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Rip van cats 令和のライブハウスで昭和歌謡を鳴らすネオレトロポップス・バンド:sprayer Interview

2022年9月に活動を開始し、「ネオレトロポップス」をコンセプトに活動するニュージャンルな4人組バンド・Rip van cats。粗いブラウン管越しに届けられるような昭和歌謡サウンドは、リスナーを瞬く間にバブル期にタイムスリップさせる。楽曲だけではなく、まるで80年代アイドルなボーカル・mariaのルックスやライブパフォーマンスまでもが昔懐かしく、その佇まいは逆説的に2024年のライブハウスシーンに新しい風を吹かせている。

11月1日にリリースされた最新EP『ザ・ベストファイブ』でノスタルジーの純度をさらに高めた彼らが、なぜ昭和に憧れ、いかに昭和を体現しているのか。メンバー4人に話を聞いた。



生きたことがないのに懐かしい時代への憧れ

[L→R] くりあげ(Key)| ハドソン永田(Dr)| maria(Vo)| アドベントザキチ(Ba)

-バンド結成の経緯を教えてください。

アドベントザキチ(Ba):俺とくりあげ(Key)、オリジナルメンバーのギターとドラムが、音楽専門学校で前後の席に座ってたんです。「じゃあバンド組めるじゃん!」ってことになって。ただ、ボーカル希望の人たちにあんまりピンとくる人がいなかった。そこで、当時サウンドクリエイターコースにいて華があったmariaを無理やりスタジオに誘って、歌ってもらったんです。それまで、歌声はまったく聞いたことなかったんですけど。

maria(Vo):「興味あったら来て」って言われて行ってみたら、いつの間にかメンバーになってた(笑)。

-初期の音源を聴いてみると、現在の昭和なスタイルよりもギターロック色が濃いですよね。当初はどのようなバンド像を描いていたんですか?

アドベントザキチ:当初は俺が全曲の作詞作曲をしてたんですけど、cinema staffとか残響系のバンドが好きだったので、そういうのがやりたくて。変拍子ロックみたいなことばっかりやってましたね。

アドベントザキチ(Ba)

-そこから昭和歌謡路線に振り切ったのはどのようなきっかけで?

アドベントザキチ:mariaが「お前の曲は歌えねえよ!」って……。

maria:そんなことは言ってない(笑)。けど、単純に私には合わなかったんですよ。私は元々昭和歌謡が好きで。キーボードのくりあげが歌謡曲チックな曲を作るセンスがめちゃくちゃあったので、自然と今の方向性になっていきましたね。

-mariaさんの昭和のカルチャーにハマったのはいつごろからなんですか?

maria:小学校三年生の時に、東京タワーで『ALWAYS 三丁目の夕日』の舞台セットの縮小模型が展示されてたんです。それに一目惚れして。最初は60年代が好きになって、高校生になってからは70年代、80年代のファッションやマンガにハマりました。マンガだと『はいからさんが通る』とか、『らんま1/2』はじめ高橋留美子さんの作品が大好きだし、その他のカルチャーも全体的に好きなんです。

-なぜ昭和カルチャーに惹かれるのでしょう?

maria:私たちの世代にとって、生きたことがない時代のはずなのに、なぜか懐かしさを感じる。それが一番大きな理由ですね。それと、私はバブル時代が一番好きなんですけれど、やっぱりみんなが輝いている未来を夢見てた時代で、それも魅力的に感じるし。音楽に関して言うと、やっぱり当時のアイドルって高嶺の花じゃないですか。女神みたいな。ルックスもそうだし、歌唱力も……本当に、アイドルっていう言葉がぴったりの。

-「偶像」という意味で?

maria:そう、偶像。サウンドに関しても、音楽番組で贅沢に生演奏を届けてたりとかして。本当に、すべてに魅力を感じます。

maria(Vo)

-ハドソン永田さん、くりあげさんは昭和カルチャーにルーツはありますか?

ハドソン永田(Dr)・くりあげ(Key):正直ないです。

ハドソン永田:僕は日本のロックバンドを聴いてきてて、一番最初にハマったのはマキシマム ザ ホルモンでした。中学生の時にリリースされたアルバム『予襲復讐』が刺さって、そこから音楽にどっぷり浸かり、ドラムを始めました。それからは9mm Parabellum Bullet、凛として時雨を好きになり、高校生の頃にはラウドバンドも何個も掛け持ちしてましたね。八王子のMatch Voxとかでよくライブしてました。

くりあげ:自分は4歳からヤマハ音楽に教室に通ってエレクトーンを弾いていたんですけれど、仕事としての需要があまりないことに高校生の頃気付いたんです。そんな時にMrs. GREEN APPLEを見つけて、キーボーディストの藤澤涼架さんがカッコよくて。自分も東京で音楽をやって、キーボーディストとしてバンド仲間を見つけられるといいなと思い、上京してきました。

くりあげ(Key)

-永田さんだけが途中加入のメンバーですが、加入のきっかけは?

ハドソン永田:同じ専門学校の同級生だったんですけど、当初は僕だけハブにされてて(笑)。ザキチとは一緒にメタルバンドをやったりもしてたんですけどね。卒業後、ザキチが別のバンドをやってた僕に「サポートをやってくれない?」って連絡してきたので、サポートならということで承諾しました。ただ、その直後に僕のいたバンドが解散することになり。「拾ってくれ!」っていうことで(笑)。

ハドソン永田(Dr)


昭和らしさ×自分らしさ=「ネオレトロポップス」

-曲作りの流れはどのような感じですか?

maria:私かくりあげが作ってます。くりあげの場合は、ほぼ全体を完成形のデータで作ってきて、各楽器隊がちょこちょこアレンジを加えていく。私の場合は、弾き語りや簡単なリズム隊の打ち込みをリファレンス曲とともに渡してみんなにアレンジしてもらう、という流れでやってます。

-昭和歌謡を現代に蘇らせるバンドとして、いわゆるロックバンドとは異なるアプローチが要求されることかと思いますが、楽器隊のみなさんはどのような意識でアレンジに取り組んでいますか?

アドベントザキチ:昭和の曲のベースって、一音一音が重くて。一発間違えると終わりな感じがある。ルート弾きでも重みがあるんですよね。あとは、ロックなら勢いで走ってもカッコよくなるけど、Rip van catsではそれが封じられてるのが難しいですね。一定のテンポを保ちながら盛り上げることを意識してます。

ハドソン永田:ドラムに関して言うと、昭和歌謡には必殺のドラムフレーズが2個あるんですよ。企業秘密なので詳しくは言えないんですけど、まずはそれを多用すること。あとは音量バランスですね。シンバルを抑えて、太鼓類を前に出す。そうするとより歌詞が伝わりやすくなるというか。ただ歌に優しく寄り添うだけじゃなくて、ちょっと蹴り上げるような寄り添い方。「はい、いってらっしゃい!」ていうようなアプローチを意識してますね。

くりあげ:キーボードはサボればサボるほどダサくなってしまうので、それは自覚して弾いてます。実は、槇原敬之さんとか徳永英明さんといった平成初期の曲が結構好きで、何も考えずに作るとそのあたりに寄ってしまうんですよね。そうするとボーカルと時代がズレてしまうので、何十年か脳みそをズラして作るようにしてます。今はキーボードの音質が良い分、昭和っぽさから離れてしまうので、いかに音色で古く見せるかもキモで。あえてざらつかせたりとか、色々と試しながら作ってます。

-mariaさんは、ボーカルスタイルに関してどのようなことを意識していますか?

maria:もうとにかく昭和歌謡を聴き込んで、モノマネをして、当時の歌い方を取り入れてますね。一番わかりやすいのは、昭和的なビブラートですよね。とにかく深いんですよ、あの時代のビブラートは。当初はビブラートが全然できない人間だったので、めちゃくちゃ練習しました。

-「ネオレトロポップス」を掲げるRip van catsですが、「ネオ」であることは大きなポイントなんじゃないかと思っていて。昭和歌謡そのままではない「ネオ」な部分とは、どういった点なのでしょう?

ハドソン永田:どこまで昭和を取り入れて、どこまで新しいものを取り入れるかというバランスは最近よく考えてて。でも、mariaさんの声質自体は今どきっぽいというか、昭和じゃないじゃないですか。だから、楽器陣がガッツリ昭和に寄せても、mariaさんの声が「ネオ」の部分を担ってくれるのかなと思ってます。

あと、最新EP『ザ・ベストファイブ』の1曲目「ウィークエンド・ダンス」は昔っぽさと今っぽさがちょうどミックスされた曲になっているかなって。ドラムのアレンジを、もっと昭和歌謡に寄せることもできたと思うんですけど、上モノに合わせてタムをフレージングしたり、オルタナティブロック的なアプローチをしていて。昭和っぽさと今っぽさ、メンバーそれぞれの自分らしさの塩梅を、色々試しながらやっています。

-歌詞に関しては、どのようなこだわりがありますか?

maria:曲によって、今どきっぽい歌詞にすることもあれば、ザ・昭和に寄せることもありますね。たとえば、『ザ・ベストファイブ』収録の「哀ゆえに」は本当に70年代らしく、山口百恵さんが歌ってそうな憂いを感じさせる歌詞にしたり。

-楽曲のみならず、ビジュアル面でもノスタルジックな空気感を表現していますね。スタイリングはメンバー各自で行っているんですか?

maria:衣装は一緒に選んでます。私以外の3人はセットアップだけど、インナーでそれぞれのイメージカラーをまとっていて。私はザ・昭和な見た目だし、ザキチも結構昭和な髪型なのに対して、くりあげとハドソン永田がネオな感じなので、ちょうど良いバランスになってますね。

ハドソン永田:俺らって「ネオ組」なの(笑)?

maria:どちらかと言えば(笑)。

-ライブでのステージングに関してはどうですか?

maria:フリやパフォーマンスは、昭和のアイドルとかアーティストさんのライブ映像を繰り返し見て、ステップや指先の動きまでひたすらに研究してます。恥ずかしいんですけど、鏡の前とかで練習して(笑)。一番参考にしているのはやっぱり(山口)百恵さん。あとは中森明菜さん、可愛い曲だと岡田有希子さんを参考にして自分で1から考えています。

アドベントザキチ:スタジオミュージシャンっぽい出で立ちをすることが大事だと思っています。基本的にはずっと興味なさそうに演奏してて(笑)。バックバンドが前に出ずにアイコンタクトしてるのが昭和っぽいかなと。

くりあげ:とにかく目立たないようにしていますね。あくまで見てほしいのはボーカルなので、彼女にとことん目立ってもらいたい。自分は端っこでカッコつけつつ、女の子らしくならないようにしていますね。

ハドソン永田:僕はむしろ真逆で、ライブでは昭和を意識せずに、「自分100%」でやるようにしています。『いちご100%』みたいな(?)。良い意味で浮くように、フロント3人が動いていない時こそ動いて、逆に3人に動きがある時はじっとする。メンバーと逆のアプローチをすることを心がけています。


目標はFNS歌謡祭・紅白歌合戦

-11月1日にリリースされたEP『ザ・ベストファイブ』について聞かせてください。まず率直に、完成した手応えはいかがでしたか?

maria:より昭和に仕上がったと思ってます。

アドベントザキチ:『ザ・ベストファイブ』というタイトルの通り、今まで以上にザ・昭和な曲を集めたEPになりましたね。曲が出来上がってから、全曲ガッツリ昭和になってるよねっていうことに気付いて。だったらということで、『ザ・ベストファイブ』っていう、ちょっとダサいけど(笑)誰が見てもザ・昭和だってわかる名前を付けました。

-それぞれ、一押しの楽曲はありますか?

maria:私は全曲好きなんですけど、ライブしてて楽しい、個人的にアガる曲は「多情」。1曲目にやらない?って言うことが多いです。

くりあげ:個人的には「ミラーボール」。自分が作った曲なんですけれど、一番シンセの入れ方にこだわったというか。ストリングのセクションも加えてフレーズ感を研究したり、電子音を増やして「ネオ感」の比率をすごく考えました。平成を生きた人間がどれだけ昭和の音に寄せられているか、というところに注目して聴いていただきたいですね。

ザキチ:「哀ゆえに」が異色な曲で気に入ってます。昭和の曲って、意外なところでスラップが入ってる曲が多いんですよ。たとえば、「天城越え」って実はめちゃくちゃスラップしてる。それを自分でもやってみたかったので、バラード曲でスラップを入れるっていう初めての試みをできて良かったですね。

ハドソン永田:超正直に言うと、レコーディングの時に鬼病んでて、自分の中ではちょっと納得できてないんです。ドラマーとしては0点に近いくらい。だからオススメ曲はありません(笑)。

-昭和の空気感を現代に蘇らせるバンドとして、現在の音楽シーンにどのようなインパクトを与えたいと考えていますか?

maria:シティポップや歌謡曲に影響を受けているバンドが増えてきているとは思うんですけれど、昭和好きな私にとっては全然今風の曲に聴こえてしまうんです。なので、「私達が歌謡曲バンドだぞ!」っていうのを見せ付けたい。令和の歌謡曲といえばRip van catsだ、って言われるような存在になりたいですね

-では最後にバンドとしての目標を教えてください。

maria:FNS歌謡祭だったり、紅白歌合戦だったり……歴史ある、大きな歌番組に出るのが目標です。

アドベントザキチ:テレビにバンバン出られるようになりたいな。

-確かに、豪華なセットでの演奏が映えそうですね。個人的には、キャバレーでのライブも観てみたいです。

maria:キャバレー、やりたいですね。

-共演してみたいアーティストやバンドはいますか?

maria:Mellow Youthさんが小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」をカバーしてる動画をYouTubeで見て、めっちゃカッコいい!と思って。歌い方にも歌謡曲っぽさを感じるんですよね。対バンしたいです。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:Rip van cats

「ネオレトロポップス」を掲げ、新しいのにどこか懐かしい、昭和の歌謡曲を彷彿とさせるNEWジャンルな4人組バンド。

楽曲だけでなく、ライブパフォーマンスやボーカルのルックスまでもが、当時を思い出させるグループとなっている。
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