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【書評】 最強の教養 不確実性超入門

VUCAと称される現代において不確実性という単語自体はよく耳にする言葉ですが、今回の記事では田渕直也さんの「最強の教養 不確実性超入門」を用いて不確実性に関してまとめておきたいと思います。


不確実性とは

不確実性とは「予測不可能な未来のことであり、未来の予測は予測可能/不可能なことの割合でできている」と説明されています。例えば家を何時にでれば職場に何時につくということは、予測可能の割合が高い未来であり、地震がいつ起こるかは、ほぼ予測不可能な未来といえます。

そしてこの不確実性に関して、数学的なアプローチから解説を行っていくのですが、正直な感想として、この本で扱う “不確実性 ” はやや回りくどい表現になっています。
というのもこの本の不確実性が ” 確率論 ” と ” 複雑系 ” の両方の要素を内包した概念として延々と説明されるからです(この本ではいわゆる複雑系のことを ” 第2の不確実性 ” と呼んでいます)。


因果・確率・複雑系

世の中は基本的に因果論・確率論・複雑系によって成り立っています。3つは同格の概念ではなく、複雑系の中の一部に確率の世界があり、さらにそのなかに因果の世界がある、といった関係にあります。

橘玲さんの『読まなくていい本」の読書案内』で” 決定論 ” ” 確率論 ” ” 複雑系 ” の3つに関してわかりやすく説明しているので推薦図書に挙げさせていただきますが、簡単にいうと下図のようなイメージになります。

複雑系の一部が確率論の正解で、確率論の一部が因果論の世界


決定論

例えば期待するボールの軌道があるとき、ニュートン力学を用いて計算すれば、ボールの軌道の再現は可能ですし、将棋も棋譜を再現すれば、再現者がだれであれ同じ盤面が再現されます。ラプラスの悪魔に代表される古典力学などの世界では原因に対して事象が一元的に定義され、そこには確率や運といった要素が排除されています。この決定論的な世界観はおそらく最も理解が容易であり、実際私たちは日常的に物事の結果に対して ” 正しいか否かに関わらず本能的に ” 結果と原因を結び付けようとします(雨男や血液型占いなど)。

確率論

それに対して確率的なランダムネスの世界では事象は確率的にしか表現できません。シュレディンガーの猫に代表される量子力学の世界では物事は確率的な存在であり、残念ながら ” 神はサイコロを振らない ” わけではありません。たとえばサイコロはランダムネスの代表です。ジャンケンも勝率は基本的には参加人数によって均等に分散され、運以外の要素の介入余地はありません(でなければゲームとして成立しません)。宝くじも同様であり、そこには参加者が実力や地位に関係なく、胴元を除いた参加者が均等に機会が得られるということが最も価値があるゲームとなります。宝くじのプロなんてものは原理的に存在しませんし、逆に因果論的世界観で生きていれば ” 運気を高める ” 行動に出ることがあります。

複雑系

それに対して複雑系は全くこのなる様相を呈します。複雑系、カオス理論でも知られていますが、文字通り複雑なので言葉で表すのが大変です。今でこそその存在を知っているためイメージできますが、それこそドゥルーズ・ガタリといった著明な哲学者さえ混迷を極めたリゾームという表現でしか言い表せないほど難解な世界観です。

あえてざっくりといえば、因果と確率がそれぞれハブとスポークでフラクタル(相似形)を無限に形成した世界となります(これに関しては別の記事でまた解説します)。

競艇や競馬が宝くじと根本的に違うのは、それらがただ単に確率だけでは表せない複雑な要素が絡みあう点にあります。ゆえに宝くじにプロが存在しないのとは異なり、競馬や競艇の場合は複雑系に規則性を見出すことのできるプロといわれる存在が原理的には発生する可能性があります。


” 複雑系 ” の世界で不確実に生きるということ

世界は残念ながらシンプルな因果論でもなく、また確率だけの世界でもありません。しかし複雑系だからこそ人間は人生を楽しめるのではないかと思います。

自分の努力に対して正確に相関する報酬を受け取れる。そういうわかりやすいシステムであれば、人間はよく働く。そう思っている人がすごく多い。雇用問題の本を読むとそう書いてある。でも僕は、それは違うと思う。労働と報酬が正確に数値的に相関したら、人間は働きませんよ。なんの驚きも喜びもないですもん。

日本の文脈(内田樹・中沢新一)

上記の文章はそのことをとてもよく表現した文章だと思いますし、実際に予告された報酬がモチベーションを低下される実験結果は、行動経済学の書籍などではよく持ち出される事例です。

では複雑系の世界のなかで、どのようにふるまうべきかというヒントをこの本は与えており、それが小さなトライ&エラーを繰り返して、大きな成功を待ち、また大きな失敗をさけるという結論になります。このことは「クリックモーメント」にも共通する教訓かと思います。


不確実性のリスクプレミア

この本で伝えたいことは意思決定の場面における以下のメッセージに集約されます。

・将来予測は不確実であり困難であるが、そのリスクを許容しなければ利益は得られない(リスクプレミアム)。
・そのためには、勝率に惑わされるのではなく、小さな失敗を繰り返し、大きな成功を狙うことが最も重要である。
・大きな失敗を避けるためには、小さな失敗を許容しなくてはいけない。
・失敗を損切し、成功には大きく賭ける、勝率にはこだわるな。リスクプレミアムを取りに行け。

このメッセージを伝えるために不確実性というテーマを主軸において説明していく構成となっており、不確実性をわかりやすく学ぶという点では『読まなくていい本」の読書案内』と並んでおすすめの本となります。


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