プッチーニの小さなワルツ:Piccolo Valzer
といわれていることを聞いたことはありませんか?
偉大なオペラ作曲家とは次の三人。
18世紀のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (1756-1791)
19世紀のジュゼッペ・ヴェルディ (1813-1901)
20世紀のジャコモ・プッチーニ (1858-1924)
例えば、「魔笛」や「ラ・トラヴィアータ」や「蝶々夫人」は、世界中のどこかで今日も(週末ならば)必ず上演されているのです。
20世紀の音楽評論家の黒田恭一 (1938-2009) は、1950年代から1970年代の世界の主要歌劇場(スカラ座・メトロポリタンなど)で上演された作品を分析して、ほぼ八割であると著書で述べています。
あとの二割は、ビゼーの「カルメン」と、ヴァーグナーやリヒャルト・シュトラウスやマスネーの一部の作品というわけです。
偉大なオペラ作曲家三人の中で、最も新しい時代に生きたプッチーニは、現代のブロードウェイ・ミュージカルに非常に近づいたような、分かりやすくて美しい半音階のメロディにあふれたオペラをたくさん作曲しました。
という人でさえ、数々の美しいアリアを聞けば感動してしまうし、きっとどこかで聞いたことがあるはず。
今日はそんなプッチーニの素敵な小品のご案内。
ピアノのためのホ長調の小さなワルツ。
この曲、
と思われませんでしたか?
若い頃のプッチーニの代表作といえば「ラ・ボエーム La Bohème」。
実はこのピアノ小品は、オペラ第二幕の有名なアリアの原曲。
オペラが書かれる一年前の1894年に、ある雑誌の募集に応じて書かれた作品でした。
若くして亡くなられたパトリシア・ヤネシュコヴァさんの美声をお聴きください。
歌の歌詞は:
自分自身のはち切れんばかりの艶やかさがどれほどに他人を魅了するのかを知っている彼女、美貌と若い肢体を武器にして、お金持ちのパトロンのお金で生活している彼女なのですが、この歌は以前の恋人である貧しい画家のマルチェッロへの当てつけの歌でもあるのです。
パトロンに買ってもらったドレスを美しく着飾って軽薄そうな彼女、実は心優しい女性であることがあとで分かります。
肺病で死んでゆくヒロイン・ミミのことを思いやり、溢れんまかりの若さの美しさもまた儚いもので、自分も病気になればミミのようになってしまうということを自覚しているような彼女。
このような彼女の本当の心への認識をもって改めてアリアを聞くと、自身の美しさを誇らしげに歌うアリアが悲しげなものにさえ思えてくるのです。
1894年作曲の「小さなワルツ」はその後、大ヒットしたオペラの中で再使用されたことを作曲家が隠したかったのか、正式には出版されずにお蔵入りになります。
なので「小さなワルツ」は忘れられた音楽となってしまい、百年後の1995年になってようやく再発見されたのだとか。
古くから知られていた曲ではなく、20世紀の終わりになって急に脚光を浴びるようになった音楽なのでした。
だからでしょうか、「小さなワルツ」の楽譜はなぜかIMSLPでは利用できないのが残念です。
イタリアのピアノ音楽を日本に紹介してくださっているピアニストの関孝弘さんが校訂された全音出版の楽譜にはこの曲は含められています。
19世紀末に書かれた音楽そのものには著作権は存在しませんが(もしかしたら最初に楽譜を掲載していた雑誌出版社に著作権があるかもしれません)関さんが校訂された楽譜には著作権が存在します。
別の楽譜では、MuseScoreから有償でダウンロードも可能です。
ピアニシモで始まる綺麗なメロディライン。
アップビートとシンコペーションで揺れる三拍子。左手が柔らかに刻むリズムが優雅さをこの上もなく醸し出すのです。
ピアノ演奏中級者レベルで楽しめます。上級者にはアンコールピースとして最高の一曲です。
「イタリアピアノ名曲選集」にはプッチーニの別作品以外にも、ヴェルディやヴェリズモオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」の作曲家マスカーニ、ベルカントオペラ「ルチア」の作曲家ドニゼッティの書いたピアノ小品などが収められています。
良い週末をお過ごし下さいませ。
ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。