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「失われたものたちの本」(ジョン・コナリー)を読んで

宮崎駿が「君たちはどう生きるか」をつくるにあたり、ンスパイアされた本のうちの一冊ということで、映画鑑賞後に、ジョン・コナリーの小説、「失われたものたちの本」を読んでみた。

時代は、第二次世界大戦下。舞台はイギリス。12歳の少年、デイヴィッドは病で母を亡くすが、その後、すぐに父親は再婚、継母は妊娠する。デイヴィッドは、継母が受け継いだ大きな屋敷のある田舎に疎開することになるが、父は仕事に忙しく、また、新しい母ともうまくなじめず疎外感を覚え、鬱々とした日々を過ごしている。

そんなある日、デイヴィッドはふとしたことがきっかけで、人狼や、現実世界から子供をさらってくる「ねじくれ男」、悪だくみをするトロルたちや意地悪な白雪姫、子供や動物を襲う女狩人などが次々に現れるおそろしい世界に迷い込んでしまう。
元の世界に戻るには、この世界の王が持っている本、「失われたものたちの本」の中に、その秘密が書かれていると知り、デイヴィッドは、王のいる城をめざす。

さまざまな危険な目に遭いながらもデイヴィッドは、途中、木こりや騎士に出会い、彼らに守られ助けられながらなんとか城にたどり着く。しかし、その本の中身を目にすることで国王の正体を知り、愕然とする。また、彼は同時に、それまで自分が見てきたものが何を意味するのかも、理解するのである。

異世界での冒険を通過することによって少年が精神的な成長を遂げる、という流れであることは読む前からわかっていたが、単純な筋運びとハッピーエンドを期待していると、驚くことになる。

「失われたものたちの本」では、子供が抱いている不安や恐怖、性的なものへの嫌悪感(そして裏返しの興味)、また、セクシュアリティの問題などが書かれている。残酷な描写が非常に多く、いわゆる「お子様向け」の、甘ったるいお話では、けっして、ないのだ。

デイヴィッドは王国で戦いを終えて、無事、元の世界へ戻る。彼は父親や継母と和解し、義理の弟にも愛情を抱くようになり、読み手としてはひと安心するのだが、その後も、デイヴィッドの人生にはさまざまな出来事が起こる。残念ながら、すべてがバラ色、というわけでないのである。

しかし、デイヴィッドの物語は、このままでは終わらない。彼が年老いて死を迎えるまで、この物語は続く。そして、この物語は最後の最後で、真のハッピーエンドを迎えるのである。

デイヴィッドの母親は彼に、「物語は生きている、そして物語は読まれたがっている、物語は伝わることで命を持つことができる」ということを何度も話していた。この「失われたものたちの本」も、読者に最後まで丁寧に読んでもらうこと、そしてそのあとも、その内容について語られることを熱望しているような、そんな気がして、感想を書いてみた次第。











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