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「リセットの習慣」を読んで

順天堂大学医学部教授である小林先生の著作です。自律神経の働きを利用して、日常生活や仕事、周囲の人間関係、さらには自分の生き方への提案をされています。

自律神経というのは間脳の視床下部にあり、交感神経(活動時優位)と副交感神経(休息時優位)からなりたちます。この交感神経と副交感神経の動きが程よいバランスを保つことで私たちの意思に関係なく体の調子を整えてくれる、ホメオスタシス(生体恒常性)の機能を担っています。

ここで大事なのは本来は無意識に生体維持をする働きのこと。無意識といいつつも、緊張しているとき(交感神経優位)に、あえて深呼吸をするとリラックスできる(副交感神経優位)といった感じで、私たちは意識的に自律神経を調節することもできるのです。

私たちがこのはたらきの流れと上手く向き合い、意識的に流れを変えることで、暮らしやすさを実現させてゆく、というノウハウでした。

ビジネス書というジャンルのようですが、仕事と生活とのメリハリをつける、さらには人との交流、環境における適応にも触れられている、人生の指南書のような色合いを感じました。

読んでいて「本当にそれで変われるの?」と思う項目がありつつも、「これは目からウロコです!」と思う項目もあり、「これ、やってる!」という項目もあり、合計8章の中に99項目。大変読み応えありました。

一気に読むと、横からおせっかいな人にずっとお説教されているような感覚になるので、毎日読んで、数項目ごと今の自分に落とし込んで考察してみる、という読み方をしておりました。

特に私が完全に同意したことは、小林先生の「自信をつけるためにメンタルを鍛える、というのは違う」という指摘。完全な根性論否定です。根拠のない熱血メンタルを退けておられ、驚きました。

これに替わる提案として、メンタル以外の部分にアプローチをかけるノウハウです。起こりうるミスを想定をした準備をする、心以外の技や体の部分を駆使するとか。

心の持ち方に関しても、私自身の断定しがちな思考や、不条理な思い込み、認知行動のゆがみの癖などを他者に指摘され、向き合ってきた過去があり、それらをなかなか直そうと思っても直せない難しさを感じておりました。

この本の中で触れられている小さな日々の習慣についてや、ストレスとの向き合い方を読んでいると、自分の考え方の癖を無理に変えようとせず、自分の考え方の癖に気をつけながら、冷静に物事に対峙できそうです。

そして自分の軸を定めることの肝要さ。小林先生はこれだけ多岐にわたる項目を紹介しておきながら、いろいろ試してみて、自分に合ったやり方を見つければいいと、諭すように説いています。

無意識化で働く自律神経を自分で制御するために、その体の状態とつながる思考において、ふらふらといろんなものに振り回されて迷う状態を一掃した、潔い生き方の提案であるように受け止めました。

私たちの時間は人生とともに過ぎ去ってゆきます。

辛くても今は通過点、過去にとらわれ過ぎない、流れに逆らわない。大切な人に感謝を伝えよう、期待をしない、そんな達観されたメッセージをさらりと書き綴る小林先生は、医療という人の命を常に考え続ける現場で、どのような道を歩いてこられたのでしょうかと、考えずにはいられません。

読んでいてくすっと微笑ましくなる、小林先生のエピソードがいくつも出てきます。パリのレストランのお話は、読んでいて「あるある」と納得。

中でも一番心に残ったエピソードとは、小林先生が患者としての立場で、隣の死を目前にした患者さんと向き合ったご経験。

人生最期の1日であっても、今日できることがある。例外なく終末と別離を迎えるであろう命。それでも今このときを生きる、命への賛歌と慈しみなのでした。


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