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瀬戸内発ファッションテック「サスティナブルなサプライチェーンへの挑戦」

「知の還流」がコンセプトのインキュベーション「SPROUND」をご利用の企業、通称SPROUNDERの入居者インタビュー第15弾。今回は、patternstorage株式会社COO清水悠平さん、CTO水島さんにお話を伺います。

昨年SMBからenterpriseへのピボットし、「J-Startup WEST」に選定されるなど、事業で大きな変化があったpatternstorage。同社が取り組む繊維業界の課題、今後の展望についてアツい想いと共にお話いただきました。

本拠地を地方に持つスタートアップが、SPROUNDというインキュベーションオフィスをどのように活用するかも語っていただきました。

清水悠平/Yuhei Shimizu patternstorage株式会社 取締役COO
水島啓太/Keita Mizushima patternstorage株式会社 取締役CTO

patternstorageの事業と繊維業界の課題について

國分:まず事業についてお伺いさせていただきたいのですが、patternstorageさんは現在どのような事業を展開されているのでしょうか?
清水さん:アパレルの世界では、服がどこで作られているか、約90%が可視化されていないとも言われています。これは1着の服ができるまでのプロセスが関係者が多い上、仕様も非常に複雑で、全体把握が難しいことに起因しています。昨今、これらをヨーロッパでも問題視する企業が増える中、我々はこうしたサプライチェーンの把握を個社の省力化を起点に進めていきながら、業界の課題解決に発展させたいと考えています。そして、サプライチェーンの関連企業の多くは図面が全てアナログかつ不完全なまま情報として取り回されているのが現状です。まずは社内でデータベースやクラウドベースで共有できるよう、瞬時に図面を解析し、正しくデータ化する技術が必要です。そこで当社はアパレルに特化した情報を管理ができるデータベース管理や、アナログな情報を正しく修正するAIプロダクトの開発に取り組んでいます。これにより、不完全でアナログな情報をデータベースで管理できるようになります。
水島さん:アパレル業界のお客様にいかに価値提供するかに焦点を当てて考えてみると、この複雑な商流の中でもどの様にトレーサビリティを実現できるかは非常に重要になると考えています。これが実現できていなかった理由は、同時に2つのことができないからでした。1つは、業務の省力化、もう1つは業務の省力化に連動したシステム化+マスターデータ作成です。これら2つが同時にできないと、トレーサビリティの実現は難しいため、現在はトレーサビリティ実現に向け、お客様のマスターデータを作成しつつ、業務省力化をいかにして、サプライチェーン内でトレーサビリティを実現させるかが我々の事業のコアとなっています。

組織体制

國分:現在、清水さんのセールスチームと水島さんのプロダクトチームは組織としてそれぞれどのくらいの規模になっているのでしょうか?
清水さん:人が増え、社員は7人になり、業務委託含めると30人を超えています。年齢層でいうと、30代が一番少なくて20代か40代以降で組織が構成されています。
國分:patternstorageさんは岡山が本拠地ですが、みなさんどのような働き方をされているのでしょうか?
水島さん:完全フルリモートです。特に開発メンバーには、働く場所、働き方を問いません。実際土日だけコミットいただいている方もいますし、夜だけ少し稼働していただける体制を作っています。エンジニアはどこで働いても大丈夫ですが、営業はクライアントと信頼関係を築き、認知していただけるよう、今はお客様が多くいる東京と岡山に多くいます。
國分:組織が拡大している中で、人のマネジメントも重要になると思います。patternstorageならではの大切にしているポイントや取り組みがあればお伺いしたいです。 
清水さん:最近は、組織力を強化するため、社内の共通の認識を持つことが一番重要だと考えています。当社はコロナ禍に立ち上がった組織で、その影響もありフルリモート体制が続いています。また、当初は友人同士でスタートしたため、オンラインでもある程度のコンテクストなら自然と共有できていました。しかし、最近ではメンバーが増えるにつれコミュニケーションがスムーズに進まなくなりました。水島がNotionを用いて、全てをデータベース化し、抽象度の高い情報を詳細に整理し、組織全体の共通認識となるように、テンプレート化して進めています。

清水さんと水島さんの出会いと再会

國分:お二方はどういった経歴からpatternstorageで働くようになったのでしょうか?
清水さん:僕は岡山の高専出身で、研究補助員として再生エネルギーに関する研究を行っていました。15歳の時に初めて経験した縫製工場での仕事では、かなりアナログな現状を目の当たりにして、今でも印象深い原体験となっています。僕はもともと服が好きだったので、高専時代には国内最大の某リテール関連の研究機関で働いたりもしました。当初は研究分野に進むつもりでしたが、友達との遊びの延長で開発を始め、最終的には起業に至りました。この起業が、私のファーストキャリアとなります。
水島さん:私も同様に高専出身なのですが、自分が作ったものを社会に実装したいという理想があり、研究を進めたいと考えていました。しかし、研究室の見学などをする中で、研究は研究として進めていくものであり、研究をどうやって社会に実装するかは全く別の取り組みだと気付き、研究の道には進まず働くことにしました。
國分:お二人は高専の時の同級生ということですが、水島さんとはpatternstorageに入社される前から連絡を取り合っていたのでしょうか?
清水さん:以前から彼を遠回しに誘っていたんですが、彼は自分の進むべき道を明確に持っていたのでたまに会う程度で、お互いの波長が合うと感じたときに、気軽に誘おうと決めていました。事業ピボットの意思決定をした際、当時その分野で経験が豊富なエンジニアが不足しており、私が知る中で最も経験豊富で優れたエンジニアだった水島に、5年越しに声をかけることにしました。
國分:最終的に業務委託から正社員に切り替え、patternstorageにフルコミットしようと決断をされた理由はありますか?
水島さん:前職での経験を活かして、事業のマネジメントに挑戦したいと考えていました。それに加えて、当時AIコンサルの仕事をしていましたが、ソフトだけで課題にアプローチしてもあまり進展がないと感じ、ハード寄りの分野にも関わりたいと思っていました。patternstorageの顧客であるアパレル業界はハード寄りな要素もあり、海外にも展開できるポテンシャルにも魅力を感じました。当時のプロダクトはまだまだ未完成で、改善の余地があったため、より良いプロダクトにしたいと考え、入社するに至りました。

SPROUNDとの出会い・活用方法

國分:patternstorageさんは2021年から2年以上SPROUNDをご利用いただいています。どういったきっかけでSPROUNDの利用を決めてくださったのでしょうか?
清水さん:僕が上京しオフィスを探していたタイミングに、SPROUNDER(SPROUND利用者)のKOMMONSの白塚さんがうちに営業かけてくださり、「今度見に来たら」とSPROUNDにご招待いただいたのが最初のきっかけでした。その時は僕も東京が初めてだったので、SPROUNDが新幹線で品川駅に着いてから近く、地方の人にも優しい環境で助かりました。また、入ってすぐに海が見えるのがすごく気に入っていて、以前借りていた他のコワーキングスペースと比較しても、SPROUNDは広い空気感のある開放的な場所で、難しいことを考えるにはすごくストレスがない場所だと感じました。2年ちょっと利用していますが、まだまだ全然飽きなくて、ずっと使いたいと思っています。
國分:そう言っていただけるのは嬉しいです。
清水さん:全然媚びているわけではないですが、本当にSPROUND好きなんですよ。
國分:patternstorageさんは、他のSPROUNDERの企業さんとは少し異なり、本拠地が岡山にあるという特徴があります。SPROUNDERを東京拠点として利用する際のメリットはどんなところですか?
清水さん:アパレル企業の多くが東京に集中しています。それらのアパレル企業さんに営業するため、地方から東京へくる企業が我々のターゲットとなるお客様です。最近では、品川がハブ化しており、アパレル商社が集積する青山、日本橋〜神田エリアを訪れた後に、品川に寄ってくださるようになりました。新幹線はもちろん、羽田空港からアクセスが良いことも魅力ですね。
國分:お二方は、SPROUNDを現在どのようにご利用されていますか。
清水さん:SPROUNDは一番集中できる場所です。中長期視点のディスカッションが増えつつある中で、ホワイトボードが至るところにあったり、遠くが見通せる場所も魅力です。また、リモートメンバーが集まった時に話しやすい空間が整っているのはとても便利です。経営合宿をしようと会場を探すのですが、結局使い勝手が良くSPROUNDで開催しています。
水島さん:SPROUNDは、とにかく仕事が捗ります。あとは、お客さんを連れてきやすいですね。かっこいいですし、ちゃんとしたオフィスビルなので、スタートアップだけどしっかりした印象をもってもらうことができる。お客さんとの商談時にはすごく良いと思いますね。
清水さん:それから、もうひとつ。SPROUNDに来ると頑張っている他の会社の人たちがいっぱいいて、彼らからすごく刺激をもらってます。利用当初から大きな魅力でした。
例えば入り口正面の窓際の席は、ハードワーカーの方が多くて、自然と遅くまで残るカルチャーが形成されていました。「皆さんお先に失礼します」と帰っていくのですが、次の日になると朝早くから誰かしらがいらっしゃいました。多くを語るわけではありませんが、お互い無意識に切磋琢磨しています。そういった雰囲気が感じられるのは、独立オフィスでは絶対にありえません。CxOに限らず他の会社でこんだけ頑張ってるメンバーがいるんだと熱量をすごくもらっています。

SPROUNDコミュニティがもたらす影響

國分:ありがとうございます。SPROUNDは「知の還流」というコンセプトを掲げて、コミュニティを重視し、運営しています。お二方ともSPROUNDへのコミットメントが非常に高いと感じますが、SPROUNDコミュニティについても、お二方にお伺いできればと思いますが、いかがでしょうか?
清水さん:ちょうど1年ぐらい前にステージが進んだ企業さんが卒業されて、シードのベンチャーが増えたのですが、そのタイミングで、同世代(20代中盤〜後半)の経営者がめちゃくちゃ増えました。話してみると、結構悩みが似ています。そこで、昼休みに同世代でご飯を一緒に食べて悩みを話し合う企画を自主的に開催しています。他のSPROUNDERとラフにご飯に誘い合えるのはすごく良いなと思います。メンタル面でもすごくお世話になっていると思っていて、コミュニティの重要性を感じています。
國分:僕も就活の時に清水さんにご飯に誘っていただいたりとすごく助けてもらいました。学生なのでビジネスサイドの話は中々できないのですが、20代という括りで清水さんが話しかけてくださるのは嬉しかったです。
清水さん:そういう風に言っていただけてすごく嬉しいです。
國分:水島さんには最近、自主的にエンジニア交流会を開いていただいていますね。
水島さん:僕も同じようなステージの会社さんと一緒に仕事ができるのはすごく良いなと思っています。シードとかシリーズAぐらいはメンバーが少なくて寂しいので、横を見た時に同じぐらいのフェーズの企業さんがいらっしゃるので頑張ろうと思えます。悩みも大体一緒のはずなので、その悩みを企業の壁を超えて交流できないかなと思いエンジニア交流会を企画しました。それとは別にSPROUNDでは、定期的に座談会やイベントを企画していただいて、リフレッシュになりますし、他のSPROUNDERを知れるきっかけになるのはすごく良いと思っています。
國分:エンジニア交流会には現在何名ほどの方が参加されていますか?今後の展望はありますか?
水島さん:座談会のような距離感で勉強会ができるのがあまり他には無いと思っています。10〜15人ぐらいの参加者でお互いにオープンに自分たちの悩みを話し合えるのはすごく良いですね。50人集まる勉強会は他でも開催できるので、SPROUNDのコミュニティらしさが活きるのは、10人ほどで交流できて困っていることをお互いに企業の垣根を超えて言い合って解決できる場です。オフレコの話が聞けることもこのコミュニティの価値です。Hard Things Storyなどの公にできないお話を聞けるのはSPROUNDの価値だと思います。
國分:SPROUNDER同士のやりとりの中で生まれたエンジニア交流会でオフレコのコンテンツが生まれるのは、やはりSPROUNDERの皆さんが協力しあったり、企業間の距離が近いからこそ生まれたものだと思います。
水島さん:本来オフレコな内容がSPROUNDER間で還流されることで、課題解決に繋がることもたくさんあると思うので、今後もエンジニア交流会を盛り上げていきたいです。

採用ビジョンと今後の展望

採用ビジョン

國分:現在、組織も事業も拡大しているとのことですが、今後patternstorageにどういった方を求められますか?
水島さん:会社としてはトレーサビリティの実現を目指しています。現在トレーサビリティの実現を達成できている企業は、グローバルの一部しかおりません。世界中で服がどうやって作られているか、汚染産業でないことを証明するところに、テックの介入余地はあると思っています。ブルーオーシャン感はまだまだありますが、我々が課題と感じていることを解きたい方や一緒に新しいことに挑戦したい方には是非来ていただきたいです。
清水さん:我々が見ているスコープは、まだ1合目にも至ってないかもしれません。この複雑な問題をグローバルで解決することは難しく、長い時間軸で取り組むべきビッグイシューだと思っています。そのためにはアパレルで20年30年働いてきたベテランの方の知見も必要ですし、一方で若手ならではの機動力も大事かなと思っています。あとは、服に愛がある人とご一緒できると嬉しいです。お客様と話す中でも、「服が好き」が共通のテーマになり、交流させていただけるのは嬉しいことで、当社のメンバーも、それまでのキャリアでアパレル企業で働いていたり、アパレル系の企業にコンサルティングをしていた方が多いです。当社のメンバーで共通していることは、自分たちのキャリアの中で、アパレルに対する違和感を感じ、その課題を解決したいと思っている方が多いので、同じように感じられている方に是非来ていただきたいです。

今後の展望と意気込み

國分:最後に今後のpatternstorageさんの今後の展望と意気込みをお聞かせください。
水島さん:肝は業務省力化をしつつ、いかにマスターデータを作っていくかです。お客さんの業務が楽になり、さらに今までより付加価値が高いというところがあるべき世界線です。業界的には、需要に対して業務が追いつかないなど、しんどくなっていらっしゃる工場さんもいらっしゃいます。個々人の好きなものが作れるようになっていく中で、生産側は今までと同じことをやっていたら課題は解決されません。それに耐えられるようにシステムや業務フローの変化が不可欠です。これを補うシステムとして自動トレーサビリティを実現できるよう、プロダクトとコンサルの省力化を組み合わせ価値提供したいですね。
清水さん:会社としては、1年後にシリーズA調達を目標に、着実に組織を強化しております。今期末は事業売上5倍成長を目標に掲げ、良い形で進捗しております。ここ数年はステルスで進めてきたので、今年は社会的な意義も発信していく予定です。
水島さん:あとは、業界の中でサプライチェーンの問題を解決するファッションテックがいないことが課題です。業界で有力なエンジニア・データサイエンティストを引き込むことが、私たちとしてのミッションだと考えています。まずはこの領域でしっかり挑戦しているスタートアップがいるという認知を取っていきたいです。
清水さん:たしかにファッションテックというとリテール関連が多いですよね。patternstorageは服を作る上での調達や加工領域の問題を解決することに非常に強くこだわっている会社なので、中長期で業界を変えていくことができる組織を作っていきたいです。
國分:お二人ともありがとうございます。今後もSPROUNDはオフィスとしても、コミュニティとしてもpatternstorageさんに貢献していければと思っております。

(文・聞き手:國分輝歩(SPROUND Community Manager) / 編集:上野 なつみ(DNX Ventures),丸山裕子(SPROUND Community Manager) )


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