見出し画像

Adult family 「あなたのチ○コは何センチ?」で話題のスリーピースが、下半身経由で心の奥に届けるメッセージ:sprayer Interview

今年8月、あるロックバンドのMVがXでにわかに話題を呼んだ。雲一つない青空の下、見つめ合う男女。思い出の中で眩しく微笑む彼女。そして、その二人に語り掛けるように、情緒的なコードをかき鳴らし、優しく包み込む歌声を響かせるバンドマン。その歌詞は、「あなたのチ○コは何センチ?」……。その切り抜き動画を掲載したXのポストには、2024年10月現在2万件以上のいいねが寄せられている。

センセーショナルかつセンシティブな楽曲で衝撃を与えた彼らの名は「Adult family」。今年3月に本格始動した、大阪拠点のスリーピースバンドだ。現在配信されている楽曲はデビュー曲「僕らは童貞」と前述の「あなたのチ○コは何センチ?」のみだが、その曲名だけでも、彼らの方向性を十分に掴むことができるだろう。

今回は、作詞作曲を手がけるひらさか一人っ子(Gt,Vo)にインタビュー。意外な(?)音楽への真摯な思いを感じることができた。

※一部過激な表現は、曲名含め伏せ字で表記しています。あらかじめご了承ください。


「通り道が下半身なだけ」の歌モノギターロック

-バンド結成の経緯を教えてください。

Adult familyの曲のいくつかは昔、地元・和歌山の高校の同級生と一緒に、下ネタの曲を数曲作ってライブに出てみようっていうことで、作っていたオリジナル曲だったんですよ。「僕らは童貞」もその中の一つでした。その後、僕が大阪に出て3~4年経った頃に、現Adult familyメンバーわたる(Dr)が「ひらさか君が昔やってたあの曲、やりたいです」って言いだしたんです。「ありやな」と思って、一度やってみようかってことになりました。

-なるほど。公式サイトでギターコード譜を公開してますけど、使ってるコードも結構凝ってたりしますよね。それもJ-POPからの影響なのかも。

はい、コードで遊ぶの大好きなので。「下ネタを歌うならメタルやメロコアの方がわかりやすい」ってライブハウスのスタッフさんによく言われるんですけど、やっぱり僕のルーツからして歌モノをやることは譲れないし、人の心を動かすものを作りたいんです。「チ○コチ○コチ○コ!」って連呼するのは、耳に呼びかけるだけのアプローチだと思うんですよ。僕は、その先にある心にまで届けたい。曲を作ってる人間として、それ以上の幸せはないと思っています。

-あえて下世話な質問をしますが、「バンドをやってモテよう!」みたいな気持ちはないんですか?

全然モテたいですよ。仮にモテるの定義が「異性が寄ってくる」だとしても、 「モテる嬉しさ」って元を辿っていけば自分という人間を受け入れてもらえたことによる快感、みたいなところあるじゃないですか。そういう意味で、僕の人間性の根っこに近い部分をAdult familyを通して見てもらえるのは、モテる快感に近いと思っています。

-現段階では「僕らは童貞」「あなたのチ○コは何センチ?」の2曲のみがサブスク配信されていますが、他にどのようなテーマの楽曲があるんですか?

実は先日、「勃起しちゃいました」という曲を3曲目としてリリースさせてもらいました。他にも色んな部位を通して自分のコンプレックスや伝えたいことを曲にしていってます。色んな曲を出していくとは思うのですが、刺激的なワードを使っているのにその奥に何もない曲は書かないと思いますね。あと、異性の何かを揶揄したりはすることはないと思います。

-「僕らは童貞」は当初、ディストリビューションサービスの審査に落ちて、サブスク配信ができなかったそうですね。

はい。そこで、僕が一番信頼している先輩である窓際ぼっち倶楽部の城島さんにsprayerのスタッフの方を紹介していただいて。

-たとえば審査を通過するために歌詞をマイルドにしようという考えはなかったんですか?

そうですね。大学に入学した時、僕はなんとなく周りに馴染めなくて、あまり友達ができなくて「あいつ何考えてるかわかれへん」みたいな立ち位置だったんです。でも、下ネタの曲を作っていると知られるようになってから少しだけ友達が増えました。その曲が「僕らは童貞」でした。音楽を通して、僕という人間を知ってもらえた最初の経験だったので、一際思い入れが強い曲ですね。だから変えたくないなって。歌詞はその時から一字一句変わってないですね。

(※同席したsprayerスタッフ):一応僕も各所に確認しました(笑)。積極的なプロモーションはできないかもしれないけれど、配信自体はできますっていうことで。

sprayerのスタッフさんが最初に連絡してくださった時の言葉で、この人なら大丈夫だって思ったんです。「ワードは激しいですけど、誰かを傷付ける歌詞ではないので大丈夫と判断しました」っていう。この人はちゃんとAdult familyを理解した上でOK出してくれてると思って。

-センシティブな内容を取り扱っているバンドだからこその苦労って、他にもありますか?

カラオケの配信もやっぱり断られましたね。あと、ライブハウスの人からは辛口なコメントを貰うことが多いです。やっぱり、それぞれのライブハウスに宿っている 文化みたいなものがあるじゃないですか。なので、異質なものを拒む動きを感じることもありますね。ただ、カラオケは「あなたのチ○コは何センチ?」だけDAMさんから配信してもらえることになりましたし、東京なら下北沢MOSAiC、大阪なら心斎橋BRONZE、OSAKA MUSEなど良くしてくれるライブハウスもあるので。壁にぶつかるたびに誰かから手を差し伸べてもらって前に進んでるバンドだなと思います。

-逆に、下ネタを歌っていたからこその良いことは?

初対面のバンドと対バンした時に、向こうから好意的に話しかけてもらえることは多いですね。やっぱり、童貞とかチ○コの大きさとか、自分の一番みっともない弱い部分をさらけ出しているので、あまり敵対視せずに関わってくれる。僕自身は自分から話しかけることができるタイプじゃないので、曲に助けられてますね。


「あなたのチ○コは何センチ?」のバズで勘当された父親と和解

-先ほどsprayerスタッフからの言葉にもありましたが、「誰も傷付けないこと」はひらさかさんも作詞をする上で重要視しているんですか?

はい。Adult familyって、基本的に女性側のことを歌うことはなくて、自分の心の中を歌ってるんですよ。アンチ〇〇ではない、っていうのはバンドの大きな軸。「チ○コチ○コ!ウェーイ!」っていうのとも違くて、あくまでチンコは通り道っていう。

-形としては下ネタだけど、描いているのはリアルな苦悩だと。

そうですね。たとえば「あなたのチ○コは何センチ?」は失恋ソングなんですけど。女の人が男の人を振る時の言葉って、「友達としか思えない」とか、「あなたにはもっと良い人がいると思う」とか、抽象的でふわっとしてることが多いじゃないですか。でも、チ○コの大きさは変えられるものではないし、数字なのでハッキリとしていて覆らない。逃れようのない事実だから苦しくもあるんですが、だからこその救いもあると思って。仮に、「チ○コが小さいからあなたは無理」って言われたら、「それなら仕方ないな」って諦められるじゃないですか。

裏を返せば、自分のダメなところをチ○コのせいにして逃げてしまう僕の心の弱さを歌ってる曲でもある。だから最後は自戒の意味も込めて、「チ○コのせいじゃなかったみたい」って歌ってるんです。

-なるほど。MVの動画概要欄には、楽曲に込めた思いを補足するようなメッセージが記載されていますよね。ライブ中に手紙で読み上げることもあるようですが、あの内容もひらさかさんが?

そうですね。たまたま曲を聴いて気になった人が、二周目は概要欄を読んでから違う聴き方をしてくれたら嬉しいなっていう、僕のエゴでもあります。

-ひらさかさんの思いは、もはや楽曲からはみ出てますよね。曲のために面白いことを書こうとしてるんじゃなくて、無限に広がる思いの一部を曲にしたら結果的に面白くなってるという。そういった一面もあるし、曲自体もキレイで、歌声も良くて、だからこそどういうテンションで聴けばいいんだろうっていうのが正直な思いで……。ひらさかさんとしては、リスナーにどのように楽曲を楽しんでほしいと思っているんですか?

笑ってもらえるのも、共感してもらえるのも、意味わからんって言われるのも、人の心が動いていることには変わりないと思うので、全部嬉しいですね。アンチコメントも、そうやってイジってくれてるのかなと感じるので、嫌な気分にはならないです。僕がMなだけかもしれませんが。

ただ、Adult familyのチ○コを使った表現方法が耳に馴染まないことはあったとしても、その内容の意味はわかってくれたり、共感できたりするものだと思うんですよ。その違和感はポジティブに受け止めてます。ライブハウスでも「何をしたいん?」「どういうこと?」「どう観ればいいん?」ってよく言われるんですけど、そうやって困惑されること自体、僕としては嬉しくて。オリジナリティがあるからこそ起きる反応だから。僕たちの中に芯がある以上、そういった反応で作風を変えたり、誰かに迎合する気はないですね。

-今年8月には、Xに投稿した「あなたのチ○コは何センチ?」のMV動画が2万件以上のいいねを獲得しました。バズった時の率直な感想はいかがでしたか?

嬉しかったです。下ネタを言う以上、その奥にメッセージがあることも伝わるようにしないとな、と思っていて、サビを聞くだけでちゃんとその曲の意味まで伝わるように意識して作ってるんです。それが結果的に、一部を切り抜いてSNSに投稿する時に伝わりやすい曲作りになっていたのかなと思います。たとえば、 「あなたのチンコは何センチ?」なら、サビで「砕けたメンタル僕センチ」まで歌い切れたことで、Adult familyの音楽性が短い動画の中で全部伝わったんだなと。

SNSにマッチさせようとしすぎて方向性に迷いが生まれるバンドもあるかもしれませんが、Adult familyの場合は、SNSで伸びたことで逆に襟を正されたというか。「ただ下ネタを言うだけじゃなく、ちゃんとメッセージを込めていて良かった」と、自分たちの道を再確認させられましたね。

-Xで、疎遠になっていたお父さんとAdult familyの楽曲をきっかけに仲直りしたとポストしてましたよね。

父親からはほぼ勘当された状態でした。僕、地元で一年だけ公務員として働いてたんですよ。でも、コロナ禍の当時、バンドをやりながら公務員をやるっていうのは風当たりがキツくて、これは続けられないなって。親としては「何してんねん!」ですよね。「辞めるなら出てけ」って言われたから、それから実家を離れて、ほぼ連絡を取ってませんでした。

父としては、計画性のない馬鹿の所業だと思ったんでしょうね。今回のことは、チ○コといえど少しだけ結果が出たことを素直に喜んでくれたのかな、と思っています。

-本気度が伝わったんですかね。

そうですね。「あなたのチ○コは何センチ?」という曲をシンプルに褒めてくれて、嬉しかったです。「人には言えないコンプレックスを新しい角度から歌ってて、これは芸術やと思う」って。認められた気がしました。

-ちゃんとAdult familyの楽曲の奥にある哲学を理解してもらえてると。

父親は昔から、何をやるにしても悪ノリを許さない人だったので。Adult familyの表現にも、その影響が表れてるのかもしないです。


「心の奥まで見てもらいたい」

-11月から12月にかけては、自主企画『あなたの街まで何センチ?』が東阪で開催されます。意気込みはいかがですか?

「あなたのチ○コは何センチ?」が伸びてから初の企画ライブなので、初めてAdult familyを観る人、初めてライブハウス文化に触れる人も多いと思います。「ライブハウスだから」「ロックバンドだから」という考えに囚われない演出のライブにしたいですね。曲だけでは伝わり切らない人間の部分、どういった思いでAdult familyをやっているのかっていうところまで、わかってもらえるような日にしたいなと思ってます。

-最後に、バンドとしての目標を教えてください。

Adult familyは今のところ表層的な部分で認知されてる面も大きいと思うので、チンコを経由しつつも最終的には僕らの心の奥まで皆さんに見てもらえるように頑張りたいです。いつの日かライブ会場に来てるお客さんのチ○コの長さを総計して、東京タワーに届くくらいの規模感でライブできたら良いですね。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:Adult family

From 霊長類 3ピースバンド 僕達の心の叫びを聴いてください
▼X
https://twitter.com/Adultfamily_da

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?