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どうして英語ってこんなに難しいの?: (11) 語学習得とは筋トレである

いまさらながらですが、外国語習得とは、文科系ではなく、むしろ体育会系です。

筋肉のトレーニングこそが外国語を喋る能力の獲得に最も大切。

学術文献を読みこなしたりするには、高い知性と知識が必要です。これは確かに文科系的ですね。

脳の能力を最大限にフル活用する暗記と記憶力の強さは絶対に語学学習に有益で、ある程度までは必要不可欠ともいえます。読書好きな方やいわゆる頭の回転の早い高学歴な方は、インプット能力の高さを誇られる方もいらっしゃいます。

でもアウトプットはどうでしょうか?

日本語を母語とされるのに関わらず、立派な英文を書きこなされる方がたくさんいらっしゃいます。きっと素晴らしいインプット能力をお持ちで、「目で見て、読んで」英文を学び、英語構文を理解して、豊かな英単語を御自身の語彙とされた方でしょう。

その努力には頭が下がりますが、実際に喋る方はどうでしょうか?

日本語は英語とは全く違った発音方法を用いる言語。

書けても話して通じるかどうかは分からない。

英語の音をアウトプットする筋力

英語は強拍と弱拍から成る子音中心の言語。

English is an accented language.

英文には強調される語とされない語が存在します。日本の朗読とは違います。

English is an accented language.

わたしはこのように、太字にした単語を強調して読みます。最後のLanguageも強調してもいいですが、ここで言いたいのは、English=Accented ということ。さらに音節に分解すると

En-glish is an ac-cent-ed lan-guage (英国式)
En-glish is an ac-cent-ed lan-guage (米国式)

となります。この太字の部分のアクセント(強拍)が英語という言語を特徴づけるもの。四つの強い音の中で、En-と-cent(ac-)の部分が最も強調されます。

一方、日本語は強拍をほとんど持たない平板なリズムからできています。口を大きく開いて発声される、豊かな母音に支えられた言葉の音の長さが、日本語らしさを作り出します。

詩にしてみると、五七五七七という同じ長さの音の連なりが日本語の美を表現するのです。音の数が日本語を構成します。

英語もまた、音によってできていますが、英語の音は単語の中に存在する細かな音素。日本語は「子音+母音」というのが基本形。これが日本語の音。でも英語では「子音+母音+子音」または「子音のみ」というのが英語の音素。

だから難しい。

どんなに立派な英文を書けても、立派な音にして喋れるわけではありません。音は物理的に音声として発声されなくてはいけません。

それを可能にするのは、我々の口を動かす筋肉と舌の筋肉の力です。

英会話は筋力なのです。筋トレこそが英会話を上達させるものなのです。

マッスルメモリーとは

日本で生まれ育ったわたしは、大人になってから外国で英語の発音を覚えなおしました。

昭和の昔に日本の公立学校に通いましたので、中学校でも高校でも、英会話の授業などはなく、英語の先生も正しく英語を喋ることのできない方ばかりでした。

大人になってからの正しい英語アクセントの獲得は大変なことでした。

人はだれでもある言語を一つは喋れるものです。

生れたばかりの子供は、母親や家族などの喋る言葉を聞いて育ち、物真似の天才である赤ん坊は周りから聞こえる音を吸収して言葉を覚えます。

まずは耳で聞いて、周りの人の喋る言葉を理解できるようになり、そして周りの音を舌足らずの言葉で模倣します。

赤ん坊の口の筋肉はまだ発達していないので、この段階ではどんな言語の発音能力も獲得できるのですが、やがてどの音を学ぶべきかを選び取り、自分の言葉を決めるのです。

子供が言葉を喋るまでに、平均で1万時間くらい必要なのだそうです。つまり三歳くらいになると大抵の子供は言葉を話し始めます。

ですので、これを根拠に新しい技術を完全に学ぶには1万時間くらいを費やさないと言われます。俗にいう「一万時間ルール」。

楽器を習うにも、スポーツの特別な技術を極めるにも、語学をマスターするにもです。

何かに秀でるには一万時間の練習が必要。
だれでも根気よく一日八時間の練習を四年か五年続けるとピアニストになれます。
でも実際のところ、一万時間は平均的な目安でしかない。
https://blog.thefabulous.co/is-the-10000-hour-rule-wrong/

そして赤ん坊が、ある言語を特別な言語(母語)として喋れるようになるのは、我々が無意識のうちに喋るのに必要な筋肉を鍛えてしまうからです。もちろん、この時間には体育会系な筋トレ以外の文化理解の時間も含まれています。

日本語を喋るのに特化した口の筋肉を作り上げてしまうと、英語の音を発音するのに困難になります。

子供の時に複数の言語を喋りながら育つと、口の筋肉はより柔軟になり、外国語の音も普通に発声できるようになります。

使わない筋肉はやがて退化しますが、一度獲得した筋肉の能力をなかなか忘れることがないのです。

これがいわゆるマッスルメモリー Muscle Memory

筋肉の記憶とも訳されますが、この投稿ではカタカナで語ります。より音に正確に書くと(日本語で英語発音は決して正しく表記できませんが)マスルメムリーみたいなかんじ。

マッスルメモリーは潜在記憶 Implicit Memory です。いわゆる条件反射はマッスルメモリーによって引き起こされます。意識しないで行動するときに咄嗟の行動をとりますが、これはマッスルメモリーに左右されます。

自転車を長年乗っていなくても、以前乗れたのならば、きっと体の筋肉が自転車の操作方法を覚えていてくれます。頭ではできないと忘れていても。こういうものです。

水泳なども同じ。二十年ピアノを弾いていなくても。

語学でも同じ。

意識しないである英単語を喋ると、自然と以前に覚えていた発音の仕方で喋ってしまう、アクセントをつけてしまうという具合。

これが大人になってからの英語学習の最大の障害。マッスルメモリーのため。英語を喋る時、日本人は、日本語にない音を無意識に日本語で利用できるよく似た音で代用しようとします。

Thank you と言いたいときに、英語発音の筋トレを積んでいない人は、きっとこう発音します。Thは難しい!

サンキュー Sank-you [saŋkju:]

文脈からネイティブスピーカーは貴方が何を言わんとしているのかを理解してくれるのですが、海外在住で英語で暮らしてゆく場合や、英語で仕事をされて外国人とよく会話される方がこんな風だと恥ずかしい。

Thを発声するのに、瞬時にカメレオンのように舌の先を突き出して噛んだり、前歯の裏に押し付けたりして発音する訓練を普段からしていないと決してこのThを発音することはできません。

マッスルメモリーとの戦い

つまり、大人になってからの語学学習は、日本語の癖というマッスルメモリーとの戦いです。

英語を仕事などで使われていても、日本語の音しか発音できない人は、長い間の習慣から正しい英語の発音はできません。

馴れると英語っぽくは喋れます。

イントネーションやら英文のリズムのパターンがつかめると、一般会話には、Th や R や L や F や V や B が曖昧でも、文脈から通じてしまいます。

また語尾の子音に母音を付けてしまっても通じたりもします。曖昧母音は英語のリズムに乗れば、自然とできるようになれても、どれかどの音かを自覚しないといつまでも喋れないし、日本人特有の子音に必ず母音を引っ付けて発音するという悪癖を克服できません。日本人英語がカタカナ英語と呼ばれるのは、子音だけを母音なしで発音できないから。

CryとかDryとかRhythmとかTwelfthsとかThreeとか。

Consonant Cluster という子音連結と呼ばれる、母音が子音と子音の間に入らない音が、きっと日本語話者には一番難しい。でもできるようになると、カタカナ英語卒業への第一歩です。

できないと、英語を使って教職に就いたり、ビジネスで相手を説得したり、人の上に立つことは難しい。英語世界では、どれだけアクセントのない美しい英語を喋れるかで、社会的地位や名声を得られるかに直結します。

アクセントのない言葉を喋らない人はいない。事実です。でも外国語アクセントな英語は通じない。

アクセントは我々の個性。

でもアクセントが強すぎると、相手に理解されないし、社会的に認めてもらえない。

アメリカに住むならば、アメリカ英語のアクセントの獲得は絶対不可欠。南部と北部でもアクセントが違う。西部と東部でも。

イギリス英語でもオーストラリアとシンガポールでは、アクセントが大分違ってくる。もちろんスコットランドとヨークシャーでも。ニュージーランド英語もオージー英語といろいろ違う。

日本人の場合、日本語訛りのある英語でも全然かまわない。でもきちんとした日本人訛り(日本人の個性)のある、正しい英語を喋る必要がある。

インド英語は慣れていないと聞き取りづらいですが、彼らは大抵、RやLを問題なく区別できるし、訛っていても、イントネーションがおかしくても、音声的に英語っぽい英語を喋ります。だから通じるのです。

でも日本人英語は英語の音素を発声できないから通じない。例えると、ラリルレロが欠如した日本語みたいに不自然。そういう日本語を聞くとイライラして聞いていられない日本人は続出するはず。英語の世界でも同じ。

つまり、ThやRやLやFやVやBの発音の仕方を筋トレして、キチンと発音できるようになること。そして英語のリズムとイントネーションを学ぶこと。

これをしないと、日本語話者の英語は通じない。

英会話の世界では、Accent Reduction とかAccent Modificationと呼ばれる母語のアクセントを弱める学習をします。これこそが筋トレなのです。

ジムに通って、定期的に自分に与えられた、または自分で決めたプログラムを続けると、必ず体に筋肉がついてきます。腹筋は割れてくるし、力こぶも目に見えるようになり、体つきに明らかに変化がみられるようになります。

習慣と努力の力。筋肉は裏切らないのです。

語学でも同じこと。

鏡の前で自分の口の動きを確認する。自分の英語発音を録音して聞いてみて、思うような音になるまで何度も何度も繰り返す。好きな映画俳優のセリフを完全に同じアクセントと発音に真似してコピーしてみる。こういう地道な発音練習は筋トレと同じ。

腕立て伏せ30回、腹筋背筋20回を一セットにして朝晩に毎日するといった筋トレのように、毎日早口言葉を20回繰り返すとか。

thの練習に最適な早口言葉

英語を正しく発生するのに必要なのは、ジムでコーチについて筋トレをするように(目的を決めてプログラムに取り組みます)、英語発音の先生を見つけて、決められたプログラムに取り組むことです。

オンラインで先生はすぐに見つかります。自己投資を惜しまれる方は無料の動画も山のように利用できます(ある程度の知識と経験がないと何から始めるべきかわからないと思うのですが)。

語学能力はローリクスハイリターンな自己投資。語学が出来て損することはない、一生物の自己投資ですよ。

筋トレの主目的はまず、古い間違った英語発音をするマッスルメモリーをなくしてしまうこと。

古い記憶を Unlearn するためのトレーニングが必要なのです。喋ると口の中の筋肉が鍛えられます。口をたくさん動かして、舌を疲れさせて、喉を震わせて、時には腹筋も。

日本語とは違う音を作り出す筋肉を鍛えて下さい。

毎日やれば、筋肉は裏切りません。きっとネイティブに近い発音を喋れるようになりますよ。

語学は筋トレ

よく言われるように、外国語を学びたければ、学びたい外国語を話す恋人を作ればいい、というのは確かに正解です。

でも国際結婚をされている方の全てが語学に堪能でないことを、わたしはよく知っています。

旦那様が英語のネイティブスピーカーなのに、彼女の英語はいつまでもカタカナ英語だな、という方にもしばしばお会いします。お優しい旦那様は、カタカナ英語をいつまでも喋る奥様の英語に慣れてしまって、彼女の英語をあえて直してやろうとはしないのです。

英語ネイティブの配偶者が最良の英語の先生であるわけではないのは当たり前なこと。

英語を喋る人が傍にいたとしても、ネイティブスピーカーのだれもが外国人に英語を教える能力があるわけではないのです。日本人の誰もが外国人に日本語を教えることができないのと同じです。

だから基礎が大事。

英語発音の基本をちゃんとした人から(理想的には英語の発音を教える資格を持った方)教えてもらってから、筋トレですよ。

正しくない練習は良い結果に結びつかぬばかりではなく、最終的には悪い癖を付けたりするなど、残念な結果に終わることもよくあるものです。

キチンと基礎を習ってから。あとはそれこそ一万時間を目指して頑張りましょう。一万時間には、会話できるといいですが、こんなにもあなたの英語の練習に付き合ってくれる人は滅多に見つかりませんので、英語の本を音読するといいですよ。

わたしは英語音読三十分を日課にしています。声を出して読むことに意味があります。アウトプット目的なのですから。

まとめ:発音矯正に必要なこと

  • 練習ばかりが全てではない。努力と根性だけでは克服できない。

  • 発音筋トレには、ちゃんとした発音トレーナーが必要。

  • 量よりも質。近代的スポーツトレーニングが科学的なように、発音矯正も科学的に達成できます。

  • 毎日することが大事。目的や目標を定めて、ルーティーンにして続けましょう。


  • 引用した写真は素晴らしい無料画像を提供してくれる Unsplash から借りてきました。皆さんもぜひご利用ください。

Thank you very much[ ˈθæˈŋkju: ˈvɛɹi mˈʌtʃ ]

ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。