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英語の言葉遊び(15): 「スナークを求めて」その六

今回の主役は Barrister

一般には法廷弁護士と訳されて、法廷での訴訟を活躍の場として、家の売買や相続問題などの民事を扱う弁護士 Solicitor とは区別されます。

このように英語では弁護士には二種類あってややこしいし、法廷弁護士は長いので、ここでは単に法律家という呼称を使います。

いずれにせよ、スナーク探索に法律家なんて全く役に立たないように思えますが、スナークがなんなのかがわからないので、そんな彼もどこかで役に立つのかもしれません。

あと、Fit the sixthという各セクションの始めに置かれた言葉ですが、よく調べてみると古英語の詩や歌の部分のことをFitと呼んだそうです。もちろん普通の英語の辞書にはこういう使い方は掲載されていないのが普通です。

動詞の命令形 Fit「合わせよ」という訳は誤訳でした。申し訳ありません。これまでの投稿文の該当箇所は全て訂正しておきました。

古代サクソン語の830年ごろに編纂されたHeliandという詩にはこのFitsで詩が分けられているそうです。古代サクソン語では Fittea と呼ばれました。だから短縮してFit。現代英語のFitとは無関係な言葉なのでした。もともと英語だったわけではないのに、マニアックなルイス・キャロルはこんな言葉を探し出してきて使ったわけです。

おそらく英語話者でも古典英文学を学ばない限り、知らない言葉です。

ここからはFit the sixth は第六部として訳してゆきます。

Fit という古英語

でもFitは今でも時々使われるようです。

このFitを詩の切れ目、詩のセクションの意味で使った例は、このスナーク以外にはほぼないのですが、やはりスナークが好きだったらしいイギリスのダグラス・アダムスは数多くのメディアになった「銀河系ヒッチハイカーガイド」The Hitchhiker's Guide to the Galaxy において、各セクションをFit the First などと呼び、スナークの詩へのオマージュとしています。

でも一番最初に放送されたラジオ版のみで、小説版にはFITという区分は使われてはいません。

エイリアンと友達になって銀河系を旅する話なので、SFや喜劇に興味のある方は是非どうぞ!

さてテキストを読んでみましょう。

Fit the Sixth: The Barrister's Dream
第六部: 法律家の夢

They sought it with thimbles, they sought it with care; 指抜きで探した、慎重さを持って探した
They pursued it with forks and hope; フォークと希望を持って追い求めた
They threatened its life with a railway-share; 鉄道株で命の危険を感じさせた
They charmed it with smiles and soap. 微笑みと石鹸で引き寄せた

毎回この言葉が登場します
スナークの探し方のお手本なのだとか

But the Barrister, weary of proving in vain だが法律家は、ビーバーのレース編みが
That the Beaver's lace-making was wrong, 違法であると証明するという無謀に疲れ
Fell asleep, and in dreams saw the creature quite plain 眠りに落ちて、夢の中で生き物に出会った
That his fancy had dwelt on so long. ずっと思い続けていたそれであることは明白だった

夢の中でブタ!

He dreamed that he stood in a shadowy Court, 彼は薄暗い法廷に立っている夢を見た
Where the Snark, with a glass in its eye, 眼鏡をかけ、ガウンを着て、
Dressed in gown, bands, and wig, was defending a pig ベルトを締め、かつらを被ったスナークが被告人である豚を擁護していた
On the charge of deserting its sty. 豚は豚小屋を逃げ出した罪に問われていたのだ

法律家の夢の中にスナーク登場
でも豚が被告というばかりではスナークが何者なのかわかりません
動物だろうが人だろうが夢の中なのでなんでもありです

The Witnesses proved, without error or flaw, 目撃者たちは間違いなく
That the sty was deserted when found: 豚小屋から逃げ出したと証言した
And the Judge kept explaining the state of the law 裁判官は優しい地下水のような声で
In a soft under-current of sound. 法の威儀について説明していた

The indictment had never been clearly expressed, 起訴内容は明確にされることはなく
And it seemed that the Snark had begun, 豚が何をすべきだったかを
And had spoken three hours, before any one guessed 誰かが見当をつける前に
What the pig was supposed to have done. スナークは話し始めて三時間も話しているように見えた

The Jury had each formed a different view 陪審員団はそれぞれ違った見方をしていて
(Long before the indictment was read), (起訴状が読み上げられるずっと前に)
And they all spoke at once, so that none of them knew 誰もが一斉に喋り、
One word that the others had said. 誰も他の人が言ったことがわからなかった

日本でも裁判員制度という名前で陪審員が判決を下すシステムが導入されていますね
一般市民がランダムに選ばれて裁判を第三者の目から見て判断するという一見非常に公平に見える制度
陪審員が教養と良識を持っているとは限らないので
陪審員として参加したことのあるわたしとしてはこの制度の限界を感じていますが
このお話はずいぶんリアルなカリカチュアに思えます

"You must know—" said the Judge: but the Snark exclaimed "Fudge!" 「あなたがたは知っているはず」裁判官が言った;だがスナークは「馬鹿げてる」と叫んだ
That statute is obsolete quite! 「その条例は相当に時代遅れだ」
Let me tell you, my friends, the whole question depends 「いわせてください、みなさん、問題の全ては
On an ancient manorial right. 古代の荘園法に基づいているということなのです

「豚が逃げ出したら」どうすべきかを
中世の荘園時代の法律で裁いているらしいです

"In the matter of Treason the pig would appear 「反逆の事柄に関しては、豚は
To have aided, but scarcely abetted: 関与していたが、教唆していたいうことはあたらない
While the charge of Insolvency fails, it is clear, 支払い不能の告発が認められていない間、
If you grant the plea 'never indebted.' 「負債を負ったことがない」という訴えを認めるかに関しては明白だ」

ここは裁判官の言葉

"The fact of Desertion I will not dispute;「逃走の事実に関して論争しません;
But its guilt, as I trust, is removed しかし悪意に関しては排除されるべき
(So far as relates to the costs of this suit) (この件に関しての費用に関するかぎり)
By the Alibi which has been proved. アリバイが証明されているのですから

スナークの反論
お金の問題はなんのことだかわかりません

"My poor client's fate now depends on your votes."「私の哀れな依頼人の運命はあなた方の投票にかかっています」
Here the speaker sat down in his place, 議長はこの場にいて
And directed the Judge to refer to his notes 裁判官殿にノートを指して
And briefly to sum up the case. この件を手短にまとめるように命じた

あっという間に結審へと向かいます

But the Judge said he never had summed up before; だが裁判官はそうしたことをしたことがないと言い
So the Snark undertook it instead, だからスナークが代わりにしたのだった
And summed it so well that it came to far more 上手にまとめて
Than the Witnesses ever had said! 証言者たちは言った以上の内容にしたのだった

When the verdict was called for, the Jury declined, 評決が求められたとき、陪審員団は断った
As the word was so puzzling to spell; 言葉を書き綴るのが大変だからだ
But they ventured to hope that the Snark wouldn't mind だがスナークならば
Undertaking that duty as well. その仕事さえもいとわないだろうと彼らはあえて願ったのだった

So the Snark found the verdict, although, as it owned, だからスナークは評決の結果を
It was spent with the toils of the day: 苦難の一日を費やして見つけたのだった
When it said the word "GUILTY!" the Jury all groaned, 「有罪」という言葉が発せられたとき、陪審員団は苦悶した
And some of them fainted away. 幾人かは卒倒した

Then the Snark pronounced sentence, the Judge being quite 続いてスナークは判決を読み上げたとき
Too nervous to utter a word: 陪審員は言葉を発するにはあまりにもびくびくしていた
When it rose to its feet, there was silence like night, スナークが立ち上がった時、夜のような静けさだった
And the fall of a pin might be heard. ピンが一本落ちても聞こえるほどに静まり返っていた

"Transportation for life" was the sentence it gave, 与えられた判決は「国外追放」
"And then to be fined forty pound." 「そして四十ポンドの罰金」
The Jury all cheered, though the Judge said he feared 陪審員は皆喝采を上げたのでした。裁判官は
That the phrase was not legally sound. 言葉遣いが法的に宜しくないことを遺憾に思うと述べたけれども

ノンセンスなのはこの判決を望まなかったのに
陪審員の仕事から解放されることに大喜びなこと
こういう矛盾だらけな世界ですが、陪審員たちの本音でしょう
やっと家に帰れるぞ!ってところでしょうか

But their wild exultation was suddenly checked だが彼らの大変な喜びようは急に差し止められた
When the jailer informed them, with tears, 牢屋番が彼らに涙ながらに告げたのです
Such a sentence would have not the slightest effect, このようは判決はほんの少しも意味をなさない
As the pig had been dead for some years. 豚はもう何年も前に死んだのだから

死んだ豚の裁判を知らずに演じていたわけです
ヴィクトリア時代の裁判への風刺でしょうか
それともただのノンセンス?
法律家を探す伝令は崖を降りてゆく

The Judge left the Court, looking deeply disgusted: ひどく気を悪くしながら陪審員は法廷を去った
But the Snark, though a little aghast, だがスナークは、すこしばかり驚いていたが
As the lawyer to whom the defence was intrusted, 被告の弁護士であるために
Went bellowing on to the last. 最後まで騒々しかった

どんなことを裁判に対して文句を言ったでしょうか
なんで馬鹿げた裁判!

Thus the Barrister dreamed, while the bellowing seemed このように、法律家は夢を見た、怒鳴り声が
To grow every moment more clear: 一瞬ごとに明確になり
Till he woke to the knell of a furious bell, 怒り狂ったベルの音に目を覚ますまで
Which the Bellman rang close at his ear. ベルは伝令が耳元で鳴らしていたのだった

ベルをかき鳴らす!

こうして居眠りしていた法律家は伝令に無理やり起こされたのですが、スナークとは誰だったのでしょうね。かなり良識のある普通の弁護士に思えるのですが。

ここから喚起されることは、スナークとは思い描く人ごとに別の存在になるのでは、ということです。

伝令は、スナークは移動更衣車が好きだと語りましたが、ただ単に彼がそう思っているだけなのかも。

スナークとは求める人にとってそれぞれ異なるのかも。

その昔、「目を覚ませトラゴロウ」という、やはりノンセンスな日本の児童文学がありありましたが、その中に掘り出す人の最も欲しいものが出てくる宝箱というものがありました。

うさぎが行くと宝箱は人参で満たされていて、猿だとリンゴ、クマだとハチミツといったふう。もちろん人喰い虎のトラゴロウの場合は猟師が隠れていましたとさ、というお話でした。

スナークはそんなものなのかも。

次はまだ語られていない銀行家のお話。

帽子(女性や子供向きのボンネット)を作ることができる靴磨きBootsとビリヤード審査員 Billiyard marker は全く物語に関与しませんが、その話はまた改めて最後の回に致します。

あと二回で終了です。読了ありがとうございました。

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