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Let Them Eat...Everything: 米国の"反ダイエット"インフルエンサー

初めまして!記念すべき1本目の記事にお越しいただきありがとうございます。
今日から主に欧米で注目されている最新の英語記事を、関連する情報やや日本との比較を合わせて色々と紹介していきたいと思いますのでぜひご覧頂ければ幸いです。

早速ですが今日はこちらの、いわば"反ダイエット"インフルエンサーとも言える米国の女性 Virginia Sole-Smithさんを取り上げたNew York Timesの記事 (2024.4.21付) をご紹介したいと思います。

https://www.nytimes.com/2024/04/21/well/eat/fat-activist-virginia-sole-smith.html

Virginia Sole-Smithさんは元々2000年代に女性雑誌で働くところからキャリアを始めました。当時の女性雑誌は「痩せている」=「健康的」の世界。積極的にダイエットに励むとまではいかなかったものの、Sole-Smithさんもジム通いの時間を最優先に日々のスケジュールを設計し、ハーフマラソンまでこなすような生活をしていました。
そんな彼女が転機を迎えたのが2013年、当時まだ生後4週間だった娘が先天性心疾患と診断された後のこと。チューブを通して栄養を摂取せざるを得ない期間を2年間近く過ごした後に回復した娘は、「食事の仕方が分からない」状態になっていました。あまりに長い間栄養を受動的に摂取し続けてきたことで、脳が食欲を認知できなくなってしまったというのです。
娘の生存のため、ここでSole-Smithさんは思い描いていた母親としてのあるべき姿を諦め、脂肪や糖分の与えすぎは良くないとの一般的な不安を捨て、「好きなものを食べさせる」「自分も好きなものを食べる」ことを始めます。

娘の疾患の診断から5年が経った2018年、彼女は初めての書籍"The Eating Instinct: Food Culture, Body Image, and Guilt in America"を出版する経験を経て、肥満に対する差別や偏見に強い課題意識を持つようになります。さらに2023年に出版した"Fat Talk: Parenting in the Age of Diet Culture"では、特に肥満の子供を持つ親を相手に、子供がいかに体型や見た目に関するストレスにさらされているか、またそれらストレスに対しどのように対処していくべきかを語り、同書はベストセラーとなりました。

ここでまず一つ興味深いのは、彼女が多大なる支持を受けている一方で、批判の声も同等(またはそれ以上に)多いということです。例えばWashington Postに掲載された、彼女の本に対する好意的な書評にはSole-Smithさんを「ばからしい」「節度がない」「非科学的」等と批判するコメントが1,000件以上も集まりました。また今回ご紹介しているNew York Timesの記事にも既に(掲載からまだ2日程度しか経っていないにも関わらず)800件近いコメントが集まっており、彼女の子育てのあり方を批判するコメントや、科学的な見地から健康的な食事の重要性を説くコメントに多くの賛同が集まっています。

少し古いデータにはなりますが、2017年から2020年にかけて収集されたデータによれば、米国の成人のうち実に41.9%が肥満であるとされています。
(出所:https://www.forbes.com/health/weight-loss/obesity-statistics/#footnote_12)

日本における20歳以上の人の肥満の割合は男性33.0%、女性22.3%とのことですので、いかに米国において肥満が深刻な社会課題であるかが分かります。
(出所:https://www.jili.or.jp/lifeplan/rich/1260.html)

一方で近年ではダイバーシティ&インクルージョンと言う大きなトレンドの中、"Body positivity"という概念に代表されるように「ありのままの身体を、前向きに受け入れる」という風潮も強まっており、大手アパレルブランドが今までの広告には出てこなかったような様々な体型のモデルを起用するなどの変化が見られてきています。健康問題として「肥満」を(ネガティブに)扱うことと、個性として「ふくよかな体型」をポジティブに扱うことの間で生じている答えのないせめぎ合いが、今回ご紹介している記事(と、コメント欄)にもよく表れているように感じます。

また最後にもう一つ興味深いのが、Sole-Smithさんがベストセラー出版も経て現在手掛けているオンラインでの有料ブログサービス "Burnt Toast"です。
※ちなみに"Burnt Toast(焦げたトースト)"は2023年頃にTikTokで人気を集めた投稿に由来しているものと考えられます。このTikTokの投稿の内容はというと、「朝トーストが焦げた時(=何か大変なことが起きた時)、もう一枚トーストを焼く時間を取ったことであなたは車の事故に遭うことを回避できるかもしれないし、あるミーティングに参加するのが遅れる一方で、遅れたからこそ特別な人に出会えるかもしれない」、つまり「人生何事も意味があって起きる」というメッセージになります。

”Burnt Toast"トップページ (https://virginiasolesmith.substack.com/)

このSubstackというプラットフォームを使った各種コンテンツの配信サービスですが、200万人以上の課金ユーザーがおり、上位10名のコンテンツクリエーターはなんと1年間で合計2,500万ドル(現在のレート: 1ドル=150円弱で約39億円)も稼いでいるという驚異的なプラットフォームです。実は今回取り上げているSole-Smithさんも5万人以上の登録者を抱え、うち10%が月間50ドル以上課金していることでこのプラットフォーム単体で年間20万ドル(約3,000万円)を稼いでいるのとこと!
(出所:https://backlinko.com/substack-users#substack-top-picks

私が今この記事を書いているnoteもこれまでに累計1億円以上を売り上げたクリエイターが28人いるとのことですが、年間売上トップ1,000に入るクリエイターの平均売上は667万円とのことで、もちろん人口・経済規模の違いはありますが、やはりSubstackの凄さを実感します。
(出所:https://note.jp/n/nd79ad138b280?gs=21a2b793ba3c#6c9fa982-fb9c-49f6-9415-4883f4beb11c

Substackの人気・成長の背景にはGoogleやFacebook等大手IT企業と違い、広告収入に依存しないコンテンツへの信頼、裏を返せば広告主への忖度や、再生数・閲覧数稼ぎに走るコンテンツへの不信感があるとのことで、今後日本でも個人のインフルエンサー(※Substackの場合は元々著名人である方も多くいます)が広告収入ではなく、読者や会員から直接フィーを徴収して忖度のないコンテンツを発信することが一般的になる日がやってくるかもしれません。

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