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どうして労災保険は、100%企業負担なのか?

鹿児島で社労士をしています原田です。
先日関与先からあった質問に対して行った回答です。

法令の制定状況から合理的に想定したものですが、法令の制定時には、議会の協議上の妥協で、本来の制定趣旨さえ逸脱した合理的でない意味不明なものを制定される場合があるので、本当は違うかもしれません。

 本題の根幹に関する部分以外はざっくりした説明にします。それぞれが社労士試験の科目になる程度に深い制度で、多くの例外や特例措置もありますが、厳密に正しい制度説明にすると、全体が伝わらない内容になってしまいます。

5つの社会保険のいろいろ

 社会保険は、一般の企業であれば基本的に5種類に加入しています。例外もたくさんありますが、関係が薄いので、ここではお話しません。

1.健康保険
 74歳以下の方で、労働時間等が対象になる方が加入する社会保険です。昔は30時間が目安の企業が多かったのですが、法改正や企業形態の変化によって、もう様々です。詳しく知りたい人は、社労士に聞いて。
 気になる料金は、企業が半額負担しています。給与明細で引かれている金額とほぼ同額を会社が負担しています。厳密には完全に同額では無い場合がよくありますが、ほぼ同額です。

2.厚生年金保険
 69歳以下の方で、健康保険の対象になっている方が加入する社会保険です。これも国保組合とか健保組合とかがありますが、気にしないことにしましょう。ほとんどの企業は、健康保険とセットです。厚生年金の年齢の方が上限が低いです。
 気になる料金は、健康保険と同様の計算で、ほぼ同額を企業が負担します。

3.介護保険
 40歳から64歳までの健康保険加入者が給料から引かれます。制度的には、40歳以降は一生払う制度です。65歳からは原則的に年金から引かれます。
 気になる料金は、健康保険に加入している40歳以上65歳未満の方は、こちらも健康保険と同様の計算で、ほぼ同額を企業が負担します。

4.雇用保険
 週20時間以上働く方は雇用保険に加入します。学生とか副業とか30日以下の短期間勤務とか入らなくてもいい場合もあります。失業保険とか、職業訓練等で多くが利用されます。失業保険も正式名称は違うので、ちゃんと知りたい人は自分で調べましょう。
 気になる料金は、令和6年度の場合、雇用保険加入者の総賃金の0.6%が本人負担で、総賃金の0.95%が企業負担です。企業負担の方が少し高いです。農林水産業・清酒業・建設業はそれぞれもう少し高いです。

5.労災保険
 そしていよいよ労災保険。年齢・労働時間は関係なく、すべての労働者が働いた瞬間から自動的に加入することになっています。企業が労災保険の手続きをしていないと単純に違法なだけで、労働者は自動的に加入したことになっています。
 気になる料金は、全額企業負担です。


労災保険が全額企業負担の理由

 それは、労働基準法が密接に関係しています。

(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。 (後略)

労働基準法

 つまり、労働基準法では、業務上の負傷や疾病の場合は、「病院代(必要な療養の費用)は全額企業で払いなさい」と決まってます。

(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。(後略)

労働基準法

 ここには、「休業中にも100分の60の休業補償をしなさい」と書いてあります。つまり「労災で休んでる間は、給料の6割払え」です。

 冗長になるので、法文は挙げませんが、これに続く条項では、
・障害が残ったら等級に応じて企業が払え
・亡くなったら給料の1000日分(約3年分)を企業が払え
・葬式代で給料の約60日分を企業が払え

という内容が続きます。更にこれ以外にも払うものを定めています。
(意訳してお話しているので、厳密に正しい内容は原文を読みましょう)

 昭和22年に労働基準法が制定された時から、これらの条文は記載されています。つまり労働災害は企業の責任というのが、労基法の基本的な考え方にあります。


労災保険法は誰のため?

 怪我や疾病はできるだけ回避すべきですが、労災が0の都道府県などありません。毎月どこかで労災事故は起こってます。企業の危険対策が十分でない場合もありますが、最大の理由が本人の不注意であることもあります。
 不幸にして発生した労災事故に対して、全てに対して企業が補償すると、倒産してしまうかもしれません・・・と言うことで、こちらです。

(他の法律との関係)
第八十四条 この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
 使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。

労働基準法

 平たく言うと、
労災保険の対象になったら、払えって言ってた分は、払わなくていいよ
と書いているのです。

労働者災害補償保険法は、昭和22年法律第50号 です。
そして、労働基準法は、昭和22年法律第49号 です。
つまり二つはセットで制定された法律になっているのです。

 労災保険は、第1条の最後に
もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
と定めてあるので、労働者のために作られた法律のイメージが強いのですが、労働基準法で災害補償義務を課している企業が、労働災害で多大な損失をしないための保険制度でもあるのです。

 むしろ同時に成立した成り立ちから見れば、そちらの面が強い可能性すらあります。企業が払えない場合に、被災労働者が困ることを防止する意味も当然にあるでしょうけど。

 ということで、労災保険が無ければ、実は企業が困る話になるので、保険料は全額企業が負担することが当然になるのです。但し労働保険の支払いをしていないとか、会社の責任を問うべき事故だと、労災は被災労働者に支払った分を企業に請求する場合があるので、安全管理は注意しましょう。

 人を雇用したら企業存続のために労災保険に加入して、安全管理もちゃんとやりましょう。

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