どうして英語ってこんなに難しいの? (26): カタカナだらけの星の名前
天体観測のための望遠鏡を高校生の息子のために買いました。
一万円ちょっとの値段なので、安物すぎることもなく、高級すぎることもない、初心者が楽しむにはちょうど良いくらいのもので150倍まで見えます。
観測した日(1月26日)は満月だったので、地元でよく星が見えそうな場所に日暮れごろから(午後8時37分)から望遠鏡を構えて星が出てくるのを待っていました。
ちなみにわたしが観測した場所は、南半球のニュージーランドの北島の真ん中に位置する中都市。
やはりそれなりの人口が住んでいて、住宅街は明るすぎるので、市の観光名所となっている巨大な公園の原っぱに行きました。
そして芝部の上で星たちとお月様が出てくるのを待ちました。
昼間は雲一つない晴天だったので、日が暮れても観測日和でした。
星座は変化する?
地球は惑星なので常に動いています。
地球は球形ですので、同じ星座でも、惑星であるがために動き続けている地球から見える不動の星座は、地球という星の丸さのために見る角度が変わります。
星座の形が変わりませんが、見る場所によって、地球の傾きゆえに星座の向きが変わって見えるのです。
つまり、南半球と北半球とでは星座の見え方が違うのです。
例えば日本の冬の夜空を飾るオリオン座は、南半球のニュージーランドの見え方ではほぼ真逆。
こちらでは棍棒を握っている狩人オリオンは逆立ちしているわけです。
こういう星座表を手に入れてきて観測に臨みました。
ニュージーランドの星座
日没してからしばらくすると、こんな感じで宵の明星(金星)が見えてきました。
私の古いアイフォンのカメラの質は良くないので鮮明には撮れません。悪しからず。
英語ではVenus。
惑星の名前
英語式だとカタカナで書いて、ビーナスではなく、ヴィーナス。
Vは下唇を前歯で軽く噛んで息を前に吐き出すように発声しましょう。
英語は前歯がないと正しく発音できません。
日本語とは違い、英語は口の中の前歯や舌やのどの奥など、いろいろな口の中の部位が使用されます。
訓練しないと日本語発音とは全く違うので、トレーニングしないと発音できないのは当然なのです。
発音記号はアメリカ式でvíːnəs。もちろん美の女神が由来ですね。
日本語の惑星の名前は古代中国の陰陽五行説の「水金火木土」に由来しています。ヨーロッパ語ではローマ神話の神様由来です。
水星=Marcury「マーキュリー」。ギリシア神話の伝令の神ヘルメス。hˈɚːmiːz(米国英語), hˈəːmiːz(英国英語)。カタカナで無理やり書くと「ハーミーズ」。
金星=Venus。美の女神。ギリシア神話のアフロディテ。英語で書くとAphrodite/æfrədάɪṭi/で、発音がややこしい。形容詞のaphrodisiacで「催淫の、媚薬の」という意味。ヴィーナスは性欲の女神なのです。
火星=Mars「マルス、マーズ」。ギリシア神話の軍神「アーレス」。英語で書くとこれまだ発音がややこしい。/é(ə)riːz(米国英語), ɑ:rz(英国英語)/。カタカタで無理やり書くと、エリーズともアリーズともアールスとも読める。
木星=Jupitar「ジュピター」。ギリシア神話の主神で雷神のゼウス。/zúːs(米国英語), z(j)úːs(英国英語)/。つまりズーズまたはジューズ。
土星=Saturn「サタン、サトゥルヌス」。/sˈæṭɚn(米国英語), ˈsætɜ:n(英国英語)/。ギリシア神話で巨人族クロノス。自分は子どもに殺されると予言されて、生まれてきた子どもを喰らったジュピター、ネプチューン、プルートゥらの父親。大地の神、農業の神ともされます。ちなみにカタカナで書けば同じなのですが、悪魔という意味のサタンSatanは英語ではセイタンséɪtʌn で別の言葉です。
海王星=Neptune「ネプチューン」。海神ポセイドン/pəsάɪdn/。より正確に書くとポサイドンですね。
天王星=Uranus「ウラノス」。発音は/jˈʊ(ə)rənəs(米国英語), ˈju:rʌnʌs(英国英語)/。Uの発音は大抵死因の/j/を伴ってユーとなります。「ユーラナス」。国名のウクライナ Ukraine も英語では「ユークレイン」。ウラノスは大地母神ガイアの夫で、サターン(クロノス)の父、つまり、ジュピター(ゼウス)の祖父。占星術のイメージを音化した英国のホルストの「惑星」組曲では「Magician=魔術師」です。
冥王星=Pluto「プルートゥ」。1930年に発見されたとても小さな星。なので1914から1917年にかけて作曲されたホルストの惑星組曲に含まれていないほど。そのころには未発見だったので。なのですが、その後、冥王星と同じ規模の大きさの星たちが太陽の周りを幾つも回っていることが確認されたので、2006年になって冥王星は|矮星《わいせい》Dwarf Starに格下げされて、「惑星」と呼ばれる資格を失った悲運の星。名は体を表すのか、ギリシア神話の冥王のように忌避された存在のようで哀れ。ギリシア神話のハデスと同じですが、英語ではHades へイディーズ。惑星から格下げされたことは大変に衝撃的なニュースでしたので、いろんな英語の子供のための歌が作られています。次の歌を聴くと、月よりも小さな星なのだと覚えることができます。
今回の観測では、満月が目当てだったので、土星を探したりなどはしませんでした。冥王星などは小さすぎて見えません。
150倍の望遠鏡だとものすごく小さい土星の輪も見ることも可能ならしいのですが、それはまだ次回に。
金星以外の惑星は素人には一等星のように簡単には見つかりません。
さて、しばらく待っていると、様々な一等星が姿を現し始めます。
カメラの質が良くないので、写真掲載はなし。
ですが、問題にしたいのは星の名前です。
オリオン座の場合
さて最初に話題に挙げたオリオン座ですが、三ツ星のベルトの部分があまりに特徴的。
星座などに興味のない人でも夏の空(日本の冬)にすぐに見つけることができます。
三ツ星から上下斜めにひときわ輝く星が二つもあります。
煌煌と輝く一等星のリゲルとベテルギウスです。
でも英語名は Rigel に Betelgeuse。
英語発音は日本語のカタカナからはかけ離れたものなのです。
カタカナで書くと「ライジェル」に「ビートルジューズ」。
星座表を見ながら、なんて発音するのだろうと悩みました。
そして星座表に並ぶ星の名前、ほとんど固有名詞の発音がわからないことに気が付きました!
実は問題にしている星座「オリオン」さえも長い間知りませんでした。
この有名な星座、ある映画を見て、英語名はカタカナとは全く別の発音なのだと学びました。
アメリカ映画「メン・イン・ブラック(1997年)」
この映画で、Orionは「オライオン」/ərάɪən(米国英語), əʊˈraɪʌn(英国英語)/ だと初めて知りました。Rの発音ですよ。
Iは「アイ」といつだって読むわけではなく、「イ」であることも多い。だから知らないと正しい発音がわからないことが多いのです。英語は規則正しくないことの方が多いのですから。
まったくカタカナ語は難しい。
日本語の英語由来のカタカナ語は英語を喋るときに、すべて学びなおさないといけないのです。
著名な星座たちの名前
雄牛座(Bull)に雄羊座(Ram)や魚座が天の一番上に見えるのが夏空(北半球の冬空)。
夜空は本当に動物だらけ。
どうして動物ばかりなのかについては、狩猟対象の獲物が神様として祭り上げられたなどと諸説あります。
天空という丸い円盤の半円を時間ごと季節ごとにぐるぐると廻ってゆくのが黄道十二宮。
黄道とは地球から見て太陽が動いているように見える半円のこと。
日の出から日が沈むまでの太陽の軌跡上の夜の空に浮かぶ十二の星座。
星占いに使われるのでよく知られていますよね。
後述するように黄道十二宮の星座すべてを私は暗記していますが、それらの有名な星座の名前も英語では大変に発音が難しい。
ちなみに英語ではギリシア語の名前がそのまま英座に採用されていて、Ariesという星座名を仮に知っていても、Ariesが羊だとは知らない人もいるくらいです。でもAriesを知っていても一文の得にはならないのかも。
これらの名前が役立つのは、一般的に女性雑誌の星占い欄を読む時くらいでしょうか。
でも信仰などを持たない人たちの間では、Fortunetelling, Astrology、Holoscopeはやはり大人気です。どれも日本語で星占いと訳されていますが、やはり違いがありそうです。
Aries(白羊宮)/é(ə)riìːz(米国英語), ˈeri:z(英国英語)/ アリエスではなく、英語では「エリーズ」。
Taurus(金牛宮)/tˈɔːrəs(米国英語), ˈtɔ:rʌs(英国英語)/ タウラスではなく「トーラス」
Gemini(双子宮)/dʒémənìː(米国英語), ˈdʒemʌˌnaɪ(英国英語)/ ふたご座は「ジェミナイ」か「ジェミニ」。
Cancer(巨蟹宮)これはそのままキャンサーでいいですね。
Leo(獅子宮)獅子座はレオではなく、「リーオウ」/líːoʊ(米国英語), líːəʊ(英国英語)/
Virgo(処女宮)おとめ座は「ヴァーゴウ」/vˈɚːgoʊ(米国英語), vˈəːgəʊ(英国英語)/
Libra(天秤宮)ライブラではなく「リーブラ」/líːbrə(米国英語), ˈli:brɑ:(英国英語)/
Scorpio(天蝎宮)さそり座は「スコーピオウ」/skˈɔɚpiòʊ(米国英語), skˈɔːpi`əʊ(英国英語)/
Sagittarius(人馬宮)は射手座。「サジテリアス」は必ずしもケンタウロス、英語のCentaurではないのですが、しばしばケンタウロスのの射手として描かれています。/s`ædʒəté(ə)riəs(米国英語)/
Capricorn(磨羯宮)/kˈæprɪk`ɔɚn(米国英語), ˈkæprʌkɔ:rn(英国英語)/。キャプリコーンは山羊座。
Aquarius(宝瓶宮)/əkwé(ə)riəs(米国英語), əˈkwɛərɪəs(英国英語)/。アクウェリアスを水族館 aquarium(アクウェリアム)と混同してはいけません。水瓶は命の水を与えてくれる存在でWater Carrierと「水を運ぶもの」という意味なので、視覚化される場合、人で表現されることも水瓶として描かれることも。人の場合はしばしば女性像として表現されますね。
Pisces(双魚宮)。魚座はピスケスではなく「パイシーズ」。/pάɪsiːz(米国英語), ˈpaɪsi:z(英国英語)/。ああ英語って難しい。
次に一等星の名前。
一等星はFirst magnitude star。Magnitudeが等級なので二等星はSecond Magnitude Star とかA star with the second magnitudeと呼べますね。
Sirius (Canis Major) 大犬座のシリウス。最も明るい星。/ ˈsɪr i əs /
Canopus (Carina) 竜骨座のカノープス。天空で二番目に明るい星。英語読みはカノウパス/ kəˈnoʊ pəs /
Alpha Centauri (Centaurus)。ケンタウルス座のアルファ星。アルファ・ベータ・ガンマという数え方は個性がなくて面白くない。これも南半球の星座だからでしょうか。
Arcturus (Boötes)。牛飼い座のアークトゥルス、大角星。/ɑɚkt(j)ˈʊ(ə)rəs(米国英語), ɑːktjˈʊər(ə)rəs(英国英語)/。星座の牛飼いは
/ boʊˈoʊ tiz /Vega (Lyra) 琴座のヴェガ。Lyraはライラ。星の名前もヴィガまたはヴェイガ / ˈvi gə, ˈveɪ- /
Capella (Auriga) 御車座のカペラ/ kəˈpɛl ə /
Aldebaran (Taurus)ーおうし座のアルデバラン。とてもよく目立つ。/æˈldɛbɝʌn(米国英語), æˈldebɜ:ʌn(英国英語)/。英語はカタカナとほぼ同じだけれどもアクセントがおかしいと通じないでしょう。「アルダバラン」
Rigel (Orion)=オリオン座のリゲル(紹介済み)
Betelgeuse (Orion)=オリオン座のベテルギウス(紹介済み)
Procyon (Canis Minor)=小犬座のプロキオン。プロウシオン / ˈproʊ siˌɒn /
Achernar (Eridanus)。エリダヌス座のアケルナル。神話の川の名前から。
Antaeus (Scutum)=盾座のアンタイオス。英語だとアンティアス/ ænˈti əs/ 。17世紀に作られた新しい星座の星。一等星なのに古代には星座の一部ではなかったとは、星座の命名などいい加減なものですが、実は新しい星座はほとんど大航海時代にヨーロッパ人に発見された南半球の星座。船尾座や画家座や三角座など。
Alpha Crucis (Crux)。南十字座(南十字星・サザンクロス)のアルファ星。この明るい星のおかげで南十字星は見つけやすい。Cruxはクラクス。
Acrux (Crux)。南十字座のもう一つの一等星。エイクラクス / ˈeɪ krʌks /。
Fomalhaut (Piscis Austrinus)。秋空を飾る南の魚座フォーマルハウト。/ ˈfoʊ məlˌhɔt, -məˌloʊ /。英語ではフォーマルホト、またはHを発音しないでフォーマロウ。
Alpha Andromedae (Andromeda)。アンドロメダ座のアルファ星。
Mirach (Andromeda)。アンドロメダ座のベータ星ミラク。
Spica(Virgo)。おとめ座のスピカとして有名ですが、英語名は/ ˈspaɪ kə / スパイカ。
Pollux(Gemini)。ふたご座のポルックス。でも英語は/ˈpɑlʌks(米国英語), ˈpɑ:lʌks(英国英語)/なので、ポラクスまたはパラクス。
Deneb (Cygnus)。白鳥座のデネブ/ ˈdɛn ɛb /
Regulus (Leo) 。獅子座のレグルス/ ˈrɛg yə ləs /。英語ではレギュラス。
現在知られている星座の総数は88もありますが、多すぎるので今回の紹介では割愛します。
南半球の星座の多くは17世紀の大航海時代に西洋人に発見されたために新たに加えられたというのは自分には面白く、新しい学びでした。
もちろん南半球の非西洋人には知られていた星ばかりです。
南半球の星たち
さて、今回はNZの星空そのものよりも、星の名前にこだわりましたが、ニュージーランドの田舎に行くと、ものすごい星空に出会うことができます。
実際に訪れてご自身で星空を楽しまれてください。小国の島国ニュージーランドはほ物価が高く、生活するには必ずしも住み心地が良いとは言えませんが、自然の美しさだけならば、間違いなく世界の最も美しいと呼ばれる他国の土地と世界一を競い合うほどです。
輝かしい天の川はそんなニュージーランドならではの自然の素晴らしさ。
ニュージーランドの南島では運が良ければオーロラを見ることもできます。
テカポ湖ではオーロラを見るツアーも組まれています(天候次第なので必ず見れるという保証はありませんが)。
ですが、どこにいてもニュージーランドでは根気よく夜中まで待てば、南十字星は見えると思います。国旗にも書かれているくらいですからね。
でも十字は普通は横向きに見えるのです。
都会の空を眺めていても誰もが星に興味を持つほど、星は美しくもありませんが、都市部の光汚染のない、澄んだ空気の土地から眺める夜空は乙なものです。
特徴のある輝く星たちを線でつないで、神話物語と関連付けた古代人の気持ちもよくわかるようになりますよ。
まとめ:
英語がネイティブ並みにできるようになったと思っても、自分が親しんでいない分野になると、まったく喋れない、理解できない。
聞き取りや発音能力、文法力や文章校正能力ではなく、純粋に自分の見知らぬ分野については英語では全くの無知なので、すべてを一から覚えなおさないといけない。
わたしが星座などについての基礎知識を得たのは、日本の小学生だった頃。
私の星座の知識はすべて日本で得たもので、星の名前もほとんどカタカナでしか理解していませんでした。
しかも黄道十二宮の名前を覚えたのも、小学生のころに少年ジャンプに連載されていた車田正美の「聖闘士星矢」から得たカタカナ知識から(笑)。
別に好きな作品ではなかったのですが、1980年代のジャンプ全盛期の連載作品なので話題についてゆくためだけに読んでいました。でも斜め読みしていただけでも星座の名前をたくさん覚えることができてよかったと思います。
ギリシア神話の知識も中学生のころに神話の本を読んで覚えたので、やはりこの分野の英語知識もあやふや。外国文学を読むのに必要な知識は個別で得てはいましたが、体系的に勉強してみたのは今回が初めてでした。
ディズニー映画の「ハーキュリース(ヘラクレス)」を見ると、あまりに自分の知識の中の神々の名前が英語とは異なることに驚きます。
オリンポス十二神の名前もいろいろ異なります。
ああ英語って難しい、というか日本語のカタカナは難しい、というか、語学って果てしがない。
外国語を学んで日常語や仕事の言葉に困らなくなっても、普段は使わない特殊な知識は日本語で学んだまま。基礎教養を英語以外で学んでいるので、英語で基礎教養的な内容を喋るのは恐怖ですね。知ってるけど、発音できないってことが日常茶飯事です。
外国人の名前や土地の名前などはあまりにも難しい。
すべて覚えなおさないといけない。
いつまでたっても英語語彙を学ぶ旅は終わりそうにありません。
ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。