの労働基準監督署にご確認ください。

参考:厚生労働省リーフレット「1年単位の変形労働時間制」

労働時間の限度

1年単位の変形労働時間制には、1日及び1週の労働時間の限度が定められています。

1日の限度時間:10時間

例外として、隔日勤務のタクシー運転手の1日の限度時間は16時間というものがあります。

1週の限度時間:52時間

対象期間が3か月を超える場合次のような制限もあります。

対象期間を3箇月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週は、週の初日で数えて3回以下

労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは3週以下

3か月ごとの区分は、「どの3か月で見た場合でも」ではなく「対象期間の初日から区切った各3か月」ですので、対象期間の初日をどこに設定するかが重要になるケースもあります。よくお考えいただき、設定してください。

割増賃金の支払い

1年単位の変形労働時間制の「法定労働時間を超えたかどうか」の判定はやや複雑です。次の3つを順に確認し、いずれかに当てはまる場合は時間外労働となります。

1日の労働時間

まず1日単位では、次の時間が時間外労働として扱われます。

労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間を超えて、8時間以下の日は8時間を超えて労働した時間

1日の労働時間が10時間に設定されている日は、予定通り10時間働いても時間外労働とはなりませんが、11時間働いたら1時間の時間外労働となります。また1日の労働時間が7時間に設定されている日に8時間働いても、1日の単位では時間外労働にはなりません。

「1日単位では」というところがポイントです。「1日単位」では時間外労働にならなくても、「1週単位」や「対象期間全体」として見たときに時間外労働となる場合があります。

1週の労働時間

1週単位では、次の時間が時間外労働として扱われます。

労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えて、週40時間以下の週は40時間を超えて労働した時間

1週の労働時間が50時間で設定されている週は、予定通り50時間働いても時間外労働とはなりませんが、52時間働いたら2時間の時間外労働となります。この2時間が既に1日の単位で時間外労働の扱いとなっているのであれば、当然重複してカウントする必要はありません。但し、1日単位では時間外労働とはならなくても、週単位でみると時間外労働となる場合もあります。

対象期間の労働時間

対象期間全体として、次の時間が時間外労働として扱われます。

対象期間の労働時間:対象期間の法定労働時間総枠を超えて労働した時間

対象期間の法定労働時間の総枠は、例えば対象期間1年(365日)の場合は2,085.71時間となっています。その総枠を超える場合は、1日単位、1週単位で時間外労働とはならない場合でも、時間外労働として扱われ、割増賃金の支払いが必要となります。

1日、1週、1年の総枠の各単位で管理することは、実務的には非常に煩雑です。しかし、特殊な労働時間制を採用する以上、法定時間を超えた分についてしっかりと割増賃金の支払いを行うことは必須です。年間カレンダーで設定した所定労働時間を超えた場合には、全てにつき割増賃金の支払いを行う等の対応もご検討いただく必要があるかと思います。

まとめ

今回1年単位の変形労働時間制の内容をお伝えしましたが、実態としてどのような働き方になっているかは、当然会社によって様々です。同じ1年単位の変形労働時間制でも、1日、1週、1月の労働時間をどう設定するのが良いか、特定期間は設けるべきか、そもそも他の労働時間制の方がいいのか等慎重に分析し、自社にとって最適な制度をご採用いただければと思います。

困ったときは専門家である周りの社会保険労務士に是非ご相談ください。きっと解決が図れますよ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?