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アニメになった児童文学から見えてくる世界<17>:文明力の変化、技術的革新の歴史

またアニメ世界名作劇場ですが、全部で26作もあるシリーズ、半分以上は見たのですが、いまだ見たことのない有名な作品もいくつかあります。

今回見ることにしたのは、1996年に地上波のアニメとして放映されて、デジタル放送がテレビの世界を席巻しようとしていた頃、世界名作劇場の人気は低迷して、シリーズとしては唯一の打ち切り作品となった「名犬ラッシー」です。

映画やテレビドラマで既によく知られていた人気作品でしたが、アニメは原作には書かれていない、1930年代のイギリスの寂れた炭鉱町での主人公ジョン少年と仔犬時代のコリー犬ラッシーとの出会いから丁寧に描かれているのです。

今こうして見直すと、いかにも世界名作劇場らしい善意に満ちた優しい人たちに出会えて、安心して見ていられますが、テレビ放映時にはマンネリだと見做されたのでしょうね。

美しい映像に心温まる物語。

原作の中心となるはずの旅の部分が放送打ち切りのために全て描かれなかったそうですが、それでもこんなにも暖かな世界を美しく描き出している作品には21世紀の今日には出会うことのできないことでしょう。

まだ見始めたばかりですが、注目すべきは、やはり描かれた時代。

1930年代のイギリスということで、19世紀終わり頃の「赤毛のアン」の植民地時代のカナダや「小公子セディ」の大都会ニューヨーク、「ポリアンナ」や「あしながおじさん」の20世紀初頭のアメリカ、また19世紀終わり頃の「小公女セーラ」の冷たいロンドンとは全然別の世界なのです。

こういう年表があるので参考になります。

名犬ラッシーは、誰もが知る他の名作よりはのちの時代の作品。父親が働く炭鉱の情景は「天空の城ラピュタ」のパズーの住む寂れた鉱山街とデジャヴですね。

ジブリ作品の舞台は19世紀後半ですが、黄昏の大英帝国の地方の鉱山はああして徐々に廃れていったのでした。

第二次大戦の後にも、バレエに青春をかける少年の人生を取り上げた名作実写映画「ビリーエリオット」にも、やはり廃れた鉱山と鉱夫たちの貧しい暮らしが描かれています。

さて寂れた鉱山といっても、新時代を代表する、さまざまな生活必需品が登場します。感心したのはこれです。

第二話より

お分かりでしょうか?

手動式洗濯機。

洗濯機の原理は単純なものです。汚れ物を濡らして、ぐるぐる樽の中で回して揉んで、そして脱水するというもの。現在では電動式が当たり前なのですが、電気が全ての家庭に安価で行き届く以前はこのような手動式の洗濯機が存在したのです。

アニメから思わず新しい知識を得られました。

日本の昔話では表面に凸凹が彫られた洗濯板に汚れた衣類などを押しつけて平たい洗濯桶の中で洗うなどしていました。

確か18世紀前半が舞台となっていた「少女コゼット」はそんなふうに洗濯をさせられていました。コゼットのミゼラブルな19世紀フランスから百年、イギリスの炭鉱町には手動式洗濯機が普及していたのです。

そして興味深いなと調べると、なんと現代にも電気を使わない洗濯機はきちんと売られていて、エコな生活用品として現役なのだそうです。

わたしには大変な驚きでした。災害で停電などに見舞われたり、電気の利用できない土地や、あえて電気を使わない生活を選択される方には確かに重宝されることでしょう。

ジョン少年の使っている木製らしい洗濯機とはデザインが違いますが、基本原理は全く同じ。

イギリス式の絞る部品はないようですが、最新式は洗って濡れたレタスを乾燥させる、野菜乾燥機の仕組みがもちろん取り入れられています。

さて古くは1920年台のレミゼラブルから飛行機が当たり前のように空を飛ぶ「ポルフイ」や「ブッシュベイビー」の1950、1960年代、「ティコ」の1990年代という現代までを舞台とする世界名作劇場。

水汲みするコゼットやカトリや幼いアンの世界にはなかった水道も、「赤毛のアン」のグリーンゲーブルスには手動式水汲みがあり、ポリアンナは確か蛇口から出る水を飲んでいました。

こういう時代の変遷を楽しめるのは愉快です。世界名作劇場は時代劇なのです。

誰だったか失念しましたが、蝋燭の火以外の明かりである電気スタンドに驚いている子もいましたね。

手紙から電報へ、そして電話に。21世紀の現代ではオンラインミーティングにボイスチャットにテキストメッセージ。

20世紀には馬車が姿を消して、あれほどに人類に尽くしてくれた動物の馬はもはや身近な動物ではなくなったという寂しい事実にも気付かされます。交通手段も変わりました。馬車から自家用車、産業文明の産物たる石炭式機関車。

いろんな作品に失われてしまった時代の情景に出会うことができます。わたしは歴史的映画やドキュメンタリーが好きでいろんな生活史の動画などを見るのが好きなのですが、20世紀前半は自分には盲点でした。

18世紀19世紀の洗濯にはこんな動画もありますよ。

興味を持って探しさえすればなんだって検索して見つけて来られるのは本当に素晴らしい。わたしはリサーチャーなのですが、そうではなかったアナログ時代の研究者にはほとほと頭が下がりますね。キーワード検索ではなく、カードカタログを探って資料を探したり。

自分が生まれる前の遠い過ぎた時代へと思いを馳せるのが、最近の休日の楽しい過ごし方です。自分の知らない世界へのきっかけはいろんなものから得られるものです。

地球に優しいエコ嗜好から、手動洗濯機ばかりではなく、いろんな文明の力もアナログに回帰してゆくようにも思えます。

わたしの娘は乗馬を習っていますが、馬は美しい。

車なんかの何倍も素敵な乗り物ですね。

ニュージーランドの馬農場
この子はまだ生後数ヶ月の子馬、かわいい

恋人からの手紙は数日かかって遠方から届いた方がロマンチック。地球の反対側から瞬時に届けられるメッセージにはロマンがありません。アナログな手紙は素敵です。

利便性ばかりでは生活からは潤いが失われます。

アニメ「名犬ラッシー」、全てを試聴した後に実写映画版も見た上でまた考察を書いてみたいですね。犬を飼いたいなっという思いを改めて深くしました笑。

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