イパネマの娘: アストラッド・ジルベルト追悼
この歌を一度だって聴いたことのない人はいないのでは。
1964年に発表されて以来、ボサノヴァ Bossa Nova というブラジル由来のニューミュージックの代名詞になってきた曲。
つい数年前にピクサーのアニメ「Sing」でも出てきてましたね。
ハツカネズミのマイクが路上でサックス吹いてて、美人のネズミが通りかかると急に彼女のために「イパネマの娘」を演奏するのです。
このシーン、とても好きです。すぐに途切れてしまうけれども。
この曲を英語で歌ったブラジルのアストラッド・ジルベルト Astrud Gilbertoが六月五日に亡くなられたので (でも逝去発表は今日、六月七日) 久しぶりにボサノヴァ、聴いてみました。
こういう歌詞。
わたしが生まれるずっと前の歌だけれども、海水浴場で見かけた素敵な女の子にどうやって声をかけようか、と思案して、笑いかけても、クールビューティーな彼女は全く振り向いてもくれない。
本当に時代を超えた、いつの時代にもあるような情景。
いいですね。
この曲をフルートで演奏しようとしましたが、リズム感の悪かった自分は独特のシンコペーションに乗ることができずに苦労しました。
リズム感は練習しないと身につかないものだと思い知らされた音楽です。
モーツァルトやシューベルトとは全く違った世界のリズムの音楽だったのですから、クラシック一辺倒だったわたしには手が負えませんでした。
今ではどうってことないけれども、楽器演奏初心者だった頃にはこのリズムを心地よく表現するなんて到底無理でした。左手でビートを刻めるのでピアノの方が演奏は簡単だなと分かったのもずっと後年のこと。
軽やかに音楽のアクセントの位置がずれていて、本当にボサノヴァ=新しい波、今でもこの曲を聞いたことのない人には、このシンコペーションの浮遊感は新しい音楽のはず。
ボサノヴァのことはこちらにたくさん書きました。
それくらい、何度も何度もたくさん聞いてきたから。
83年の長寿を全うした彼女が活躍したのはもう半世紀も前のことなので、ずっとずっと昔のことだけれども、彼女は生きたまま伝説になりました。
彼女がいたおかげで、アメリカのハードバップジャズとブラジルのサンバとマンボがフュージョンして、ボサノヴァが世界の音楽になった。
作曲はジョピンやジュアオ(日本語ではジョアン)・ジルベルトだけど、やはりボサノヴァの価値はアストラッドのあの飄々として歌声があってこそ。
わたしが一番好きなのは、ユーモア溢れるワンノートサンバだけれども、まさに彼女はイパネマの娘イメージそのものなのですね。
母語のポルトガル語で歌われているので、さっぱり聞き取れないのですが、ドレミファソラシドと歌う部分以外は、メロディは全て同じ音、つまりOne note。
とても暖かくて懐かしい歌です。
ディバディバという呪文のような言葉が印象的な「美味しい水」。
他にも星降る夜の悲しいコルコヴァートとかもいいですね。静かな星たちの静かな夜という歌。
思い出深い曲を書き出してゆくとキリがありませんね。
アストラッドさんありがとう。いつまでも忘れません。
ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。