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【書評】運動しても痩せないのはなぜか

ランニングマシーンやスマートフォンの歩数計をはじめとして、運動に対して「消費カロリー」なるものを提示してくれるとても便利なデバイスがたくさんありますが、この「消費カロリー」という概念は本当に正しいのでしょうか?
実際、肥満に対して運動を行っても体重減少効果はあまりないことがこれまでの研究から知られており、肥満症ガイドラインでも「運動療法は減量(体重減少)にはあまり効果的ではない」がGradeA, LevelⅠになっています。
私自身その理由がわかっていませんでしたが、その理由をクリアカットに説明できる理論を示してくれたのが、人類進化学者のハーマン・ポンツァーさんの著書「運動しても痩せないのはなぜか」でした。

簡単にまとめると以下のような内容でした。

  • 1日のカロリー消費は基礎代謝+身体活動量ではなく、身体活動に関係なく一定になるよう保たれている。

  • 一日の消費カロリーは「生存に必要不可欠な代謝」と「必要不可欠でない代謝」の合計で、必要不可欠でない部分がバッファとして機能している。身体活動量の上昇分は必要不可欠でない代謝から削られる。

  • 必要不可欠でない代謝のなかには免疫機能もあり、過剰な運動は免疫機能を下げるリスクがあるが、現代人はむしろ運動しなさすぎによる過剰免疫とそれによる炎症が問題になっている。

  • 過剰免疫による炎症によって、さまざまなな健康障害につながるとともに直接的にも間接的にも肥満になりやすくなる。なので運動しても大してやせないが、減量後の体重維持には重要。

  • 結局のところ減量は摂取カロリーを減らすことが最も重要。炭水化物制限や脂質制限さえすればいくらでもカロリーを取ってもいいというのは幻想。これらが効果があるのは結局摂取総カロリーが減っているから。

  • 現代は人間の報酬系を回すあまりに美味しく高カロリーの食品を労なく摂取できる異常な時代。このような環境に人間は適応できないので肥満が増え続けている。

  • 味が濃くてエネルギー密度が高いものは満腹感が少なく、この最たるものである加工食品は避けるべき。ただ加工食品は安くて手軽でおいしいものであるため難しい。

  • 体重を管理し代謝をうまく機能させるには、栄養価が高く、満腹感が得られ、カロリーの高くない食事をとるのがよい。例として魚、ナッツ、果物、新鮮な野菜、食物繊維を含む食事があげられる。

「制限的日次カロリー消費量」という概念が目から鱗な発想で、大変勉強になりました。話がすぐ脇道に逸れるため、やや本を読み進めずらいですが、運動のモチベーションを与えてくれる本であることは間違いありません。
同じような系統の「運動の神話」も併せて積読リストに追加したので、読み終えたら感想を書きたいと思います。

参考
The anti-inflammatory effects of exercise: mechanisms and implications for the prevention and treatment of disease

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