貴方が居なくても生きていけるようにしなければいけないでしょ?

どうしようもなく頭が痛かった。頭痛薬を飲んでも、その痛みは消えない。まるで音飛びしたレコードみたいに、痛みは不規則にやってくる。私はそれが去っていくのをじっと待つしかない。獲物を狙う狼のように、硬く、もっと硬く。その時をじっと待った。

彼に好きな人ができたと言われた時、ああそうかと思った。私たちの関係は、その時には取り返しのつかないくらいに壊れてしまっていて、あとはもう、残りカスみたいなそれをつまんでゴミ箱に放り込んでしまうだけで良かった。

「君はずるいね」と彼は言った。

私はずるいのだろうか。彼には何も言っていない。「君には私よりいい人がいる」とか、「不快だから私の前からとっとと消えて欲しい」とか。彼がもう別の人と会っているのを知っていながら、「次の人と幸せになってね」とも言わなかった。全く、いい女じゃないか。

私は考えるのをやめて、眠ることにした。

気がつくと草原の中にいた。ポツンとある東屋の中で、私はバナナと談笑している。何故って聞かれると、よく分からない。夢の一つ一つに意味を求めようとするなんてナンセンスだ。

「傷つけないために口をつぐんでいるのは、そんなにダメなこと?」私はバナナにそう言った。

「まあね。」バナナは答えた。

「人を傷つける自分を、受け入れられていないだけだろう?」バナナのくせに、偉そうだ。

「バナナのくせに、偉そうだ」バナナは言った。

「私の心がわかるの?」

「当然だよ。バナナなんだからさ」

「私はどうすれば良かったと思う?」

「覚悟を決めなきゃダメだろうね」

「どんな覚悟?」

「他人が外へ向けているナイフに、自ら刺さりにいく覚悟さ。自分が外に向けているナイフで他人を傷つける覚悟ともいえる」

「傷つくのは嫌よ。相手を傷つけるのも嫌」

「じゃあ1人でいることだね。」

「どちらもと言うわけにはいかないのかしら」

「ずるい女だよ、君は」

「何よ。暗喩的な夢に出てきて、大したこと言わないじゃない。もっと本質的な啓示を私にくれればいいのに」

「人を転ばせるのが、バナナの性分だからね。転んだ人間を救うようには出来てないんだよ。君は自分に関係する人が、全て自分のために存在していると思っているのかい?幼稚な思い上がりだ。物語の登場人物じゃないんだから」

私は目を覚ました。頭痛は消えていたが、酷く気分が悪い。バナナごときに言い逃げされてしまったのが癪に触る。何か言い返してやれば良かった。

スマホには彼からのメッセージが届いていた。

「荷物、捨ててくれても良かったのに」

私は「だって、貴方が居なくても生きていけるようにしなければいけないでしょ?」と返事をした。

やっぱりずるい女じゃないか。冷蔵庫の中で、そんな声が聞こえたような気がした。

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