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Agaki 『ICHIGOICHIE』最優秀賞受賞! TikTok発の超新星SSW:sprayer Interview

音楽ディストリビューションサービス・sprayerが開催する、アーティスト・ファン・sprayerの一期一会をテーマにしたシリーズ型のクリエイティブイベント『ICHIGOICHIE』。第2弾となった『ICHIGOICHIE 2 - GROW -』では、「まだ配信したことがない音源」を条件に、15秒~150秒の楽曲を募集した。

前回の倍以上に及ぶ応募から見事最優秀賞を受賞したのは、兵庫県出身のSSW/コンポーザー・Agakiによるポップロックチューン「ファンファーレ」だ。2023年から宅録での楽曲制作を開始し、TikTokへの楽曲投稿を中心に活動中。いまだ正式な音源リリース前にも関わらず、ただならぬポップセンスとアンニュイなニュアンスの奥に静かな情熱を感じさせる歌声で、sprayerチームの心を掴んだ。

今回はそんなAgakiに、音楽遍歴や制作へのこだわり、最優秀賞の特典として勝ち取った10万円分の楽曲制作サポートでの成長と、今後の展望について聞いた。

コロナ禍が活動のきっかけに

-Agakiさんが最初にハマった音楽について教えてください。

3つ上の兄がアジカンをよく流していたので、それを無意識のうちに聴いてました。中学に入ってからは、また兄の影響でRADWIMPSを知ったり。あとは親が結構洋楽好きで、クラプトンを流したりしていて。そういったところから、徐々にバンド的なものに興味が湧いていきました。兄も親もギターを弾いていたので、家にあったそれになんとなく触れるようになって。初めてバンドで演奏したのは高校の文化祭でした。

-その時はどんな曲を演奏したんですか?

KANA-BOON「ないものねだり」とかをやりましたね。で、大学入学を機に兵庫から東京に来て、そこでもバンドサークルでコピーをやってました。それこそアジカンやRAD、BUMP OF CHICKENとか。そのころにDTMにも興味が湧いてきて。TikTokからWurtSのようなソロアーティストがヒットしてきた時期だったので、自分も試しにやってみようっていう。はじめは別にどこかに発表するわけでもなくワンフレーズ作ったりするだけだったんですけど、会社員になってから本格的に制作を始めました。

-バンドではオリジナル曲を演奏せず?

やってなかったですね。DTMを始めたのがちょうどコロナ禍だったんですけど、時間があって一人でできることを考えたらDTMだったんです。コロナが流行ってなかったら曲を作ることもなかったかもしれないですね。

-すべてのクリエイティブを一人で完結できる現在の形態がAgakiさんにフィットしている部分もあるのでしょうか。

確かにそうかもしれないです。バンドだと音楽性の違いが出てくるとかはよくある話で。自分だけで完結できて、自分が作りたいものを作れるっていうのはいいですね。社会人になると、メンバーみんなで時間を合わせるのもなかなか難しいので、そういう意味でもメリットはあるかなと。

-Agakiさんはアートワークも手がけてらっしゃいますし、TikTokの動画も自身で制作されていますもんね。

絵を描くのも結構好きなので。とはいえ一番やりたいのは音楽だから、これからはある程度他の人の手も借りながら活動できたらと思っています。

-ちなみに、あえて一番大きな影響を受けたアーティストを一組挙げるとしたらどなたになりますか?

影響……一番好きなのはアジカンですね。だけど、曲作りで参考にしているかっていうとまたちょっと違う気がして。そういう意味では、それこそWurtSやVaundyのように、ひとりで曲を作っていて、色んな音を駆使しているアーティストから影響を受けることが多いです。

-確かに、Agakiさんの楽曲はアジカンをはじめとする国内ロックバンドのエッセンスが滲み出つつも、そのバンド感とベッドルーム感の絶妙なバランスが魅力になっているなと感じます。Agakiさんが最初に楽曲を発表したのはTikTokでしたが、それはなぜ?

とりあえず何かを公開しないとダメだなと思ったんですけど……YouTubeでやるとしたら、フルで作らないといけないじゃないですか(笑)。TikTokだったら、最悪15秒から30秒あれば公開できる。そういう事情もあって、まず30秒の曲を作るのであれば日々の生活の中でできるなと思って。

-TikTokの動画からはAgakiさんのアニメ愛も感じます。

マンガやアニメはめちゃくちゃ好きです。実家の本棚にはマンガが1000冊ぐらいあって。世代的に、NARUTOとかめっちゃ好きでしたね。

-アジカンもそうですけれど、そのあたりのアニソンからの影響もきっと大きいですよね。

NARUTOや銀魂の主題歌は大好きで、よく聴いてました。いま聴くと、ちょっと泣きそうになっちゃう(笑)。曲作りでも、「これ、アニソンにありそうだな」と思いながら作ることもあります。

-楽曲「ファンファーレ」の動画は2万再生を突破していますが、リスナーからのリアクションはいかがですか?

いままでオリジナル曲でのバンド活動もしてこなかった自分の曲に対して、「すごい聴いてます!」「毎日動画見に来てます!」と言ってくれるのは、月並みですけどとても嬉しいです。そういったコメントを貰えるのも、やっぱりこまめに発信してこそなので、今後も頑張りたいなと。

-TikTokでの発信にあたって気をつけていることはありますか?

いま伸びている他の動画をチェックするようにはしています。たとえば五十嵐ハルさんは、動画の最初にアイキャッチとして音楽と関係ない映像を挟んだりしていて。あとは、サビの少し前から流れているのか、文字情報はあった方がいいのかとか。そういう動画の構成は参考にしています。

-TikTok動画としてのフックと、アーティストとしてのブランディングのバランスは難しいですよね。

それも含めて、探り探りで続けてますね。


こだわりは歌と"変な音"

-曲作りはどこから出発するんですか?

まずはコード進行を決めて、ギターかピアノで弾いて。それから歌以外のオケを先に全部作ります。メロディはオケが出来てから、それを何回も流しながら鼻歌で歌って。

-その中で特に時間をかけるポイントは?

歌のメロディですね。元々バンドサークルでもギターボーカルを担当してたんですけど、ギターが好きというよりは歌うことが好きなので。自分が歌いたい歌、聴いてて気持ちいい音程やリズムを探って、50パターンくらい録ったりします。これもアニソンからの影響かもしれないですけど、やっぱり歌はキャッチーであることが大事だと思うので。

-オケを先に組み立てることで、ジャンルの幅広さが担保されているのかもしれませんね。ロックからチルポップ、ファンクテイストの楽曲まで、多彩なサウンドはAgakiさんの強みのひとつだと感じます。

飽きっぽい性格なので、一曲完成する前に違う曲を作りたくなっちゃうんですよね。特定のジャンルにとらわらず、その時に作りたいと思ったものを作るって感じで。

-そう考えると、作品を小出しできるTikTokというメディアがAgakiさんのスタイルにフィットしていたのかもしれない。ご自身では、「Agakiらしさ」はどういった点だと思いますか?

ジャンルに縛られないところもそうですし、あとは歌にこだわっているところですかね。聴き心地の良い発声は意識しています。声の出し方っていうのは、声質も含めて他人に真似できないところだと思うので。

-サウンドの方向性が多岐にわたっていても、声という一本の個性が通っていると。

そうですね。それと、楽曲にちょっと変な音を入れるっていうことは意識しています。4人組のバンドだったら出せる音に限界があるけれど、DTM・宅録だったらインパクトのある音を盛り込むことができるので。それが差別化になると思っています。

ーバンドサウンドを軸にしつつ、生演奏外の音色を取り込むという。そういう意味では、ボカロ楽曲がルーツにあったりもするんでしょうか?

確かに、聴いてる方だと思います。あとは変な音が入ってるバンドも結構好きで……たとえばPEOPLE1とか。音数が多いけど、全体ではまとまってる、みたいなサウンドを目指しています。


初の共同制作で掴んだ新たな感触

-楽曲コンテスト『ICHIGOICHIE 2 - GROW-』で最優秀賞を獲得した『ファンファーレ』は、どのようなきっかけで作られたのでしょうか。

明るい、前向きな曲を作りたいなと思って。働きながら楽曲制作をしているとやっぱり夜に作業することが多いんですけれど、そうすると暗い曲ばっかりになっちゃう。会社員生活は大変だなという思いを込めつつ、明るい曲を作りたかった。

-そのモチベーションは、音だけではなく歌詞にも込められている?

そうですね。社会人になってからは特に、思い通りにいかないことも多々あるし、自分の時間も無くなってきて。その中でもなんとか前向きにやっていくしかないよな、という気持ちを歌詞にしています。

-『ICHIGOICHIE 2』最優秀賞の副賞として、本楽曲を使用したsprayerの公式プロモーション動画がクロス新宿ビジョンで放映されました。実際にその模様を見た率直な感想を教えてください。

いや、もうビックリですよね。曲を作る前からしたら考えられないことなので。学生時代には新宿でバイトしてたんですけど、「毎日通ってた場所に自分が映ってる!」って。そういう機会をこれからも得られるように頑張ろうと思いました。

-作品を世に届けることの達成感を改めて感じられたのではないでしょうか?

かもしれないですね。SNSでのリアクションってハッキリ目に見えるものじゃないし、本当にその人がいるのかもわからないし(笑)。今回、ビジョンの映像を見て、ちゃんと発信できてるんだなと思って。

-アーティストとして活動してるんだなという実感が湧いた?

そうですね。それが強く感じられた機会だったかな。

-『ICHIGOICHIE 2』最優秀賞の受賞に伴って、日本コロムビア株式会社にある音楽クリエイティブチーム「MAKES by NIPPON COLUMBIA CO.,LTD.」による10万円分の楽曲制作サポートが贈呈されました。ビジョンで放映された映像に使用されている音源は、そのサポートによりアップデートされたものとのことですが、実際にはどのように制作が進んだのでしょうか。

まずは「MAKES」の方々に応募させていただいたそのままの音源を聴いていただいた上で、「どのように仕上げていきましょう?」「私たちとしてはこういう風にしていくと良いんじゃないかと思っています」というビジョンを会議室で直接お話いただいて。そのイメージをすり合わせながら、まずはアレンジの方向性を定めていきました。

-なるほど。

今回はアレンジとボーカルレコーディングを「MAKES」にサポートいただくことになっていたので、まずはボーカルを録音して。その後のアレンジについては、「もうちょっとこういうイメージで」と修正をお願いしたりしつつ、メールで3ラリーくらい音源をやりとりして完成しました。僕が自分で録ったデモ時点でのギターは生かしてもらいつつ。

sprayerスタッフ:ボーカルレコーディングは社内にあるレコーディングスタジオで行いましたね。)

-いつもは自宅で楽曲制作を行っているわけですが、スタジオでのレコーディングを体験してみていかがでしたか?

もちろん環境が整っているので、すごくありがたいなと思いましたね。たとえば使ってるマイクだったり、音が反響しない防音環境だったり。どうしても自分で録ってると、生活音やノイズが入ったりするので……。僕の場合は、部屋のそばに道路があって結構気になったり、「あ、いま近所で大学生が騒いでるから録音できないな」と思ったりするので(笑)。機材に関しても、個人でお金をかけられるレベルを超えたものが揃っているので、とても良い機会でした。

-完成した音源を聴いた感想は?

やっぱり自分じゃできないような仕上がりで……それは技術的にも、発想的にも。発見がいろいろありましたし、曲のクオリティが上がっただけじゃなく、今後の制作のイメージも湧きましたね。自分の曲をアップデートしてもらうことで、その差分が明確にわかるから、他の人の曲を聴くだけでは得られないものが得られて、ありがたかったです。

-初めてプロのクリエイターと制作をともにしてみて、苦戦したことはありましたか?

ボーカルレコーディングに関しては、時間的な制約があることが難しいと思いましたね。宅録だったら自分が気に入るまで50回、100回と無限に録り直せるけど、今回はそうもいかなかったので。今回は多くても3テイクくらいでポンポン進めていただきました。

あとは、アレンジについてやりとりするときに、音楽を言語化して伝えるのがすごく難しくて。それをどう解消できるかが音楽制作の要というか、キモなんだろうなと思いました。音楽知識があって、「〇〇を〇〇にしてください」とハッキリ言えたら良いんですけど、アレンジがなんとなくイメージと違う時に、何を足してほしいのかを自分でもわかってなかったりする。それを言葉で説明するのって大変だな、と感じました。

sprayerスタッフ:最初に制作したアレンジは、Agakiさんのイメージよりかなりポップになっていました。)

それはそれで、「こういうのもあるのか」とは思ったんですけど。なかなかイメージをすり合わせるのが難しいものだなと。

-具体的には、完成した音源のどのような点でそれを感じましたか?

ベースの音がすごい良いなと思って。プラグインやソフトのクオリティもですし、音作りの仕方も違うだろうから。やっぱり流石だなと。あとは、サビまでの盛り上げ方、サビ前の落ち込ませ方ですかね。楽器をこうやって積み重ねていくのかとか。

-緩急のつけ方や、引き算によるアレンジですね。

そうですね。こんなにスッキリしてるのに、物足りなく感じないんだって。僕は音を足して寂しくないようにしようって考えちゃってたんですけど。それは学びになりました。

-第三者が制作に加わると、アイデアの取捨選択をしやすくなるという面はありますよね。自分で考えたフレーズやメロディって、どうしても愛着が沸いて切り捨てづらいだろうし。

確かに。一回作ってしまうと、なかなかそれを引く選択肢が浮かんでこないかもしれないですね。「この音がないと寂しいじゃん」「せっかく考えたのに」と思っちゃう。


面白いと思った方向に進み続けたい

-Agakiさんの楽曲が正式にリリースされるのが待ち遠しいです。

「ファンファーレ」については、リリースを進めていく予定です。実は、『ICHIGOICHIE 2』受賞前に映像作家の方からTikTokでDMをいただいて、「ファンファーレ」のMVを作ってくださることになったんですよ。僕の楽曲を気に入ってくださって……それも発信し続けたからこそだなと。なので、急いで曲を仕上げてリリースできたらなと。

-ほかに新曲のストックはあるんですか?

フルである程度形になってるのはあと2曲くらいなんですけど、着手してるのは20曲くらいあるかもしれないです。

-いつかはライブも観てみたいなと思うのですが、そのプランは?

ライブしたいですね。曲を出すよりも、ライブしたいです(笑)。やっぱり僕は、何が好きかというと歌うことが一番好きなので。こと歌うことに関しては、人前に出るのも全然苦じゃない。ライブができるくらい曲をちゃんと作って世に出していこうと思ってます。

-具体的に立ってみたいステージはありますか?

恵比寿LIQUIDROOMに立ちたいですね。3、4回行ったことがあるんですけど、特にWurtSの初有観客ライブが印象に残ってて。「自分より年下で、ひとりで曲を作ってTikTokに上げてる人がLIQUIDROOMでワンマンやってる!」って。そこに追いつきたいです。

-では最後に、Agakiとして目指すアーティスト像を教えてください。

目指すアーティスト像はある種なくて。「ない」というのがアーティスト像というか。その都度面白いと思った方向に進めればいいかなと。「この人はこういう曲を作る人だ」「こういうライブをする人だ」「こういう売り出し方しかしない人だ」とか、別に決める必要はないと思ってて。その時やりたいことに、柔軟にシフトしていけるような感性を持ち続けるのが目標ですね。


Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:Agaki

兵庫県出身のSSW/コンポーザー。東京を活動拠点として2023年より宅録での音楽活動を開始。ギターロックから、メロウなチルポップまで多岐に渡る楽曲を制作。楽曲のジャケットを制作するなど、アートワークのセルフプロデュースも手掛けている。

▼TikTok
https://www.tiktok.com/@peperoncino_618

▼YouTube
https://www.youtube.com/@agaki_music


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