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編集部が語る!40年以上愛される「銀河鉄道999」の魅力

ふと人生を振り返ると、その時々でハマっていた漫画を思い出す。
漫画は白黒で平面的な娯楽だが、感情を大きく揺さぶり、勇気づけ、おなかを抱えるほど笑わせる、魔法のようなコンテンツだ。そして中には、時代を超えて愛され続ける、不思議な魅力を持った漫画が存在する。

今回は、漫画好きの編集部員・ヤマが、その中のひとつ「銀河鉄道999」を紹介する。


忘れられない景色がある。
卒業式の日に正門から振り返ってみた校舎や、旅先で見上げた満点の星空。
その中のひとつに、映画館で上映後に沸き起こった、優しい拍手がある。

「さよなら銀河鉄道999」

映画館のポスター
メーテルのキラキラな瞳にキュン

昨年復刻上映された、松本零士先生の超大作「銀河鉄道999」の劇場版。
観客のほとんどが50代以上で、中には孫に身体を支えられながらゆっくりと席に付く叔父様や、手押し車のハンドルを握りながらパンフレットを買い求める叔母様もいた。全員が、銀河鉄道999に会うために、映画館までやってきたのだ。上映が始める前には全員しっかりと席に付き、エンドロールが終わるまで誰も席を立たず、自然と拍手が沸き起こった。そして、館内が明るくなってもなお、拍手は続いていた。
なんと品のあるファンたち。そして、なんとファンから愛された作品か。

しかし、悲しいことに同世代の友人と銀河鉄道999の話をしたことがない。
「聞いたことはあるけど、どんな話なの?」
「メーテルって人がいて、宇宙で鉄道が走るくらいしか知らない」
私と同じ26歳の漫画オタクに聞いたリアルな反応がこちらである。興味はあるんだけど、の後に続く言葉は、ちょっと長そう、本屋さんで見ないし、持っている人もいない。
うんうん、それじゃあ仕方ないか。私も親が持っていなければきっとそうだったもん。

でも、ちょっと待ってほしい!
銀河鉄道999は、タイトルだけ知っているには惜しすぎる作品なのだ。
正直、なぜ義務教育で取り入れないかが不思議でならない。

そこで、今回は稀代の名作「銀河鉄道999」を、まだ旅をしていない皆さんに紹介したい。


「銀河鉄道999」とは

銀河系の惑星を鉄道が結び、機械の身体になれば永遠の命を手にすることのできる未来の世界。地球では、高価な機械の身体になった富裕層が、機械の身体を買えない貧しい生身の人々を迫害していた。そんな中、銀河鉄道999に乗れば、タダで機械の身体をもらえる星に行けるという噂が流れる。
スラム街で生きる少年・星野鉄郎は銀河鉄道の乗車駅へ向かう途中、母親を機械伯爵によって殺されてしまう。しかし、機械の身体になって長生きしてほしいという母親の想いを胸に、銀河鉄道999へ乗り込むのだった。
銀河鉄道999のパスをくれた、母親にそっくりの謎の美女・メーテルとともに。

ざっと、こんなあらすじである。
漫画としては、地球から銀河鉄道999の終着駅・アンドロメダ星までを描く「アンドロメダ編」と、続編となる「エターナル編」(※未完)があるが、とりあえず黙って「アンドロメダ編」を読んでほしい。書店で見かけない場合もKindleで読めるので読んでほしい。う~ん、なんて良い時代。

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魅力①壮大だが読みやすい、宇宙SFの金字塔!

銀河鉄道999では、終着駅・アンドロメダ星までの間に様々な星で停車し、その星の1日(自転周期に依存する)の間、停車することが決まってる。
そして、1つの星で1つのエピソードという、一話完結型の物語だ。
「鉄郎が謎の美女・メーテルとともに機械の身体を求めて旅をしている」という大枠さえつかんでいれば、どの星の物語も楽しむことができる。私が銀河鉄道999と出会ったのは小学校低学年の頃だったが、楽しく読み進めることができたのは一話完結型で読みやすかったおかげだろう。

星ごとに変わる環境や、人々の考え方。宇宙列車の旅というワクワク感と、様々な星での出会いを通して成長する鉄郎に私たちは引き込まれる。いつしか銀河鉄道999に乗車して、鉄郎とともに壮大な宇宙の旅をしているような感覚になる。名作とは、読者を本の外に置き去りにしないものだと常々思う。
銀河鉄道999はどこから乗車しても良い。一度乗れば必ず終着駅まで行きたくなる、不思議な魅力がある。

▼おすすめの星(停車駅)はこちら
機械人間たちが生身の身体を捨てる星・冥王星(停車時間:6.39日)
銀河鉄道999の存在を知らない星・明日の星(停車時間:2週間)
光の全くない星・ヤミヤミ(停車時間:2時間)
機械人間しかいない星・完全機械化(停車時間:1日3時間40分)
動物たちの魂が集まる星・ミーくんの命の館(38時間15秒)
毒の花が咲き地上で生活できない星・花の都(11時間24分32秒)
強制的に機械化する星・クイマ(停車時間:22時間6分3秒)
終着駅の星・惑星大アンドロメダ(停車時間:100時間)
(列車内のエピソードとして、機械の身体に後悔する美しい女性・クレアの話や、機械の身体のカタログを見る話もおすすめ!)

魅力②人間味あふれる鉄郎と謎めいたメーテル

銀河鉄道999では魅力的なキャラクターが数多く登場する。星ごとに出会う人々はもちろん、真面目で繊細な車掌、宇宙海賊・キャプテンハーロックなどなど。
その中でも惹かれるのはやはり、主人公の鉄郎と、旅の同行人・メーテルではないだろうか。

鉄郎は小さな身体でありながら、漢気あふれる芯の強い少年。大好物のビフテキやラーメンを頬張りニコニコと笑うかわいらしい面もあれば、母親の復讐を実行したり、「一度乗ったら二度と地球へ戻れない」という銀河鉄道999に乗りこむ強い面も兼ね備えている。さらに、それぞれの星での出会いを通して「機械の身体になることが本当に幸せなのか」葛藤する人間的な面もある。
鉄郎が悩む姿を見るたび、読者も「永遠の命って本当に良いのかな」と考えてしまうからすごい。
そして、葛藤の末に自らの未来を選び取る鉄郎を見て、すっかり惚れこんでしまうのだ。

一方でメーテルは、謎だらけ。黒い帽子と黒いコートに身を包み、どこか物憂げな表情をした美女。地球で生き倒れた鉄郎に、旅に同行することを条件に高額な銀河鉄道999のパスを渡すが、素性も目的も全く分からない。旅の途中でも、メーテルの身体を見た人々が怯えたり、トランクに向かってコソコソ会話をしたり。メーテルの目的は最後の最後に分かるのだけど、アッと息を飲むことを予言する。私がそうだったから。
「ミステリアスでモテる女性」の代表格ではないかと思う。謎が深まるごとに、読者はメーテルを好きになる。だけど真似してはいけないことも知っている。この魔性的な魅力は、暗い過去を持ちアンニュイなメーテルだからこそ良い。
(ちなみにビジュアルも最高!かわいい!大好き!)

魅力③永遠の命と限りある命、幸せとは何か

銀河鉄道999という作品は、読むと頭を使う。
これは話の内容が難しいとかではなく(むしろ魅力①でお伝えした通り読みやすい)、読んでいるだけで自然と、様々なことを考えてしまうのだ。
異なる価値観を持つ人々や理解しえない文化との出会いを通して、「機械の身体(永遠の命)が欲しい」という鉄郎の考えは揺れ動き、その葛藤が私たちにも伝播する。特に、「機械の身体になったことを後悔している人々」との出会いには考えさせられるものがある。

幸せとは何だろう。お金があること?好きな人がいること?長生きすること?
まだまだ人生経験の乏しい私にはよく分からないけど、高価なもの=価値のあるものと考えた時、銀河鉄道999の世界では、機械の身体、つまり、永遠の命が価値のあるものということになる。
だけど、「価値があるものを持っている」って本当に幸せなんだろうか。
世間一般で価値があるものは、自分にとっても価値があるのだろうか。

十年ほど前に、高校の授業である講義映像を見た。
絶滅種の再生を望むか、というもの。なんと人類の技術は絶滅種を再生させるところまで行きついたというのだ。私個人としては、失ったものの大きさを忘れないためにも、絶滅種は過去に置き去りにすべきだと思うが、技術自体はとんでもない。絶滅種を再生できてしまうほどの現代の科学、機械の身体で永遠の命を手にした人々が街を歩く未来も夢物語ではない。
永遠の命が手に入るとしたら、私たちはどんな選択をするのだろう。

まるで哲学書の読後感。私は哲学書をあまり読まないのだけど、てへ。
世の哲学・倫理の先生方、ぜひ銀河鉄道999を授業で扱ってほしい!

松本零士先生作品の魅力

「銀河鉄道999」の作者・松本零士先生は今年の2月に亡くなった。
心よりお悔やみを申し上げたい。

戦争中から夜空を見上げることが好きで、漫画を描くために上京してから四畳半の部屋に住み、世界旅行でアマゾン川にも訪れたという松本先生。
宇宙戦争を題材にした「宇宙戦艦ヤマト」、上京後の夢を追う主人公を描いた「男おいどん」等、自分の目で実際に見たもの・経験したものを漫画として表現し続けた。
宇宙や時間を題材に、強い信念を持ったキャラクターが登場する松本先生の作品には人生が詰まっており、その中でも「銀河鉄道999」は集大成のような作品だ。

銀河鉄道999の旅で、出会い別れた人々が鉄郎の心の糧となったように、松本先生の情熱は私たちの心の深いところで、火種となって燃え続けることだろう。

たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん出会って、たくさん考えて、最後に自分が信じた道をまっすぐに進みたい。
今夜はビフテキを食べて、星の海に思いを馳せよう。

(文 ヤマ)

▼銀河鉄道999に関する番組はこちら。松本零士先生の誕生80年記念ドキュメンタリ―は必見!

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