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映画Grease!こぼれたミルクシェイク!

先日亡くなられたオリヴィアさん追悼番組として、彼女が主演した1978年のミュージカル映画「グリース」がテレビで放送されていました。

有名なのに今まで見る機会がなかったので、初めて視聴しました。古い映画だなあと思いながらもなかなか楽しめました。

作品はミュージカルとして、現代でも劇場で何度も上演される名作。

上演案内のポスターを何度も今まで見ていたのですが、男性出演者たちのポマードを塗りたくったリーゼントな髪型があまりにレトロで敬遠していました。

あれがまさにあの時代を象徴する髪型なのですね (ジョジョ第四部の東形仗助のヘアスタイル)。1978年の映画ですが、時代設定はもっと前の1950年代から1960年代。エルヴィス・プレスリーが大人気だった頃。

リーゼントヘアに特別な思い入れを持つ、1999年ごろの高校生の仗助

この「グリース」、まだ見たことないと言う方はオリヴィア・ニュートン=ジョンという素晴らしい歌手を偲ぶ意味でも是非ご覧になられて下さい。

世代や文化比較など、きっといろんな楽しみ方ができるはず。知らないことを知ることで世界が広がります。

吹き替えよりも英語でみられる方が英語文化のいろんな面白い一面に出会える機会にもなるかもしれません。後で述べる慣用句など、英語で聞いていないと気がつかない。

ウッ、ウッ、ウッー

「グリース」は、英語圏では本当に有名で、現在でも高校のProductionの定番。Priductionとは、学園祭のような学校をあげての催しで、英語圏の学校では、授業の一環として大々的に行われるのです。

わたしはこのミュージカルのクライマックスの歌のサビの印象的なフレーズ、

Oo-oo-oo (ウッ、ウッ、ウッー)

を、全部映画を見たことがなくても、「グリース」と言われると思い出したりしていました。

でもこうして全てを見終えて、他にもたくさんの楽しい歌とダンスに出会えました。本当に良質なミュージカルですね。

You're the one that i want
You are the one i want
Oo-oo-oo, honey

高校生のミュージカル映画といえば、最近見たディズニーの「ディセンダント」シリーズを思い浮かべますが、2018年のDescendant2も、1978年のGreaseも、高校時代という誰にも特別な時間に起きた、普遍的な若者の物語ということで通じ合います。古典となった「グリース」は、他界されたオリヴィアさんとともにいつまでも語り継がれることでしょう。

ディセンダントにもChilという言葉にこだわる歌が出てきますが、グリースのこの歌もまた、こんなふうに始まります。40年のときを経ても、熱くなるよりも若者はChilしていたいのは変わらないのです。ChilはCoolの強調表現のようなもの。若者語ですね。

グリースのダニーの歌い出しの歌詞は、

I got chills, they're multiplying ヤバいぜ、ますますそう感じるよ
And I'm losing control  どうかしてしまう
'Cause the power you're supplying 君から出てくるオーラのせいだ
It's electrifying… 痺れてしまう
筆者拙訳

そしてディズニーチャンネルで世界中でお馴染みのディセンダント2は

You wanna be cool? クールになりたい?
Let me show you how 見せてあげるよ
Need to break the rules 決まりを破るのよ
I can show you how どんなふうにするのか見せてあげるわ
And once you catch this feeling それで一度この感じを掴んだら
And once you catch this feeling
You'll be chillin', chillin', oh カッコいいよ
Chillin' like a villain (chillin') 悪い奴みたいにね
Chillin' like a villain (chillin') 素敵だね、悪役みたいに
Chillin' like a villain (hey)
Chillin' like a, chillin' like a (hey), villain
筆者拙訳

さて、世界中のティーンが大好きなディセンダント。素敵なダンスと今風のリズムに皆さん、魅了されていますが、40年後にはレトロになるのでしょうか。

音楽的内容はともかく、歌われている内容は40年前のグリースと同工異曲。

若者が求めているものはいつの時代も変わらないということ。

人と違うものだと見做されたい、逸脱に憧れるという普遍的な若者心理はcoolやchillを求めるのです。

でも2022年のクールには喫煙が含まれなくなったことは良いですね。グリースはタバコだらけの二十世紀らしさでいっぱいですから。

こぼれたミルクシェイク、コップに還らず

グリースには楽しいナンバーがいろいろあるのですが、ダンスよりもカンタービレに歌われる甘美な歌が好きなわたしは、やはり叙情的なバラードに惹かれました。

映画を英語を聞いていて驚いたのは、有名な慣用表現がユニークな使われ方をしていたこと。これです。

本来はミルクなところを見事に溢れたミルクシェイクに置き換えて非常に自然にこの慣用句を使いまわしています。

本来はこんなの。

No use crying over spilt milk


きっと学校で教わったことがありますよね。死語みたいな慣用句だなと思っていましたが、時にはこのように使われるみたいです。

日本語で、古代中国の故事「覆水盆に返らず」の英訳に該当すると教えられるのですが、わたしは二十年以上も英語世界で暮らしていますが、今まで一度もこの言葉が実際に口にされているのを聞いたことがないのです。

でもようやく見つけました。1978年のGreaseから。少しユーモラスに改良されていますが。

映画の中、カフェテリアにて仲間たちが喧嘩して急に出て行き、そのときにミルクシェイクをそこら中にひっくり返してゆくのですが、美容師学校を退学した、美容師資格を取りたいけど取れなかったフレンシー Frenchie の服の上に溢れたミルクシェイクが飛び散るのです。

服を汚された可哀想なフレンシーに、カフェテリアのおばさんは、咄嗟にこの一言を言い放つのです。

No use crying over spilt milkshake!

ウィットに富んだ頭のいいおばさんです。これこそ、She’s so chill かも笑笑。chill はcool 以外にも、calm、冷静である、落ち着き払ってるという意味もあります。

このあと、この慣用句に導かれるかのように、フレンシーの頭の中の白昼夢な歌が始まるのです。

こぼれたミルクシェイクからこんな風な新しい希望が生まれる。世の中、いいことも悪いこともあるよってことでしょうか。その後のフレンシーが美容師になれたかわかりませんが、若い彼女には、これからの未来が大きく開かれているのです。

群像劇「グリース」の中でも、際立って名場面だなあと気に入りました。

グリーサーたちの物語

映画「グリース」を見ながら、1950年代を舞台にした高校生のドラマとはこういうものかと、不良をきどる若者はいつの時代にもいるものと他人事のように客観的に見て面白かったのですが、不良のスタイルが当然ながら異なります。

coolnessとは規範からずれていてどこか反社会的であること、というのは2022年でも1950年代でも変わりませんが、どうすればCoolであるかは当然ながら異なります。

熱く燃え上がるCoolとは逆のスポーツに、サンディの気をひこうとする主人公ダニーは打ち込んでもみるのですが、この映画の描く「カッコいい」は、Greaseという題名に示されています。

なんで映画のタイトルがGreaseなのかなと考えてみました。

グリースは油だな、そしてクルマ狂いの不良たちを暗喩しているのかと連想もしてみました。

映画では工具を手にして車を重視して改造するシーンもあります。

Automatic, Systematicという語呂合わせから始まるこのナンバー、Greased Lightnin’ です。1950年代に流行った、今ではレトロなブギウギのリズム!


Greaserで修理工、またはアメリカ語スラングで、まさに「暴走族」という意味だとある辞書には記されていました。

頭に塗りつけている油がグリースなので、油を塗りつけた野郎どもで、Greasersというわけですね。

ですので、映画「グリース」の和訳は「不良たち、イカした奴ら、ヤバい連中」といった感じ。

映画のクライマックスで、お嬢様なサンディ(オリヴィア)が、革ジャン着て、清楚なスタイルから派手でどぎつい髪に変え、不良少女な格好をして登場(レトロ笑)。

このイメージチェンジが男どもをノックアウト、つまり瞬殺しますが、まさに映画のテーマは、お嬢様が不良グリーサーのようなストリートスマートさ、ストリートなクールさを知るようになるといったものですね。

不良ダニーはサンディの変貌ぶりに心底打ちのめされて、サンディの前に陥落。ハッピーエンドの大団円を迎えるのです。

杏里の「オリヴィアを聴きながら」

オーストラリアからの留学生役のサンディを演じたオリヴィア・ニュートン=ジョンは、英国生まれのオーストラリアの歌手でした。

わたしはお隣のニュージーランド在住ですので、こちらローカルには特別なイヴェントなどはありませんでしたが、こうしてテレビでGreaseが放映されたりと、周りもこの話題で持ちきりでした。週末にローラースケート場に行くと、かけられている音楽は、オリヴィアの歌で溢れていました。

でも自分はこれまでオリヴィア、実は全然聴いたことはなかったのです。

わたしの知っているオリヴィアは、1980年代の日本の歌手である杏里の名曲の中のオリヴィア。

お気に入りの歌、一人聴いてみるの
オリヴィアは寂しい心、慰めてくれるから

という「オリヴィアを聴きながら」を学生時代によく聴いたものでした。


聴きながら、オリヴィアって誰だろうと調べて、ようやくオリヴィア・ニュートン=ジョンに出会ったという次第。

その後、彼女の歌を特に好きになることはありませんでしたが、一時代を築き上げた偉大なポップシンガーだったのだなと、今では心から評価できます。

彼女の死後なのですが、こうして「グリース」にも出会えました。

オリヴィアのソロのオスカーにノミネートされた、映画の中のこの曲は、やはり普遍的な恋に落ちた心を歌い上げた名曲でしょう。

オリヴィアさん、ありがとうございました。天国でお幸せに。

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